【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
38 / 80

38.待ち望んだ一通 ***SIDEル・リボー伯爵

しおりを挟む
 長い月日を耐えた。暴発しそうな民を宥め、私財を投じて公共工事を行う。堕落した一部の貴族は、砂の王に追従して甘い汁を楽しみ始めた。

 本家が隣大陸にいることで、自分達の気が大きくなったのだろう。愚かなことだ。本当の王はあちらにいて、本家の監視も緩んでいないというのに。目はなく手が届かない? あの方達が、そんなに甘いはずあるまい。

 考えなくてもわかることを忘れた獣を、我々は軽蔑の眼差しで記憶した。どんな振る舞いをして、何を蔑ろにしたか。ルフォルの国民は阿呆ではない。きちんと貴族の見極めをするだけの知識と教養がある。その基礎を築いたのは、数世代前の先祖だった。

 読み書き、計算、歴史の知識、地図の読み方、気象の予測に至るまで。災害が起きた際の対応は、地元の民の方が優秀だ。予防措置を公共工事で行う貴族に、あれこれと確認して指摘するほど。

 様々な知識を幼い頃から蓄える一族の王に、愚か者を据えて我慢する理由は……真の王が帰るまでの代理だから。それでも腹に据えかねる行いが続き、民は限界が近かった。

「伯爵様、もう無理ですよ」

「そうです。これ以上のさばらせたら国が崩壊してしまいます」

 領地を管理する彼らの訴えに、ル・リボー伯爵として判断を下さなくてはならない。

「ル・ノートル本家に問い合わせる」

 覚悟を決めて、そう口にしたのを待っていたように、連絡の魔法道具が飛び込む。渡り鳥の形をした魔法道具は、運んだ手紙を机に残して去った。屋敷の屋根裏にある指定場所に戻るのだろう。何らかのエネルギーを充填するらしく、いつもの動きだった。

 見送って、大急ぎで手紙の封蝋を確認する。ル・ノートル伯爵閣下から一通、ル・フォール家の封蝋が付いた手紙が一通。最後に、赤いラインの入った手紙が一通だった。開く順番は決まっている。

 緊急と重要さを示す赤いラインの手紙を手に取った。開いて、その中身を仲間の前に提示する。読み聞かせる必要はなかった。領地管理をする彼らは、読み書きに不自由しないのだから。無言で読み、もう一度頭から読み直し、ほっとした様子で頬を緩めた。

「ようやく……」

「長かったですね」

 彼らの安堵の声に、掠れた声で相槌を打った。

「長かったな。動くぞ」

 準備を進めろと口にする必要はない。にやりと笑った二人は、大急ぎで領地へ戻った。主要な貴族家に赤いラインが届いている。私から知らせる必要はなかった。

「レイラ、手伝ってくれ」

「はい……っ、赤ラインですか? すぐに準備いたします」

 駆け込んだ妻は満面の笑みで出ていく。淑女らしくない所作で、スカートをつまんで走った。肩をすくめ、私は残りの手紙を開いた。まずはル・フォール大公閣下の手紙を……それから本家筋に当たるル・ノートル伯爵閣下の文面を。

 さあ、この国の夜明けだ。暗く寒い夜が明ける報せに、民と手を取り合って華を添えるとしようか。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。

蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。 「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」 王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。 形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。 お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。 しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。 純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...