32 / 80
32.苦痛の玉座 ***SIDEルフォル王
しおりを挟む
奪った玉座は、今日も居心地が悪かった。会議室で話し合わず、上から見下ろしながら進める。貴族らの腹の内は読めていた。私ではなく弟を王に据え直したいのだ。
出来のいい兄弟を持つと苦労する。それが王侯貴族の長男なら、誰もが頷くだろう。一般的に年の差が開いていれば、弟が優秀でも追いつかれる心配は不要だ。だが、私と弟ダニエルの年齢差は僅か三歳だった。
ルフォル王国は古代帝国の血を引く誇り高い民族だ。誰もがその覚悟と矜持を胸に生きている。父は正妃である母との間に四人の子をもうけた。王女が二人、王子が二人。理想的な一家に見えただろう。
ダニエルが優秀でなければ、私もこんな方法を取らずに済んだ。病気になった父に薄い毒を飲ませて崩御させ、即位を早める必要もない。末妹を無理やり隣大陸の蛮族へ嫁がせたのも、弟ダニエルがセレスティーヌを可愛がっていたからだ。
案の定、ダニエルはセレスティーヌのために隣大陸へ移った。これで貴族も静かになるはず。そう思った矢先、災害が起きた。洪水による被害の復旧、救助の遅れ、捻出する費用の額……様々な事象が悪い方へ働く。まるで弟を遠ざけた罰のように。
貴族をすべて黙らせるには、もう手段を選べなかった。儚くなってもらうしかない。二十年近い月日が過ぎても、貴族はダニエルを諦めていないのだから。裏から手を回し、ヴァレス聖王国と名乗る愚かな蛮族を唆す。
切り抜けたと報告があり、腹立たしさに家具に八つ当たりしたのは、つい先日だった。部屋をめちゃくちゃに荒らし、気持ちを鎮める。この癇癪も、父が私への譲位を躊躇った理由の一つだろう。王太子に指名しないまま、病の床についた。
政の手腕も剣術や馬術も、何一つダニエルに勝てない。人望も弟の方が上だ。難しい状況で無理やり繋いだ玉座は、ただ辛いだけの苦行だった。それでも手放す気になれない。
いつか、復讐しに来るのでは? この玉座を奪われるのか。不安は付き纏い、誰も信じられない。妻でさえ、もしかしたら弟を好きなのでは? 疑い出せばキリがなく、生きることは針の筵だった。
「もうよい」
会議を打ち切り、采配を宰相や大臣に任せる。日課となっている新造船の確認に向かった。この船が出来上がったら、隣大陸へ攻め込もう。なんとしても弟ダニエルを始末し、私への尊敬と支持を取り戻すのだ。
ルフォル王国の重鎮と呼ばれる貴族は、現在分家ばかりが残る。本家はすべてダニエルに着いていった。それも弟が死ねば戻ってくるはずだ。
慣れた道を歩きながら、ルフォル王国を支配する夢をみる。すでに手に入れたはずの国を、真に奪うために。
出来のいい兄弟を持つと苦労する。それが王侯貴族の長男なら、誰もが頷くだろう。一般的に年の差が開いていれば、弟が優秀でも追いつかれる心配は不要だ。だが、私と弟ダニエルの年齢差は僅か三歳だった。
ルフォル王国は古代帝国の血を引く誇り高い民族だ。誰もがその覚悟と矜持を胸に生きている。父は正妃である母との間に四人の子をもうけた。王女が二人、王子が二人。理想的な一家に見えただろう。
ダニエルが優秀でなければ、私もこんな方法を取らずに済んだ。病気になった父に薄い毒を飲ませて崩御させ、即位を早める必要もない。末妹を無理やり隣大陸の蛮族へ嫁がせたのも、弟ダニエルがセレスティーヌを可愛がっていたからだ。
案の定、ダニエルはセレスティーヌのために隣大陸へ移った。これで貴族も静かになるはず。そう思った矢先、災害が起きた。洪水による被害の復旧、救助の遅れ、捻出する費用の額……様々な事象が悪い方へ働く。まるで弟を遠ざけた罰のように。
貴族をすべて黙らせるには、もう手段を選べなかった。儚くなってもらうしかない。二十年近い月日が過ぎても、貴族はダニエルを諦めていないのだから。裏から手を回し、ヴァレス聖王国と名乗る愚かな蛮族を唆す。
切り抜けたと報告があり、腹立たしさに家具に八つ当たりしたのは、つい先日だった。部屋をめちゃくちゃに荒らし、気持ちを鎮める。この癇癪も、父が私への譲位を躊躇った理由の一つだろう。王太子に指名しないまま、病の床についた。
政の手腕も剣術や馬術も、何一つダニエルに勝てない。人望も弟の方が上だ。難しい状況で無理やり繋いだ玉座は、ただ辛いだけの苦行だった。それでも手放す気になれない。
いつか、復讐しに来るのでは? この玉座を奪われるのか。不安は付き纏い、誰も信じられない。妻でさえ、もしかしたら弟を好きなのでは? 疑い出せばキリがなく、生きることは針の筵だった。
「もうよい」
会議を打ち切り、采配を宰相や大臣に任せる。日課となっている新造船の確認に向かった。この船が出来上がったら、隣大陸へ攻め込もう。なんとしても弟ダニエルを始末し、私への尊敬と支持を取り戻すのだ。
ルフォル王国の重鎮と呼ばれる貴族は、現在分家ばかりが残る。本家はすべてダニエルに着いていった。それも弟が死ねば戻ってくるはずだ。
慣れた道を歩きながら、ルフォル王国を支配する夢をみる。すでに手に入れたはずの国を、真に奪うために。
520
お気に入りに追加
1,244
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。
蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。
「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。
形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。
お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。
しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。
純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。
※小説家になろう様にも掲載しています。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる