上 下
100 / 1,397
8章 魔王陛下の嫁取り騒動勃発

97. 多すぎる候補にうんざり

しおりを挟む
「この中からお選びください」

 城門から見下ろす丘は見渡す限り女性達が並んでいた。幼女から老婆まで、年齢も種族もバラバラの集め方だ。手当たり次第『未婚の女』に分類される魔族を集めたような光景に、ルシファーは溜め息を吐く。

「……なぜ、余が嫁を選ばねばならぬ」

 混乱しすぎて、口調が魔王陛下バージョンになったルシファーだが、この中から選べといわれても全員同じに見える。分類は出来る。角の有無、翼の有無、魔力量、種族などで分類は出来るが、嫁を取る気もないのに選べるわけがなく……。

「全部いやだ」

 どれでもいいと言ったが最後、どれを押し付けられるかわからない。愛せないのに嫁がせるのは、相手に気の毒だと首を横に振った。選ぶことが出来ないなら、選ばなければいい。とんでもない理論で断ったルシファーは、その場でしゃがみこんだ。

 項垂うなだれたルシファーの姿に、大公達は顔を見合わせる。それぞれの派閥から申し出のあった未婚女性を並べたのだが、逆に『嫁なんて要らない』とねさせてしまった。

「全部断る。絶対に嫌だ。嫁は要らない!」

 きっぱり言い切ると、踵を返して城門を降りた。今回は嫁候補を選択させるつもりだったので、リリス嬢が保育園に通っている時間を利用した公務として時間を割いたが、完全に裏目にでた。拗ねたルシファーは執務用の仮部屋に閉じこもり、黙々と書類整理を始める。

 まだ右手が痛むが、あの女性達の相手をするなら痛みを我慢する。不満を隠そうとせず不機嫌な表情で書類を引き寄せ、目を通して署名を行う。てきぱきした姿は、それだけルシファーが怒っている証拠だった。

「陛下……」

「次の書類」

 そうとするベールの声を切り捨てて、次の書類を捲る。内容を確かめて署名をした。次の書類は修正線を引いて書き直し、そのまま返却箱に積む。書類以外見ようとしないかたくなな態度に、ベールは諦めた様子で部屋を辞した。

「どうですか?」

「書類以外を無視します」

「そこまで怒らせましたか」

 溜め息をついたアスタロトは、城門の外の騒ぎを思い浮かべる。魔王の嫁取りは、国民がこぞって注目する大イベントとなっていた。騒ぎが大きすぎて、候補だけでも絞らないと収集がつかない。だが今のルシファーに無理押しすれば、魔王を降りると言い出しかねなかった。

「ベール、あなたは来春の即位記念祭の準備をしてください。そこで王妃候補の発表をします」

 問題の先延ばしのようだが、アスタロトは何か秘策があるようだ。口元が僅かに笑みに歪んでいる。後を任せることにしたベールが、ふと窓の外の日差しに気付いた。かなり傾いている。

 保育園はお迎えが始まっている頃だろう。リリス嬢のことを忘れるはずはないが、今日のルシファーが外出して無事に帰ってこれる保証はない。

「陛下に、今日のリリス嬢のお迎えは私が行きますと伝えてください」

「伝えますが、納得しませんよ」

「囲まれてもみくちゃにされても構わなければどうぞ、と」

 にっこり笑ったベールが嫌味を残して消える。確かに城門の外はまだ女性達がひしめいており、魔力を封じて転移が使えないルシファーが通れば、格好の的だった。

「仕方ありませんね」

 どんより重い空気を纏った執務室のドアを開きながら、アスタロトは書類整理に勤しむルシファーの前に立つ。不機嫌さを隠そうとしない魔王へ、転移による送迎の提案を土産に声をかけた。

「陛下、リリス嬢のお迎えにいきましょう」
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」 「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」  公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。  理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。  王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!  頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。 ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2021/08/16  「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過 ※2021/01/30  完結 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処理中です...