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47.民の扇動も手配済みみたい
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コリンヌはブラッシング中に逃げられたらしく、手に持っていたのはブラシだけだった。水も食料もなく、半日近く空を運ばれている。体力勝負の騎士といえど、さすがに限界だった。
「誰かお水を」
運ばれた水をがぶ飲みし、差し出されたパンに齧り付く。本当に申し訳ないわ。
「リュシー、コリンヌは人間なのよ。あなたと違って、二日も三日もお水なしで平気じゃないの。次にやったら、二度と撫でてあげないわ」
怒った声に、きゅーんと哀れっぽい鳴き声を出し、ぺたんと地面に伏せた。悪いと思っている。必死で訴えるリュシーに、絆されそうになった。
今回はギリギリ、半日だったし騎士の体力が保ったけれど、次は危険だわ。許さないと睨んだら、ぺたんと地面に顎を付けた。本当に心から謝罪していると態度で示す。
「お嬢様、そんなに叱ると……」
また暴走します。水を飲む手を止め、コリンヌが口を挟んだ。そうよね、以前にもあったわ。キツく叱ったら、その反発なのか。それともお詫びの品を献上しようとしたのか、騒ぎを起こしたのよね。
猫が獲物を飼い主に献上するみたいに、敵となった貴族の家を破壊して当主を掴んで運んできちゃった。あれをやられると困るわ。
「リュシーはもう少し反省したら許します」
将来的に許してもらえる、そう聞いてリュシーの尻尾が大きく揺れた。これなら大丈夫よね。まだ許すのは早いけれど、厳しくしすぎないように注意しましょう。
コリンヌはようやく人心地ついたようだ。大きく息を吐いて、ごろりと地面に転がった。慌てて侍従に指示をして、馬車で休んでもらう。
これから王宮へ攻め込むタイミングで、ドラゴン出現となり……民は寛いでいる。出鼻を挫かれたと表現する状況だけれど、逆に士気は上がった。
「ドラゴン様が協力してくださるんだ、これは正義の戦いさ」
「そうだな。ドラゴン様がいるんだから、俺らの勝利は確定だ」
苦労させたコリンヌには申し訳ないけれど、リュシーの存在は民に安心感を与えた。圧倒的な戦力であるドラゴンは、王家の紋章に使われている。正義の象徴という認識が強かった。
私が知るより、ずっとドラゴンの価値が上がっている。不思議に思って尋ねると、ル・ノーブル伯爵の分家だという子爵が教えてくれた。
「民の間で流行した本がありまして、不遇の王女を助けるドラゴンが主役でした。王女様をお助けする正義の象徴が、ドラゴンです。配布された絵本なので、子供から大人まで持っていますよ。劇にもなりました」
なぜかしら、嫌な予感がするわ。
「その本だけど、作者はどなたかしら」
「名を明かしておられません」
それって、事実上の自白じゃないの。こちら側の貴族がばら撒いたみたい。まさかとは思うけれど、不遇の王女は私を参考にしたわけじゃないわよね?
きゅー! リュシーが甲高い声を上げる。応じる鳴き声が遠くから聞こえた。リュシーは嬉しそうに尻尾を叩きつけ、私は額を抑えて嘆く。
騒ぎがさらに大きくなるわ。
「誰かお水を」
運ばれた水をがぶ飲みし、差し出されたパンに齧り付く。本当に申し訳ないわ。
「リュシー、コリンヌは人間なのよ。あなたと違って、二日も三日もお水なしで平気じゃないの。次にやったら、二度と撫でてあげないわ」
怒った声に、きゅーんと哀れっぽい鳴き声を出し、ぺたんと地面に伏せた。悪いと思っている。必死で訴えるリュシーに、絆されそうになった。
今回はギリギリ、半日だったし騎士の体力が保ったけれど、次は危険だわ。許さないと睨んだら、ぺたんと地面に顎を付けた。本当に心から謝罪していると態度で示す。
「お嬢様、そんなに叱ると……」
また暴走します。水を飲む手を止め、コリンヌが口を挟んだ。そうよね、以前にもあったわ。キツく叱ったら、その反発なのか。それともお詫びの品を献上しようとしたのか、騒ぎを起こしたのよね。
猫が獲物を飼い主に献上するみたいに、敵となった貴族の家を破壊して当主を掴んで運んできちゃった。あれをやられると困るわ。
「リュシーはもう少し反省したら許します」
将来的に許してもらえる、そう聞いてリュシーの尻尾が大きく揺れた。これなら大丈夫よね。まだ許すのは早いけれど、厳しくしすぎないように注意しましょう。
コリンヌはようやく人心地ついたようだ。大きく息を吐いて、ごろりと地面に転がった。慌てて侍従に指示をして、馬車で休んでもらう。
これから王宮へ攻め込むタイミングで、ドラゴン出現となり……民は寛いでいる。出鼻を挫かれたと表現する状況だけれど、逆に士気は上がった。
「ドラゴン様が協力してくださるんだ、これは正義の戦いさ」
「そうだな。ドラゴン様がいるんだから、俺らの勝利は確定だ」
苦労させたコリンヌには申し訳ないけれど、リュシーの存在は民に安心感を与えた。圧倒的な戦力であるドラゴンは、王家の紋章に使われている。正義の象徴という認識が強かった。
私が知るより、ずっとドラゴンの価値が上がっている。不思議に思って尋ねると、ル・ノーブル伯爵の分家だという子爵が教えてくれた。
「民の間で流行した本がありまして、不遇の王女を助けるドラゴンが主役でした。王女様をお助けする正義の象徴が、ドラゴンです。配布された絵本なので、子供から大人まで持っていますよ。劇にもなりました」
なぜかしら、嫌な予感がするわ。
「その本だけど、作者はどなたかしら」
「名を明かしておられません」
それって、事実上の自白じゃないの。こちら側の貴族がばら撒いたみたい。まさかとは思うけれど、不遇の王女は私を参考にしたわけじゃないわよね?
きゅー! リュシーが甲高い声を上げる。応じる鳴き声が遠くから聞こえた。リュシーは嬉しそうに尻尾を叩きつけ、私は額を抑えて嘆く。
騒ぎがさらに大きくなるわ。
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