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25.甘やかされる生活も悪くないな

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 尻も腰もいてぇ。目が覚めて最初の感想がこれなのも、いい加減慣れた。外は危険だ。頼れるのはアザゼルだけで、不自由なく生活させてもらってる間は……いや、そうじゃないな。

 ぎしりと痛む体を起こすと、優しく顎に手を添えて上を向かされる。そのまま口付けられ、貪るキスが始まった。これも毎朝の習慣だ。これ以外に出かける日は、いってらっしゃいのキスも加わる。

「ふ……ん、っ、ぅん」

 自分のものとは思えない高い声が漏れて、ようやく解放された。慣れって怖いもので、もうキスで咳き込むことは無くなった。苦しかった呼吸も鼻を使って上手に息をしてるし、舌を絡められたら追い掛けて吸い上げる余裕もある。抵抗があった唾液を飲み込むことも、当たり前になっていた。

 俺がどんな痴態を晒しても、アザゼルは俺を嫌わない。それどころか溺愛具合が増していくんだから。肌についた赤い痕に気付いて、肩をすくめた。外に出るなら怒るが、この部屋にいる限り見るのは俺とアザゼルだけだ。何も問題ない。

「羽織るものをくれよ」

「寒いなら温度を調整する」

「ご飯食べるのに、ちょっと」

 先日零したスープが熱かったので、安全のために服を着たかったんだけど。そう考えながらアザゼルを見つめると、ふっと頬を笑み崩してシャツを掛けてくれた。裾が長いので、それだけ羽織って前のボタンを止める。

「ハヤトの足は綺麗だ」

「そうか? この辺とか子供の頃の擦り傷の痕があったりして、あんまり綺麗じゃないぞ」

「そういう意味ではない」

 くすくす笑うアザゼルが嬉しそうだ。こんな他愛のない話もするようになった。絆されたと言えばその通りだが、庇護される立場なりに良好な関係を築けたと思う。

 ぽんと膝を叩くアザゼルが示すまでもなく、この部屋に座れる椅子はひとつだ。いつの間にか取り寄せられた食事の前で、アザゼルの膝に座る。重いんじゃないかと考えたのは数回だけで、今は当たり前になった。

「そのスープ好きじゃない」

「わかった」

 我が侭も多少だが許されている。あの魚のスープ、生臭いんだよな。口に入れると吐き気がするので、もう口にしたくなかった。代わりにお気に入りのナッツが飾られたサラダを指差す。当たり前のようにアザゼルが指先で引き寄せた。

 魔法は魔族にとって当たり前の力らしい。生まれてすぐに使い始めるようで、手足を動かすように遠くの物を呼び寄せた。ふわりと浮いたサラダの器を手に取り、一口分だけフォークに似た道具に刺す。俺の知るフォークは先が3つか4つなのに対し、これは2つしかなかった。肉を切るときに押さえる調理器具みたいだが、よく抜け落ちないと思ったら、ここでも魔法が使用される。

 支えらえた野菜が、俺の口に入った。いっそ食器なんてやめればいいんじゃないか? 余計なことを考えながら咀嚼する。うん、今日もナッツが美味い。

「今日は出掛けるのか」

「予定はないので、ハヤトの寝顔を見ているつもりだ」

 ふーんと相槌を打ち、今度は肉を頬張る。以前に肉が硬いと文句を言ったら、とろとろに煮込んだり箸でも切れそうな柔らかい肉ばかりになった。貧乏舌の俺は、早くも硬くて顎が疲れる肉も悪くなかったと思ってるけど……言い出しづらい。

「寝顔見てて楽しい?」

「ハヤトなら顔でも体でも、見飽きることはないな」

 どこの世界の王子様のセリフか。呆れるほど俺に甘い男に寄りかかりながら、俺はこの生活を楽しみ始めていた。
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