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23.見せつけてあげるわ
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王妃であった叔母様は、離婚が成立している。セレスティーヌ・ル・フォールに名前を戻して、ユーグ・エナン卿と婚姻した。以前は嫁いだが、今回は婿に取って、ル・フォール大公家の分家となる。
爵位を譲る話もあったが、叔母様が断ったのだ。出戻ってごめんなさいね、とセレーヌ叔母様は笑ったけれど。私は歓迎するわ。好きでもない男に嫁いで、想像を絶する苦労をなさった。今後は大好きなエナン卿と幸せになってほしいもの。
結婚式は身内のみで終わらせた。邪魔が入らぬよう、敷地内に入れる者は厳重に管理する。実際、邪魔をしようとした人はいたけれど……しっかり排除させてもらった。
だって、二十年越しの恋愛成就よ! 侍女や侍従、騎士に至るまで屋敷中が盛り上がったわ。その美しい恋路を妨害する輩なんて、結婚式に不要よ。どんな地位の人であれ、呼ばれていない人は通さないよう……厳命した。
私の命令がなくても通さなかったと思う。叔母様は一族の中で、その悲恋も含めて人気が高い。誇り高く気高い叔母様のファンは、男女問わず多いのよ。幸せな少女のように頬を染める叔母様の邪魔をする人物なんて、絶対に通さないわ。
「あの男が来たのではなくて?」
「ええ、追い返しますわ」
お披露目までの合間に、軽食を摘みながら尋ねられる。私達は参列した衣装のままだけれど、叔母様とエナン卿は着替える予定だった。お式の際は白いキトンを纏ったけれど、この後は好きな色に着替える。ルフォルの結婚式の決まりだった。
お色直しと呼ばれているけれど、セレーヌ叔母様は淡いピンクを選んだ。エナン卿は柔らかな紫のキトンで、腰帯を叔母様と同じ淡いピンクに揃える。キトンという衣装は、神話時代から伝わる正装だった。
一枚の布の上部を外へ折り、体に巻き付けるように着用する。上部の二箇所を専用の金具で留めるのよ。折り返した部分が腰の近くまで、まるで上着のように重なる。伝統衣装であり、ルフォルの民の誇りでもあった。
金糸で華やかな刺繍が施された薄桃のキトンを纏い、叔母様はウエストを紫のベルトで締めた。エナン卿は逆の色合わせだ。並ぶと対になっているのがわかる。
「追い返さなくていいわ」
食べ終えたエレーヌ叔母様の着替えを手伝う私に、思わぬ言葉が聞こえた。
「通して、いいの?」
「ええ、見せつけてあげましょう」
にっこり笑う叔母様は、黒い感情を見せなかった。でも腹の中は別だろう。そうでなければ、息子を処分した翌日に結婚式を挙げて、元夫に披露したりしないわ。
「私が逃げる必要はないの。胸を張って、愛する人に嫁ぐ姿を見せてあげる」
「さすが一族自慢の姫様ですわ」
侍女の賛同を得て、嫣然と微笑むエレーヌ叔母様は、髪を結い直し始めた。肩部分を摘む金具は、ルフォルの紋章を使う。衣装がシンプルな分、装飾品は多かった。三重に重なる赤い宝玉の首飾り、耳にも同色の飾りを下げる。絹房の付いた耳飾りは、肩に触れるほど大きかった。
ベルトにも大量の金細工を絡めて、両手首の金鎖以外にも右の上腕部に黄金の蛇が絡みつく。赤い瞳を持つ蛇の腕飾りを、エナン卿もつけているはずだ。婚礼の証として交わした揃いの装飾品だった。
「叔母様を守る騎士様がいるものね」
「ええ、あなたと同じ……立派な忠犬よ」
くすくすと笑いあい、叔母様は自らの手で紅を引いた。まるで戦いの覚悟を示すように。
爵位を譲る話もあったが、叔母様が断ったのだ。出戻ってごめんなさいね、とセレーヌ叔母様は笑ったけれど。私は歓迎するわ。好きでもない男に嫁いで、想像を絶する苦労をなさった。今後は大好きなエナン卿と幸せになってほしいもの。
結婚式は身内のみで終わらせた。邪魔が入らぬよう、敷地内に入れる者は厳重に管理する。実際、邪魔をしようとした人はいたけれど……しっかり排除させてもらった。
だって、二十年越しの恋愛成就よ! 侍女や侍従、騎士に至るまで屋敷中が盛り上がったわ。その美しい恋路を妨害する輩なんて、結婚式に不要よ。どんな地位の人であれ、呼ばれていない人は通さないよう……厳命した。
私の命令がなくても通さなかったと思う。叔母様は一族の中で、その悲恋も含めて人気が高い。誇り高く気高い叔母様のファンは、男女問わず多いのよ。幸せな少女のように頬を染める叔母様の邪魔をする人物なんて、絶対に通さないわ。
「あの男が来たのではなくて?」
「ええ、追い返しますわ」
お披露目までの合間に、軽食を摘みながら尋ねられる。私達は参列した衣装のままだけれど、叔母様とエナン卿は着替える予定だった。お式の際は白いキトンを纏ったけれど、この後は好きな色に着替える。ルフォルの結婚式の決まりだった。
お色直しと呼ばれているけれど、セレーヌ叔母様は淡いピンクを選んだ。エナン卿は柔らかな紫のキトンで、腰帯を叔母様と同じ淡いピンクに揃える。キトンという衣装は、神話時代から伝わる正装だった。
一枚の布の上部を外へ折り、体に巻き付けるように着用する。上部の二箇所を専用の金具で留めるのよ。折り返した部分が腰の近くまで、まるで上着のように重なる。伝統衣装であり、ルフォルの民の誇りでもあった。
金糸で華やかな刺繍が施された薄桃のキトンを纏い、叔母様はウエストを紫のベルトで締めた。エナン卿は逆の色合わせだ。並ぶと対になっているのがわかる。
「追い返さなくていいわ」
食べ終えたエレーヌ叔母様の着替えを手伝う私に、思わぬ言葉が聞こえた。
「通して、いいの?」
「ええ、見せつけてあげましょう」
にっこり笑う叔母様は、黒い感情を見せなかった。でも腹の中は別だろう。そうでなければ、息子を処分した翌日に結婚式を挙げて、元夫に披露したりしないわ。
「私が逃げる必要はないの。胸を張って、愛する人に嫁ぐ姿を見せてあげる」
「さすが一族自慢の姫様ですわ」
侍女の賛同を得て、嫣然と微笑むエレーヌ叔母様は、髪を結い直し始めた。肩部分を摘む金具は、ルフォルの紋章を使う。衣装がシンプルな分、装飾品は多かった。三重に重なる赤い宝玉の首飾り、耳にも同色の飾りを下げる。絹房の付いた耳飾りは、肩に触れるほど大きかった。
ベルトにも大量の金細工を絡めて、両手首の金鎖以外にも右の上腕部に黄金の蛇が絡みつく。赤い瞳を持つ蛇の腕飾りを、エナン卿もつけているはずだ。婚礼の証として交わした揃いの装飾品だった。
「叔母様を守る騎士様がいるものね」
「ええ、あなたと同じ……立派な忠犬よ」
くすくすと笑いあい、叔母様は自らの手で紅を引いた。まるで戦いの覚悟を示すように。
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