【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
45 / 80

45.民の盾や剣になるのが役目

しおりを挟む
 出迎えに来た貴族は、こぞってお父様の前に膝をついた。忠誠を誓い、主君として戻ってくれと嘆願する。事前に船の中で、お父様と打ち合わせていた。勝手に返事をしないこと。お父様って絆されやすいから、危ないのよね。

 睨みながら腕を組むと、さすがに顔を引き攣らせて断りを入れていた。こんなところで旗頭にされたら、伯父様との面会すら叶わないわ。

「まずは謁見の準備ね」

 私の肩に手を置いて、へたり込みそうな足を堪えるレオが呻くように同意する。侍女達が手回りの荷物を下ろし、大きな荷物は船員達が運びだした。集まった貴族が、使用人に指示を出す。

 木箱に詰め込まれた武器が、港に並べられた。荷馬車がこちらへ向かって走り、ぞろぞろと人が降りてくる。服装や所作から、農民や職人だろう。

「ルフォル王家の王子であった、ダニエルだ。兄の不始末を片付けにきた! ともに戦う者は武器を手に取れ」

 呼びかけに応じたが、気が進まない。そんな人も混ざっていた。顔を見合わせ、迷う様子をみせる。その気持ちも理解できるわ。今のままならじりじりと削られても、すぐ壊れはしない。けれど動いてしまえば、明日にも崩壊する可能性があった。

「手に取った武器を使わないで済む方法を考えるわ。だから、あなた達の意思を示す道具として……考えて頂戴」

 私の言葉に、顔を見合わせた人々が頷く。距離を詰めて、武器に手を触れた。目を閉じて覚悟を決めた料理人が剣を握り、その隣で農機具しか扱ってこなかった男が槍を手に取る。

「戦う覚悟はまだ要らない。民を守る盾となり、あなた達の言葉を伝える槍や剣になるのは……貴族の役目よ」

 贅沢が許される代わりに、命を惜しまない義務を負う。命令で人を動かす立場を得ることで、民を守る義務が生じる。貴族とは、国の危機に真っ先に散る者でなければならないの。

 その先頭を切るのが王族よ。元第二王子の娘である私は、その義務を背負う覚悟ができている。顔を上げて民の前に立ち、付き従う騎士の位置にレオが侍った。

「王は責務を放棄しているわ。ならば王の首をすげ替えるのが、私達の役目。もし信じられないと思えば、その武器を私達に向けて構わない」

 民を優先できないなら、王も貴族もいらない。私の言葉に、わっと民が声を上げた。私の言葉を伝達するように後ろへ送り、次々と武器が渡されていく。ここまで焚き付けてしまえば、もう引く道はなかった。

 あちらの屋敷に帰れるよう、全力を尽くそう。敵ばかりの王家に嫁ぎ義務を果たし、戦い抜いた叔母様に恥じないように。

「シャル、君は凛々しくて手が届かない高みにいる……後ろから引き摺り下ろしたくなる」

 囁く後半がなければ、素敵な口説き文句だったのにね。そう思う反面、このくらい頭のおかしい男だからレオなのよ。レオ以外は要らない。きっと、私もおかしいのよ。だからあなたが、ちょうどいいわ。振り返って、陸酔いで青い彼の頬にキスをした。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。

蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。 「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」 王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。 形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。 お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。 しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。 純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...