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60.嘘から出た実(まこと)
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一人の子爵令嬢が国王に愛された。この事実を否定する必要はない。だけれど、彼女は結婚していない。子爵令嬢で居続けるなら、未婚の女性だった。そう、婚姻関係で束縛されない……自由な立場の貴族令嬢。
ここまで説明された時点で、察しのいい数人がにやりと笑った。
「まだ難しいかしら。条件を足しましょうか」
私達が仕掛けた罠はここからだ。レオが説明を引き継いだ。
子爵家には、様々な人間が出入りする。行商人、使用人の家族、ジュアン公爵家の馬車、王家の馬車、そして……紋章を隠した馬車。王家とジュアン公爵家に関しては、周囲も納得するだろう。
子爵令嬢の恋人である国王陛下の迎えも、将来赤子を引き取り保護する公爵家も、違和感は少ない。事情を知った後なら、高貴な方々の馬車が出入りすることは理解できた。ただ、そこに紋章を隠した馬車がいたら?
紋章は身分を示す。誇るべき紋章があるにも関わらず、覆って隠す不自然さは人々の目に留まる。噂になって民の間に広がった。オータン子爵家のご令嬢は、他にも恋人がいるのではないか。
こういった噂話は密やかに、けれど根強く広がっていく。ましてや王族が堂々と浮気している状況で、愛人の立場にいる未婚令嬢だ。他に愛する人がいても、国王の手前、こっそり会うしかない。そんな噂が流れたら……人々は面白おかしく広める。
愛する人がいたのに、国王が横恋慕したのではないか。そんな憶測まで生まれた。噂は一度種を蒔き、その後も丹精込めて育てれば太く大きく育つ。麦と同じだった。
「つまり、もう仕掛けた後ですか」
驚きに声を上げた初老のル・カリエ侯爵に、ル・ノートル伯爵が大きく頷いた。彼も噂を流す際に協力してもらったわ。
「オータン子爵令嬢が存命のうちから、姫様は手を打っておられた。先見の明のある方だ」
誇る様に言われ、ちょっと恥ずかしくなる。これって策としては下の下だと思うの。噂話で他人を貶める類の、品のない行為だわ。自覚はあっても、提案したのは私自身よ。もしオータン子爵令嬢に男児が生まれたら……と不安になってレオを動かした。
亡くなられた令嬢の名誉を傷つける策だけれど、今後のルフォルの繁栄に必要なら泥は私が被る。
「その馬車以外にも、不審な貴族の出入りがありましたよ」
思わぬ情報が舞い込んだ。私が秘密の恋人作戦で噂を流したため、一部の貴族や平民が注目した。特に商人はこういった出来事に敏感だ。商機になる可能性はもちろん、重要な顧客の浮き沈みに関わる危険もある。
商人から入った情報によれば、実際に秘密の恋人は存在していた。それも幼馴染みの子爵家嫡男だとか。まんざら嘘でもなかったのね。
ここまで説明された時点で、察しのいい数人がにやりと笑った。
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「つまり、もう仕掛けた後ですか」
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商人から入った情報によれば、実際に秘密の恋人は存在していた。それも幼馴染みの子爵家嫡男だとか。まんざら嘘でもなかったのね。
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