6 / 80
06.あなたを選んだ理由
しおりを挟む
大会議は紛糾し、ヴァロワ王家を滅ぼすべしと決議された。すぐに動くことは出来ないが、多少の暴走を許してやったとお父様が笑う。お気の毒に……きっと夜会の場で余計な発言をしたオータン子爵も、無事では済まないでしょうね。
ル・フォール家の名が直接出ないよう注意しながら、真綿どころか太いロープできゅっと首を絞められてしまうわ。同情する気はないので、助けようと思わないけれど。だって、たかだか子爵家の当主風情が私に無礼を働いたのよ?
「俺も加わりたかった」
「ル・フォールのままでは無理よ?」
「ならいい」
我が大公家の名を背負ったまま、そんな行動をされたら困るわ。私の注意に、兄はすんなり引き下がった。いつもそう、兄レオポルドは常に私を中心に考える。私の役に立つか、望まれているか、嫌われないか。それがすべての言動を縛っていた。
「だが、気の利く猟犬の捕らえた獲物を見分し、褒めてやるのは飼い主の責任だと思わないか?」
「そうね、飼い主の領分を超えなければ……問題ないと思うわ」
遠回しに傘下の貴族へ、あの無礼な貴族を引きずって来いと命じるなんて。本当に大人げない人ね。そんな困った人なのに、私はレオポルドが好きだった。初めて会ったのは、養子縁組を告げられた日ね。綺麗な顔なのに、蜂に刺されても気にしない図太さに驚いた。
王侯貴族、特に高位の家は外見が整っている。家畜の品種改良のように、何度も美形同士を掛け合わせて作られた美貌が当たり前だった。私自身、綺麗な顔をしている自覚はある。磨いて利用する武器である綺麗な顔を、私の一言でぼこぼこにしてしまって。
お茶会で顔を合わせた庭で、綺麗な花を強請った。未来の夫であると紹介されたレオポルドは、私のために花を手折ったわ。その際にうっかり蜂の巣を見つけた。初めて見た蜂に驚いて、同時に好奇心を刺激される。
近づいた途端、襲い掛かった蜂の羽音が怖くて泣き出した。蹲った私を守るように庇ったレオポルドは、顔だけじゃなく背中や腕も大量に刺される。幸いだったのが、毒性の弱い蜜蜂だったこと。でも痛いし腫れるし、怖かったと思うわ。
抱き締めて私を庇うレオポルドの額に止まった蜂を、泣きながら払いのけた。結局、その蜂に私の指が刺されたのだけれど。その行為がすべてを決めてしまった。レオポルドの中で、私の立場が確定したらしいの。
大量の蜂に刺されて酷い顔になったレオポルドに謝ると、ご褒美をくださいと強請られた。顔の腫れが引いたら、キスしてあげると約束する。早く良くなってほしかったの。その後、綺麗に治った頬にキスをして、私達は婚約を決めた。
曾祖父に邪魔されるまで、レオポルド兄様の妻になると信じて幸せだったの。ようやく元に戻れたことに、心の底から安堵しているわ。
「……聞いていたかい?」
「ごめんなさい、レオ。蜜蜂のことを思い出していたの」
「もう一度同じ状況になっても、俺はシャルを守るよ」
「……痛かったのに?」
寝込んで数日は起き上がれなかったじゃない。そう思う反面、答えが想像出来て口元が緩んだ。
「シャルが同じ目に遭うなんて我慢できないからね。君を守って傷つくのは俺の特権だ」
ふふっと笑い、愛情の方向性が歪んだレオポルドの頬を撫でる。傷つく特権を振りかざすなんて、きっと兄様以外にいないわ。だから私はあなたを選んだの。
ル・フォール家の名が直接出ないよう注意しながら、真綿どころか太いロープできゅっと首を絞められてしまうわ。同情する気はないので、助けようと思わないけれど。だって、たかだか子爵家の当主風情が私に無礼を働いたのよ?
「俺も加わりたかった」
「ル・フォールのままでは無理よ?」
「ならいい」
我が大公家の名を背負ったまま、そんな行動をされたら困るわ。私の注意に、兄はすんなり引き下がった。いつもそう、兄レオポルドは常に私を中心に考える。私の役に立つか、望まれているか、嫌われないか。それがすべての言動を縛っていた。
「だが、気の利く猟犬の捕らえた獲物を見分し、褒めてやるのは飼い主の責任だと思わないか?」
「そうね、飼い主の領分を超えなければ……問題ないと思うわ」
遠回しに傘下の貴族へ、あの無礼な貴族を引きずって来いと命じるなんて。本当に大人げない人ね。そんな困った人なのに、私はレオポルドが好きだった。初めて会ったのは、養子縁組を告げられた日ね。綺麗な顔なのに、蜂に刺されても気にしない図太さに驚いた。
王侯貴族、特に高位の家は外見が整っている。家畜の品種改良のように、何度も美形同士を掛け合わせて作られた美貌が当たり前だった。私自身、綺麗な顔をしている自覚はある。磨いて利用する武器である綺麗な顔を、私の一言でぼこぼこにしてしまって。
お茶会で顔を合わせた庭で、綺麗な花を強請った。未来の夫であると紹介されたレオポルドは、私のために花を手折ったわ。その際にうっかり蜂の巣を見つけた。初めて見た蜂に驚いて、同時に好奇心を刺激される。
近づいた途端、襲い掛かった蜂の羽音が怖くて泣き出した。蹲った私を守るように庇ったレオポルドは、顔だけじゃなく背中や腕も大量に刺される。幸いだったのが、毒性の弱い蜜蜂だったこと。でも痛いし腫れるし、怖かったと思うわ。
抱き締めて私を庇うレオポルドの額に止まった蜂を、泣きながら払いのけた。結局、その蜂に私の指が刺されたのだけれど。その行為がすべてを決めてしまった。レオポルドの中で、私の立場が確定したらしいの。
大量の蜂に刺されて酷い顔になったレオポルドに謝ると、ご褒美をくださいと強請られた。顔の腫れが引いたら、キスしてあげると約束する。早く良くなってほしかったの。その後、綺麗に治った頬にキスをして、私達は婚約を決めた。
曾祖父に邪魔されるまで、レオポルド兄様の妻になると信じて幸せだったの。ようやく元に戻れたことに、心の底から安堵しているわ。
「……聞いていたかい?」
「ごめんなさい、レオ。蜜蜂のことを思い出していたの」
「もう一度同じ状況になっても、俺はシャルを守るよ」
「……痛かったのに?」
寝込んで数日は起き上がれなかったじゃない。そう思う反面、答えが想像出来て口元が緩んだ。
「シャルが同じ目に遭うなんて我慢できないからね。君を守って傷つくのは俺の特権だ」
ふふっと笑い、愛情の方向性が歪んだレオポルドの頬を撫でる。傷つく特権を振りかざすなんて、きっと兄様以外にいないわ。だから私はあなたを選んだの。
1,089
お気に入りに追加
1,244
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。
蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。
「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。
形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。
お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。
しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。
純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。
※小説家になろう様にも掲載しています。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる