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7章 療養という名の隔離

94. パパのご飯とった

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 どこにいても襲われるのなら、魔王城にいた方が気が楽だ。欠伸を噛み殺しながら、ルシファーは朝日眩しい城門前に顔を見せた。

「パパ、ななつ寝た!」

「リリスは賢いな! 凄いぞ!! 天才だ」

 小さな手で七晩経ったと示すリリスを抱いて、朝の散歩を始める。日課なのだが、やはり習慣は襲撃の予定として狙われやすく、今日も新たな敵が現れた。

 ベタ褒めする魔王ルシファーの後ろで、ヤンが敵を排除していく。今回はキュクロプスという二足歩行で一つ目の巨人族だった。だが小山ほどの灰色魔狼フェンリルに勝てるわけがない。棍棒を振り上げるキュクロプスの足を爪で切り裂き、次々と倒した。

 苦戦している様子はないので、すべてヤンに任せる。すたすた歩くルシファーの腕で、首にしがみ付いたリリスが新たな襲撃者を見つけた。空を旋回しながら下降のチャンスを狙っている。

「パパ! おっきい鳥さん!」

 無邪気に指差した空に目を向けると、コカトリスがいた。ときどきドラゴンと間違われるが、竜族にとって魔物であるコカトリスと一緒にされることは屈辱らしい。大きな竜の翼を広げたコカトリスは雄鶏だ。蛇に似た大きな尻尾も、地上からドラゴンと勘違いされる原因のひとつだった。

「あれはコカトリスだな」

「こかとりす?」

「毒の息を吐くが、まあ実害はない」

 簡単そうに断じるルシファーは、毒がきかない身体を誇るでもなく呟く。首に回した手でぺちぺちと肌を叩いたリリスが、興奮した様子でコカトリスを指差した。

「あれ、おーんってしたら落ちる?」

 先日の遠吠えのことだろう。魔力を込めたヤンの遠吠えを真似たリリスの声は、大量の魔力を射出する砲台に似ていた。見よう見まねの遠吠えだったが、まさかの魔物撃退という実績つきだ。しかもアスタロトの説明によると、ルシファーの魔力と波動が似ていたらしい。

「当てれば落ちるぞ」

 問題は、空中を自由に飛ぶコカトリスを直撃できるかどうか。しかしリリスは無邪気にホーンを作ると、ウォーンと遠吠えした。まあ当たらないだろうと高を括っていたルシファーだが、頭上でバンッと激しい音がして落ちた焼き鳥に顔を引きつらせる。

 コカトリスは大型の鳥類魔物に該当するため、危険を察知したヤンが飛び退いた。びっくりしたルシファーとヤンの前で、数匹のキュクロプスが下敷きになっている。

 焼け焦げたコカトリスの口は、紫色の毒々しい吐息が零れていた。毒を吐こうと息を吸ったところを撃ち落されたようだ。恐れるべき威力だった。

「あたった! パパの御飯とった」

「……あ、ありがとう」

 食材をゲットしたと得意げなリリスに悪びれた様子はない。というか、魔物食に慣れすぎだった。先日のドラゴン種の卵に味をしめた彼女は、次の獲物としてコカトリスを選んだのだ。彼女にとって夕食用の焼き鳥に過ぎないらしい。

 人族って、こんなに狩猟本能あったっけ?

「我よりリリス嬢の方が強いですぞ」

 謙遜ではなく、困惑した顔でヤンが戻ってきた。リリスが落としたコカトリスが潰したキュプロクスが最後の敵だったらしい。獲物を横取りされたヤンは、目の前の焼きコカトリスをつついて死亡を確認している。

「見事な焼き鳥ですな。持ち帰りましょう」

 ヤンが手馴れた様子でコカトリスを咥える。引きずりながら歩くヤンの後ろで、ルシファーは今朝も襲撃された現実に眉をひそめていた。

 もしかして、魔力が戻るまで朝の日課はやめたほうがいいのか? だがリリスも室内ばかりじゃ退屈だろうし……狩りが好きなら自由にさせるべきか。

 悩みながら戻った城で、リリスが飛び降りて走り出す。慌てたルシファーが追うと、アスタロトが彼女を抱き上げた。興奮したリリスが、必死に獲物をアピールする。

「でっかい鳥! パパのご飯、焼き鳥した! リリスがっ」

「さすがは陛下のリリス嬢です、偉いですよ」

 多少言葉の順番が入れ替わっているが、アスタロトに意味は通じたらしい。追いついたルシファーが手を伸ばすと、リリスは飛び移るように首に手を回した。

「パパ」

「リリスは強いな」

 くすくす笑うルシファーが頬ずりすると、リリスは嬉しそうに焼き鳥コカトリスを振り返る。ヤンが置いたコカトリスは、庭先で香ばしい匂いを放っていた。

 昼食は鶏肉のソテー、夕飯は串刺しの焼き鳥だったのは余談である。
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