99 / 1,397
8章 魔王陛下の嫁取り騒動勃発
96. 使う予定は未定のお部屋
しおりを挟む
「王妃様のお部屋です」
「ああそう………へ?」
ベールの説明にうっかり同意しかけて、慌てて身を乗り出した。膝の上でリリスが手を伸ばし、お菓子を掴んでいる。落ちないように支えながら、ルシファーは図面をよく確かめた。
魔王の私室と面している扉は4つだ。クローゼットやバスルームへ続く扉、廊下へ出る扉、左側のリリスの部屋に繋がる扉、そして今回の『王妃の間』の扉だった。
「使わなくても構いませんが、諸侯らから希望が出ています」
独身でも今まで何も言われなかった。しかし不死かと思うほど寿命が長い魔王といえど、命の危険はあると感じた諸侯らは次世代を担う魔王の子を望んだのだ。ルシファーを頂点とする王政を築いた手前、ベールやアスタロトも無碍に却下できなかった。
また、ルシファーがリリスを可愛がって手放さないことも影響している。自分の御子が出来たら、きっと輪をかけて可愛がるだろうと貴族達は期待した。そのためにはまず、妻が必要なのだ。魔王陛下に娘や姪を献上できたら、その名誉は計り知れない。
たぶんに打算を含んだ考えであっても、間違った計画ではないため側近も反対しづらかった。複雑な心境で眉をひそめるベールと、不機嫌さを隠そうともしないアスタロトがそれなりに言い争った結果だとしたら、ルシファーも無視は出来ない。
「作るのはいいぞ。たぶん使わないけど」
膝でクッキーを頬張るリリスが大きく両手をあげた。ルシファーの髪を左手で掴み、右手で首に触れる。ルシファーが覗き込むと、彼女は大きく手を振り回しながら指差す。
「このお部屋も、リリスの!!」
「……王妃の部屋、ですよ?」
言外にリリスに与えると、他の諸侯が黙っていないと匂わせたベールに対し、アスタロトはぽんと手を打った。何か案が浮かんだらしい。
「そうですね。リリス嬢が陛下に嫁げばいいのです」
「………オレにロリコンの称号を授ける気か?」
呆れたと肩を落としたルシファーの首に手を回したリリスが、ぎゅっと抱きついた。クッキーの油がついた手で白い髪を撫で回す。
「不満ですか? これほど溺愛しておいて?」
アスタロトがにっこり笑うと、予言めいた言葉を吐いた。
「おそらく王妃の部屋はリリス嬢が使いますよ。いつになるか、わかりませんけれど」
気圧されたベールは無言を貫き、ルシファーは苦笑いする。その膝の上で、リリスだけがアスタロトの言葉を真剣に聞いていた。黒髪を撫でたアスタロトへ、彼女はあどけない顔で笑う。
魔王が知らない場所で、奇妙な密約が成された瞬間だった。
「魔王陛下は王妃の間を作られた」
「妻を娶るおつもりだ」
「我が自慢の娘を……ぜひに!」
色めきたつ貴族の思惑をよそに、当事者に嫁取りの意思はない。引越しの荷物もないため、そのまま自室で寛ぐルシファーの元へ、美しい少女達が入れ替わり立ち代わり現れた。
兎耳と尻尾が愛らしい少女が紅茶を運んでくる。入り口でアスタロトに撃退された。
「お疲れ様です」
美しい顔に浮かべた笑顔に見惚れた瞬間、失格の烙印を押される。次に来た子供は結婚適齢期に達していないが、整った容姿をしていた。アスタロトを魔王と勘違いしたところで、お帰りいただく。アスタロト曰く、旦那となる男の顔も知らないのは許せないらしい。
3人目は妖精族系で背に羽があった。入り口でガードするアスタロトをすり抜けて転移したところで、部屋に仕掛けられた魔法陣に捕獲される。羽虫のように外へ捨てるアスタロトの容赦のなさが光った。ちなみに転移防止魔法陣の罠は、書類から逃げるルシファーのためにベールが特製した一品だ。
続いた4人目の角がある女児に、ルシファーが溜め息を吐く。
「なんで少女以下なんだ?」
オレの嫁候補として送り込まれてるんだよな? まっとうな疑問へ返って来たのは容赦ないアスタロトの指摘だった。
「陛下がリリス嬢を抱っこして歩くので、幼女趣味だと思われていますね。自業自得です」
「いやいやいや。娘を抱いてるだけで、ロリコン疑惑はおかしいだろ!」
反論はむなしく部屋に響いたが、開いたドアの隙間から話を聞いた貴族達は、次こそ魔王ルシファーを射止めるべく一族の未婚者をかき集めることになった。
