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2章 魔王様のお姫様は悪戯ざかり

26. 最近、紐遊びを覚えました

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「いつまで笑ってる」

 ぶすっとした態度でアスタロトに八つ当たりするが、純白の髪に絡んだ積み木がすべてを台無しにしていた。リリスは最近リボン遊びがお気に入りで、結べるようになったのが嬉しくて仕方ない。細長い紐状のものをみると、何でも絡めて結んでいた。

 常に傍にいるルシファーの髪は長く細いので、よい遊び道具だった。問題があるとすれば、彼女が覚えた結び方が固結びと呼ばれる、解きにくい方法だということ。

「使い込みも報告を受けていましたが、片付きましたので……話を本題に戻します。人族侵攻の噂を消す必要があります。陛下自身で攻めていただくのが一番早いのですが」

「それだと過剰戦力じゃないか(面倒くさいし)」

 本音が透けるルシファーの鼻に皺が寄る。本心から嫌だと示す魔王の姿に、有能な側近は次の案を提示した。

「ならば、人族の拠点をひとつ落としては? 結界を張る方法でも構いませんが、多少脅かした方が懲りるでしょう」

 拠点をひとつ……その妥協案に、ルシファーは断りづらさを感じて唸る。これがアスタロトの戦略だった。最初に絶対に断られる大きな案を提示し、続いてすこし小ぶりな案を勧める。案をひとつ断った手前、気まずさのある魔王は受け入れざるを得なくなるのだ。

 アスタロトが狙う本命は、2番目の案だった。

 全面戦争になっても問題はないが、この世界はバランスを重視する。人族が存在する以上、簡単に絶滅させて取り返しの付かない事態になることを恐れた。突然変異の種族ならば、とっくにアスタロト自身が滅ぼしただろう。

 だが原始の種族と考えられる「魔人族」「吸血種」「幻獣・神獣」「龍・竜族」「人族」「妖精族」「獣人族」「魔獣」を滅ぼすことは、世界の均衡にどんな悪影響を与えるか。試してみる勇気はなかった。

「そうだな……ひとつならいいか。場所は選定しておいてくれ」

「はい、もう決まっております。魔狼達を襲った際の拠点であった、魔の森の手前に作られた砦と街をひとつ」

 地図を取り出して空中に固定するアスタロトが、小さな点を指し示した。その部分を拡大して表示すると、街は意外と大きい。数万人規模の人口がありそうだった。

「大きすぎないか?」

「皆殺しにする必要はないのですから、問題ありません。街の外側、魔の森に面した砦を破壊します。魔狼や他の魔獣が攻め込んだら、街の警備隊が食い止めるでしょう。その間に民が逃げるのを確認し、人がほとんど消えた街を消滅させればいいのです」

「ふむ、なるほど」

 砦を壊されて魔獣が攻めてきたら、逃げるのが普通だ。多少の被害は出るだろうが、街をいきなり魔法で消滅させるよりマシだった。街を残しておけば、また新たな民が住み着く。魔の森との間にある緩衝地帯を抜けた先に作ったのだから、協定違反による自業自得でもあった。

「手配は任せる」

「最後の大技は、陛下にお願いいたします。黒い翼を出して空から威嚇いかくしてくださいね」

「ああ、わかった。オレは黒衣にするから、リリスは白いワンピースにする」

「え?」

 アスタロトの口から間抜けな疑問が零れる。黒い翼で威嚇する魔王が黒衣を纏うのはいい。なぜ、リリス嬢の衣装が必要なのか。

「まさかご一緒に?」

「当然だろう! なあ、リリス。パパと一緒がいいよな」

「あ…っ、ルー!」

 大量の積み木が縛り付けられた髪を、ぱちんと指を鳴らして元に戻す。積み木は執務机の引き出しに片付けた。折角上手に結べたのに片付けられてしまい、リリスは唇を尖らせて抗議する。

「はいはい。リリスはおねむの時間だろう」

 駄々を捏ね始めた愛し子の頬にキスをして、抱き上げた。白い髪を掴んでまだ抗議するリリスの背をとんとん叩いて揺らせば、すぐに大人しくなる。午後のお昼寝の時間だった。

 うとうとしているが、まだ熟睡しないので抱いてあやし続ける。

「陛下、先日の魔狼の際もそうですが……威厳を保つため、リリス嬢は置いていってください」

「やだ」

 予想はしていたが即答だった。
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