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12章 ワイバーンが拉致りました

142. どのように殺してやろうか

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 ぎええぇぇぇ!!

 爬虫類系はたいてい同じような鳴き声をあげるものだが、ワイバーンの威嚇にルシファーが口角を持ち上げた。ヤンより少し小さいが、魔狼程度の大きさはある。ルシファーに掴みかかろうとした魔物へ、ついっと指先を向けた。

「おまえが余の宝をさらったトカゲか」

 姿を見るなり蘇った怒りに、口調が仕事バージョンになる。魔族が纏まりきれなかった頃、殺伐とした魔物や魔族との戦いが続く中で覚えた話し方だった。相手を見下した言葉が口をつき、ワイバーンへ向けた指先が右から左へ動く。

「罪は死んであがなえ」

 風が動いて、真空の刃がワイバーンの翼を切り刻む。風を受ける皮膜を破られたワイバーンが悲鳴を上げながら、錐もみ状態で落ちた。下は深い滝つぼがあり、一度沈んだワイバーンが浮かび上がる。溺れてじたばた足掻くワイバーンを魔力の網ですくって、近くの地面に下ろした。

 溺れる程度の楽な死を、この魔物に許す気はない。

 リリスを抱いたまま近づき、威嚇するワイバーンの喉を炎で焼いた。呼吸が苦しくなったワイバーンがのたうち、暴れる振動が地面を揺らす。仲間のピンチに駆けつけた他のワイバーンが、ルシファーめがけて攻撃を仕掛けた。

「邪魔だ」

 大きめの結界に阻まれて近づけないワイバーンの群れを、魔王は嫣然とながめる。結い上げた髪の一部がほつれ、整った顔に影を落とした。

「ルシファー様」

「手出しは許さぬ」

「はっ」

 ワイバーンの群れに気付いて駆けつけたアスタロトの右手には、愛用の虹色に輝く剣が握られている。魔法で切り裂くより剣を振るうことを好む側近は、主君の命令に一礼して剣を消した。

「どのように殺してやろうか」

 焼いても切り刻んでも気が済まない。しばらく生かして吊るしておこうか。生きたまま食われるよう、他の魔物にくれてやるか。それでもこの怒りを鎮めるには足りぬ。

 見つめる先で苦しむワイバーンの動きが緩やかになった。窒息しつつあるのだろう。近づいたルシファーがワイバーンに治癒を施し、呼吸が出来るよう火傷を軽減させた。

「そうだな……あと数十回はから、トカゲらしくみじめな最期を迎えさせてやる」

 何度も死の寸前まで突き落として回復させ、気が済んだら魔狼やミノタウロスにくれてやればいい。彼らは生きたまま、ワイバーンを引き裂いて餌とするはずだ。ついでに他のワイバーンも道連れにするか。

 一度で死なせるなど、腹の虫が収まらなかった。大切なリリスの立后りっこうを邪魔した群れを、一匹でも討ち漏らす気はない。

「陛下」

「なんだ?」

「立后の儀がございます。このワイバーン達は私がお預かりしますので、一度リリス嬢とお戻りに」

「そうだな」

 ワイバーンの処罰はいつでも出来る。アスタロトが預るというなら、決して殺さぬよう預けても構わないが……釈然しゃくぜんとしなかった。しかし一度で殺さないのなら、かなり時間がかかってしまう。

 迷うルシファーの純白の髪がひょいと引っ張られた。

「ん? どうした、リリス」

 穏やかな声で、愛娘に微笑む。さきほどワイバーンを攻撃した姿が嘘のようだった。

「パパ、このトカゲ食べれる?」

 きょとんとして、毒気が抜けたルシファーが後ろの部下を振り返った。貼り付けた笑みで本心を隠したアスタロトへ、そのまま尋ねる。

「ワイバーンは食べられるのか?」

「……食したことはございません」

 遠まわしに「食べるな」と伝えられ、頷いたルシファーは腕の中の幼女に返した。

「食べない方がいいな。ヤンは平気かも知れないから、お土産にしようか」

「うん! リリスがやる!!」

 奇妙な言葉に首をかしげたルシファーは、次の瞬間、言葉を失った。ルシファーの結界を内側から突き破ったリリスの魔法が、飛んでいるワイバーンを直撃する。以前に見せた雷を応用したものだが、焼け焦げて落ちるワイバーンを凝視した。
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