「ああそう………へ?」
ベールの説明にうっかり同意しかけて、慌てて身を乗り出した。膝の上でリリスが手を伸ばし、お菓子を掴んでいる。落ちないように支えながら、ルシファーは図面をよく確かめた。
魔王の私室と面している扉は4つだ。クローゼットやバスルームへ続く扉、廊下へ出る扉、左側のリリスの部屋に繋がる扉、そして今回の『王妃の間』の扉だった。
「使わなくても構いませんが、諸侯らから希望が出ています」
独身でも今まで何も言われなかった。しかし不死かと思うほど寿命が長い魔王といえど、命の危険はあると感じた諸侯らは次世代を担う魔王の子を望んだのだ。ルシファーを頂点とする王政を築いた手前、ベールやアスタロトも無碍に却下できなかった。
また、ルシファーがリリスを可愛がって手放さないことも影響している。自分の御子が出来たら、きっと輪をかけて可愛がるだろうと貴族達は期待した。そのためにはまず、妻が必要なのだ。魔王陛下に娘や姪を献上できたら、その名誉は計り知れない。
たぶんに打算を含んだ考えであっても、間違った計画ではないため側近も反対しづらかった。複雑な心境で眉をひそめるベールと、不機嫌さを隠そうともしないアスタロトがそれなりに言い争った結果だとしたら、ルシファーも無視は出来ない。
「作るのはいいぞ。たぶん使わないけど」
膝でクッキーを頬張るリリスが大きく両手をあげた。ルシファーの髪を左手で掴み、右手で首に触れる。ルシファーが覗き込むと、彼女は大きく手を振り回しながら指差す。
「このお部屋も、リリスの!!」
「……王妃の部屋、ですよ?」
言外にリリスに与えると、他の諸侯が黙っていないと匂わせたベールに対し、アスタロトはぽんと手を打った。何か案が浮かんだらしい。
「そうですね。リリス嬢が陛下に嫁げばいいのです」
「………オレにロリコンの称号を授ける気か?」
呆れたと肩を落としたルシファーの首に手を回したリリスが、ぎゅっと抱きついた。クッキーの油がついた手で白い髪を撫で回す。
「不満ですか? これほど溺愛しておいて?」
アスタロトがにっこり笑うと、予言めいた言葉を吐いた。
「おそらく王妃の部屋はリリス嬢が使いますよ。いつになるか、わかりませんけれど」
気圧されたベールは無言を貫き、ルシファーは苦笑いする。その膝の上で、リリスだけがアスタロトの言葉を真剣に聞いていた。黒髪を撫でたアスタロトへ、彼女はあどけない顔で笑う。
魔王が知らない場所で、奇妙な密約が成された瞬間だった。
「魔王陛下は王妃の間を作られた」
「妻を娶るおつもりだ」
「我が自慢の娘を……ぜひに!」
色めきたつ貴族の思惑をよそに、当事者に嫁取りの意思はない。引越しの荷物もないため、そのまま自室で寛ぐルシファーの元へ、美しい少女達が入れ替わり立ち代わり現れた。
兎耳と尻尾が愛らしい少女が紅茶を運んでくる。入り口でアスタロトに撃退された。
「お疲れ様です」
美しい顔に浮かべた笑顔に見惚れた瞬間、失格の烙印を押される。次に来た子供は結婚適齢期に達していないが、整った容姿をしていた。アスタロトを魔王と勘違いしたところで、お帰りいただく。アスタロト曰く、旦那となる男の顔も知らないのは許せないらしい。
3人目は妖精族系で背に羽があった。入り口でガードするアスタロトをすり抜けて転移したところで、部屋に仕掛けられた魔法陣に捕獲される。羽虫のように外へ捨てるアスタロトの容赦のなさが光った。ちなみに転移防止魔法陣の罠は、書類から逃げるルシファーのためにベールが特製した一品だ。
続いた4人目の角がある女児に、ルシファーが溜め息を吐く。
「なんで少女以下なんだ?」
オレの嫁候補として送り込まれてるんだよな? まっとうな疑問へ返って来たのは容赦ないアスタロトの指摘だった。
「陛下がリリス嬢を抱っこして歩くので、幼女趣味だと思われていますね。自業自得です」
「いやいやいや。娘を抱いてるだけで、ロリコン疑惑はおかしいだろ!」
反論はむなしく部屋に響いたが、開いたドアの隙間から話を聞いた貴族達は、次こそ魔王ルシファーを射止めるべく一族の未婚者をかき集めることになった。
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる