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4章 報復は計画的に、忘れずに

51. ゆっくりしすぎました

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 言われた通りそっと触れて、毛皮の気持ちよさに抱きつく。腹の辺りにルシファーの腕が回っているため、逆さまにセーレの鼻筋に抱きついたリリスが、頬ずりしている。

「なに、この羨ましい状況。リリスから抱きついて頬ずりとか……あれか? 毛皮か? 毛深ければいいのか」

 ぶつぶつと不審なことを呟くルシファーだが、ひとしきり撫でると満足したリリスがのけぞった。慌てて抱き締めて身体を密着させると、ぎゅっと小さな拳に襟を掴まれる。先ほどから眠かったのもあり、ぐずり始めた。

「やぁ……るー、るー」

「はいはい。抱いててやるから寝んねしろ」

 慣れた仕草で寝かしつける主の姿に、セーレは疑問の眼差しをアスタロトへ向けた。先ほどから近くの魔狼を椅子代わりにして寛いでいる彼は、フェンリルの視線に気付くと肩を竦める。

「見てのとおり、すっかりお気に入りでして。我々も手出しさせてもらえません」

 一時期は甘やかしすぎてどうなるかと思ったが、ベールの機転で保育園へ通わせて方向修正を行った。苦労は尽きないが、最近リリスに対して周囲の反応が変わってきた。にこにこよく笑う彼女に対し、可愛いと評判が急上昇中なのだ。乱暴な行為が落ち着いたのも影響しているだろう。

「飽き性の我が君が……1年以上も」

「なんだ? お前ら失礼だぞ」

 憮然としたルシファーの言葉に、アスタロトは平然と言い返した。

「今までの行動を省みてください。初代セーレの時なんて2ヵ月もたなかったでしょう」

「……そうだっけ?」

 とぼけるルシファーは、腕の中で寝入ったリリスにキスを落とす。

「ところで我が君、今回は人族の都を落とすと聞きましたぞ」

「いやいや、都じゃなくて砦な。あと後ろの街か」

 都だと人が多くて被害が大きくなり過ぎる。以前の偽者勇者騒動もあるが、あまり事を荒立てる気はなかった。どうせあと数年で勇者が現れるに決まっている。決着は勇者とつければ済む話なのだ。

「セーレ、攻め込む準備は整ったのでしたね」

 ぐるりと見回した先に魔狼が少ない。どうやら配置についているらしい。ルシファーも同様に見回すと、残っていたセーレを撫で回した。

「お前は本当に真面目だな」

「我が君が一族のために動いてくださるのです。協力は当然です!」

「初代はもっとルーズだったぞ」

 苦笑いしながら、よくじゃれついて森を破壊した初代セーレを思い出す。なぜか彼はルシファーにもらった名を大切に息子へ引き継いだ。そのため、2代目の息子に名付けなかったほどだ。いつの間にか慣習となり、フェンリルの総領が『セーレ』と呼ばれるようになった。

「この戦が終わったら、息子に跡を譲るつもりなのです。その際は」

「わかってるよ。オレが息子にセーレと名付ければいいんだろ? もう7回目か」

 代替わりのたびに、儀式のように親子揃って顔を見せるフェンリル達を思い出し、ルシファーがからりと笑った。

「お前の息子は凄いな。オレの顔を踏みつけたぞ」

「は? ……ご無礼を」

 詫びようとしたセーレの尻尾がくるりと巻かれる。耳がぺたんと垂れた姿は、図体が大きいだけに気の毒になるが、どこか可愛らしい。

「あれは陛下が悪いのでしょう。そろそろ動きますよ。日が暮れてしまう」

 眉をひそめたアスタロトの指摘に上を見上げれば、確かに日が傾きかけていた。わかったと動き出したルシファーの腕で、リリスがごしごしと目を擦る。

「リリス、起きたのか?」

「ルー、アシュタ、わんわん」

 ルシファー、アスタロト、セーレの順に指差して得意げなリリス。微笑ましい仕草に頬を緩ませたルシファーだが、「なんでオレだけルーのままなんだ?」と変化がなかった呼び名に複雑な思いを噛み締めた。
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