76 / 1,397
6章 まさかの女勇者誕生?!
73. だってパパは魔王だろ?
しおりを挟む
「可能性は……あります」
「みな、勝手に人族だと決め付けていましたね」
「……そうだね」
目から鱗だ。この場で一番足手纏いな彼女が、一番的確な指摘をした。
各々が考え込んでしまったため、そっと逃げようとしたベルゼビュートだが、足に絡んだ鎖を忘れていた。つんのめって顔から転ぶが、大きな胸から着地する。お陰で顔は無事だった。派手な音と散らばった書類に、ベールが苦笑いして首を横に振る。
「わかりました。もう貴女は帰って構いません」(いても邪魔ですから)
「やったわ!」
容赦ない言葉に他の文官ならしょげるところを、無邪気に喜ぶベルゼビュート。ルキフェルが鍵で鎖を外すと、そのまま外へ逃げていった。あれでも戦闘能力は高く、意外なほどえげつない方法で敵を排除する。大公としての最低限の役目を果たしているため、呆れながらもベールは彼女が散らかした書類を拾い始めた。
隣ですでに書類を揃えるアスタロトが、決意したように立ち上がる。
「確認は早いほうがいいでしょう」
人族と魔族の間に生まれた子は、自動的に人族に分類してきた。理由は母親の種族だ。ハーフとなる子は父親が魔族、母親が人族である場合がほとんどだった。逃げ出した魔族が人族を襲うことでハーフが生まれる。事例としては魔族の男が人族の女を襲うパターンが一般的だった。
リリス嬢も同じだと考えたため、彼女の魔力が高いことを承知の上で人族に分類したのだ。その分類が間違っていたとしたら……。
「お願いします」
ルシファーに怨まれるかも知れない嫌な役を自ら引き受けたアスタロトへ、ベールは申し訳なさそうに眉尻を下げた。複雑そうな顔をしたルキフェルが、ベールの手をそっと握る。
「魔族ならいいのですが」
それならば、左手の紋章はただの痣で済む。鮮明になったとしても、人族でなければ問題はなかった。なぜか『勇者は人族からしか生まれない』のだから。
リリスを膝の上に乗せて、好きに食事をさせる。最低限のマナーはアスタロトが教えたため、ぼろぼろ零したり、食べ物を握って遊ぶこともなくなった。
「パパ、あーんして」
「あーん」
器用にフォークに刺したミニトマトを差し出すリリスから、ぱくりと頬張って笑顔を向ける。嬉しそうに自分もミニトマトを食べようとするが、上手に刺せないらしい。ころころ転がるミニトマトを、横からルシファーはフォークで捕まえた。
「ほら、あーん」
「あぁん」
小さな口にいっぱいトマトを頬張ったリリスが、もぐもぐと口を動かす。大きすぎたのか、いつまでも口を動かす頬は膨らんでいた。
「リリスは可愛いなぁ」
意図せずに言葉がこぼれだす。ごくんと飲み込んだリリスが、今度はグリーンピースに挑戦した。さすがに小さすぎて難しいのではと身を乗り出すと、
「パパは、めっ!」
手出し禁止と言い渡されて、再び椅子に落ち着く。膝の上で足をぶらぶらさせながら、リリスは必死にグリーンピースを突いていた。
「ねえ、リリス」
「なぁに?」
「もし……勇者になれるなら、リリスは勇者になりたいか?」
何度も読み聞かせたお気に入りの本を取り寄せる。リリス用の書棚から引っ張り出した本は、繰り返し開いたため背表紙が傷んでいた。毎晩のようにせがんだ本を見て、リリスは大きな赤い瞳を瞬く。
「どうちて?」
可愛すぎる、噛んだ! リリスの些細な仕草に悶えながら、ルシファーは鼻血をハンカチで押さえながら答える。
「パパは魔王だろ? もしリリスが勇者になるなら考えないといけないから」
子供相手だが誤魔化さずに説明する。幼子であっても、リリスは理解すると思う。いつもより低いルシファーの声に、沈んだ雰囲気を感じ取ったリリスが首を横に振った。
「やーよ。リリスはゆーしゃに、なんないもん」
「でもこの本好きだったろ?」
彼女がお気に入りの最後の挿絵、保育園の入り口にも彫刻された女勇者と魔王の戦いのシーンを開いて見せた。すると、じっと絵を見たリリスがくしゃりと顔を歪ませる。
「だって、パパがまけるの……やだ」
