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28.夢魔が逆らった、殺せ
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ぐったりと黒いシーツに沈む、抱き潰したハヤトの頬を撫でる。これでしばらくは起きて来られぬだろう。わざと痛みをそのまま残し、上掛けで包んだ。部屋の中心はベッドで、結界はこの位置を支点としている。
重ねかけした結界を確かめ、ハヤトの手が届く場所に水差しを載せたテーブルを引き寄せた。本当なら置いていきたくなどないが、連れ歩いて誰かの目に触れさせるのも許し難い。葛藤すること数分、溜め息を吐いて身を起こした。
「何かあれば、余の名を呼べ」
アザゼルと、その声が呼べばどこにいても届く。だから一言でいい。もし無理なら心の中で叫んでも届くであろう。体を繋げ、精を注ぎ、魔力を流して作り替えた体を視線で舐めるように辿った。
ああ、もう一度抱きたい。湧き上がる欲を喉を鳴らして飲み、無理矢理己を引き剥がした。まだ淫靡な雰囲気の漂う部屋を出る。
ハヤトには扱えぬ次元と空間を移動し、魔王城と称される巨大な建築物の廊下に降り立った。数歩で届く部屋の扉を、ノックもせず開く。執務のために用意した部屋に招かれず入れるのは、このアザゼルと数名の配下のみ。中に待っていたのは、アスモダイだった。
忠実なる部下であり、我が手足となる魔族は青い髪を揺らして一礼する。
「夢魔が逆らった。殺せ」
「どの夢魔にございますか?」
夢魔とは種族の名で、現在確認されている数は200人足らずだ。他種族の夢に入り込み、洗脳したり操ることもある。元は夢で繋がった相手の生気を吸い取ることで生き長らえる種族だった。魔王争いで敵対したため駆除して数を減らした。この頃は徐々に増え始めているが。
「余に尋ねておるのか?」
言外に、馬鹿にしているのかと尋ね返した。魔王アザゼルが「夢魔を殺せ」と命じたら、そこに個体の差はない。伴侶に手出しした種族は、能力を発揮できぬ赤子に至るまで駆除対象だった。
そもそも、個体を識別して駆除するならば、それも部下の仕事であろう。なぜ不愉快な侵入者の個体を識別してやらねばならぬ。そのくらいならば、すでに始末していた。己が手を下した方が早いのだから。
ハヤトは夢を見たと言った。結界が張られた空間であっても、夢は別の次元と繋がりやすい。そこを狙って、伴侶の一番弱い部分を傷つけられた。過去にハヤトがいた世界を夢に呼び出し、彼の記憶を汚したのだ。万死に値する罪だった。
「申し訳ございません。血筋を残す赤子を数名選び、後は殲滅いたします」
種族そのものを絶滅させると面倒だ。そう匂わせるアスモダイに任せた。この辺は他種族から文句をつけられないためだ。一匹も残さず狩ると、明日は我が身と思う魔族が騒ぎ始める。面倒でも数匹は残し、こちら側に都合よく育てるのが無難な方法だろう。
「罪状はいかように」
「魔王の伴侶に手を出した。それ以上の罪があるか?」
「いえ。重罪にて極刑が正しい判断でございます」
言葉遊びを楽しむ気はない。アスモダイは名目を手に入れて愉しむであろうし、余は可能な限りの時間をハヤトと過ごしたかった。
「では任せる……ああそうだ、もし手を出した者が判明するなら、よく教えてやれ」
己の行為が何を招いたのか。最後までその目に焼き付けてから潰せ。誰に逆らい、その代償は何なのか知らしめろ。命じなくてもそのつもりであったのか。無言で頷く部下を残して部屋を出た。ついでに処理すべき書類を一束手にとる。心はすでにハヤトの元へ向かっていた。
重ねかけした結界を確かめ、ハヤトの手が届く場所に水差しを載せたテーブルを引き寄せた。本当なら置いていきたくなどないが、連れ歩いて誰かの目に触れさせるのも許し難い。葛藤すること数分、溜め息を吐いて身を起こした。
「何かあれば、余の名を呼べ」
アザゼルと、その声が呼べばどこにいても届く。だから一言でいい。もし無理なら心の中で叫んでも届くであろう。体を繋げ、精を注ぎ、魔力を流して作り替えた体を視線で舐めるように辿った。
ああ、もう一度抱きたい。湧き上がる欲を喉を鳴らして飲み、無理矢理己を引き剥がした。まだ淫靡な雰囲気の漂う部屋を出る。
ハヤトには扱えぬ次元と空間を移動し、魔王城と称される巨大な建築物の廊下に降り立った。数歩で届く部屋の扉を、ノックもせず開く。執務のために用意した部屋に招かれず入れるのは、このアザゼルと数名の配下のみ。中に待っていたのは、アスモダイだった。
忠実なる部下であり、我が手足となる魔族は青い髪を揺らして一礼する。
「夢魔が逆らった。殺せ」
「どの夢魔にございますか?」
夢魔とは種族の名で、現在確認されている数は200人足らずだ。他種族の夢に入り込み、洗脳したり操ることもある。元は夢で繋がった相手の生気を吸い取ることで生き長らえる種族だった。魔王争いで敵対したため駆除して数を減らした。この頃は徐々に増え始めているが。
「余に尋ねておるのか?」
言外に、馬鹿にしているのかと尋ね返した。魔王アザゼルが「夢魔を殺せ」と命じたら、そこに個体の差はない。伴侶に手出しした種族は、能力を発揮できぬ赤子に至るまで駆除対象だった。
そもそも、個体を識別して駆除するならば、それも部下の仕事であろう。なぜ不愉快な侵入者の個体を識別してやらねばならぬ。そのくらいならば、すでに始末していた。己が手を下した方が早いのだから。
ハヤトは夢を見たと言った。結界が張られた空間であっても、夢は別の次元と繋がりやすい。そこを狙って、伴侶の一番弱い部分を傷つけられた。過去にハヤトがいた世界を夢に呼び出し、彼の記憶を汚したのだ。万死に値する罪だった。
「申し訳ございません。血筋を残す赤子を数名選び、後は殲滅いたします」
種族そのものを絶滅させると面倒だ。そう匂わせるアスモダイに任せた。この辺は他種族から文句をつけられないためだ。一匹も残さず狩ると、明日は我が身と思う魔族が騒ぎ始める。面倒でも数匹は残し、こちら側に都合よく育てるのが無難な方法だろう。
「罪状はいかように」
「魔王の伴侶に手を出した。それ以上の罪があるか?」
「いえ。重罪にて極刑が正しい判断でございます」
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「では任せる……ああそうだ、もし手を出した者が判明するなら、よく教えてやれ」
己の行為が何を招いたのか。最後までその目に焼き付けてから潰せ。誰に逆らい、その代償は何なのか知らしめろ。命じなくてもそのつもりであったのか。無言で頷く部下を残して部屋を出た。ついでに処理すべき書類を一束手にとる。心はすでにハヤトの元へ向かっていた。
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