「みな、勝手に人族だと決め付けていましたね」
「……そうだね」
目から鱗だ。この場で一番足手纏いな彼女が、一番的確な指摘をした。
各々が考え込んでしまったため、そっと逃げようとしたベルゼビュートだが、足に絡んだ鎖を忘れていた。つんのめって顔から転ぶが、大きな胸から着地する。お陰で顔は無事だった。派手な音と散らばった書類に、ベールが苦笑いして首を横に振る。
「わかりました。もう貴女は帰って構いません」(いても邪魔ですから)
「やったわ!」
容赦ない言葉に他の文官ならしょげるところを、無邪気に喜ぶベルゼビュート。ルキフェルが鍵で鎖を外すと、そのまま外へ逃げていった。あれでも戦闘能力は高く、意外なほどえげつない方法で敵を排除する。大公としての最低限の役目を果たしているため、呆れながらもベールは彼女が散らかした書類を拾い始めた。
隣ですでに書類を揃えるアスタロトが、決意したように立ち上がる。
「確認は早いほうがいいでしょう」
人族と魔族の間に生まれた子は、自動的に人族に分類してきた。理由は母親の種族だ。ハーフとなる子は父親が魔族、母親が人族である場合がほとんどだった。逃げ出した魔族が人族を襲うことでハーフが生まれる。事例としては魔族の男が人族の女を襲うパターンが一般的だった。
リリス嬢も同じだと考えたため、彼女の魔力が高いことを承知の上で人族に分類したのだ。その分類が間違っていたとしたら……。
「お願いします」
ルシファーに怨まれるかも知れない嫌な役を自ら引き受けたアスタロトへ、ベールは申し訳なさそうに眉尻を下げた。複雑そうな顔をしたルキフェルが、ベールの手をそっと握る。
「魔族ならいいのですが」
それならば、左手の紋章はただの痣で済む。鮮明になったとしても、人族でなければ問題はなかった。なぜか『勇者は人族からしか生まれない』のだから。
リリスを膝の上に乗せて、好きに食事をさせる。最低限のマナーはアスタロトが教えたため、ぼろぼろ零したり、食べ物を握って遊ぶこともなくなった。
「パパ、あーんして」
「あーん」
器用にフォークに刺したミニトマトを差し出すリリスから、ぱくりと頬張って笑顔を向ける。嬉しそうに自分もミニトマトを食べようとするが、上手に刺せないらしい。ころころ転がるミニトマトを、横からルシファーはフォークで捕まえた。
「ほら、あーん」
「あぁん」
小さな口にいっぱいトマトを頬張ったリリスが、もぐもぐと口を動かす。大きすぎたのか、いつまでも口を動かす頬は膨らんでいた。
「リリスは可愛いなぁ」
意図せずに言葉がこぼれだす。ごくんと飲み込んだリリスが、今度はグリーンピースに挑戦した。さすがに小さすぎて難しいのではと身を乗り出すと、
「パパは、めっ!」
手出し禁止と言い渡されて、再び椅子に落ち着く。膝の上で足をぶらぶらさせながら、リリスは必死にグリーンピースを突いていた。
「ねえ、リリス」
「なぁに?」
「もし……勇者になれるなら、リリスは勇者になりたいか?」
何度も読み聞かせたお気に入りの本を取り寄せる。リリス用の書棚から引っ張り出した本は、繰り返し開いたため背表紙が傷んでいた。毎晩のようにせがんだ本を見て、リリスは大きな赤い瞳を瞬く。
「どうちて?」
可愛すぎる、噛んだ! リリスの些細な仕草に悶えながら、ルシファーは鼻血をハンカチで押さえながら答える。
「パパは魔王だろ? もしリリスが勇者になるなら考えないといけないから」
子供相手だが誤魔化さずに説明する。幼子であっても、リリスは理解すると思う。いつもより低いルシファーの声に、沈んだ雰囲気を感じ取ったリリスが首を横に振った。
「やーよ。リリスはゆーしゃに、なんないもん」
「でもこの本好きだったろ?」
彼女がお気に入りの最後の挿絵、保育園の入り口にも彫刻された女勇者と魔王の戦いのシーンを開いて見せた。すると、じっと絵を見たリリスがくしゃりと顔を歪ませる。
「だって、パパがまけるの……やだ」
31
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる