上 下
19 / 38

19.他に何を言われた?

しおりを挟む
「……ふ、ぅん、ぁ……っ」

 俺はあの窓も扉もない部屋のベッドに連れ戻され、がっつり舌を絡めたキスで呼吸を奪われていた。逆の立場なら、アザゼルが焦るのも怒るのも理解できるから、何となく突き放しづらい。

「っ、はぁ、はあ……落ち着いた、かよ」

 散々に貪られ、肩で息をしながら見上げる。アザゼルは銀の長い髪を檻のように俺の上に散らしながら、首を横に振った。幼子が「違う」と我が侭をいう姿と重なって、苦笑いする。

「さっきは、ありがとな。助かった」

「余のせいだ。急いでいたとはいえ、ハヤトへの守護を授けていなかった」

「守護?」

「出がけに必ず口付けをしていたであろう?」

 ああ、あれか。守護ってことは、あのキスで何か安全対策を施してたのか? 悪い、ただのスケベ心だと思ってた。確かに今日は出がけのキスをしなかったな。あれで発見が遅れたらしい。

「キスしてれば、もっと早く来られたのか?」

「あの程度の攻撃でケガを負うことはなかった。余の魔力を譲渡しているからな」

「よくわからないけど、結界みたいなもんかな」

「近いな。余の魔力を纏っていれば、フラウロスの攻撃は防げたはずだ」

 あの女、フラウロスって名前か。

「あの子は元恋人なのか? お前がいるから悪いって言われたが……」

「他に何を言われた?」

「殺してやる、とか。俺のせいで切り捨てられた、だったか」

 記憶を辿って口にした言葉に、アザゼルは眉を寄せた。吐き捨てるように答えを口にする。

「あの女は部下だ。余が伴侶を得たことを祝福せず、そなたを害そうとした故、殺すようアスモダイに命じた。その直後に行動を起こした。愚かにも程がある」

 ……ってことは、あの女もその部下っぽい男もあの場所で惨殺された可能性が高いか。ぞっとした。今回はアザゼルが気が付いたけど、もし駆け付けるのが間に合わなければ? 俺が惨殺死体になったのだ。

 フラウロスは、簡単に殺せる俺を甚振った。猫がネズミを遊びながら殺すように、苦しめてボロボロになるまで追い詰める気だったのなら。今後も同じ状況になるってことか?

「な、なあ……俺はアザゼルの愛人扱いなのか? 今後も狙われるのか?」

 ざっくり一度で殺してくれるならいいが、あんな甚振り方はゴメンだ。絶対に嫌だった。血が噴き出した時の感触を覚えている。血圧が下がって寒さが増して、熱が失われた。二度は耐えられない。次は気が狂う。

「安心しろ、二度はない。ハヤトを守るために、命を深く繋げることにした……」

 居場所も考えもすべてを管理する。恐ろしい発言なのに、なぜか正しい気がした。俺はこの世界で弱者だ。自分の身も守れない奴が、強い男の庇護下に入るのは当然で……アザゼルに頼るしかない。

「本当、か?」

「ああ。余が必ず守り抜く。安心して身を委ねよ」

 命じる口調に頷き、俺は初めて抵抗なくアザゼルに抱かれた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】うたかたの夢

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
 ホストとして生計を立てるサリエルは、女を手玉に取る高嶺の花。どれだけ金を積まれても、美女として名高い女性相手であろうと落ちないことで有名だった。冷たく残酷な男は、ある夜1人の青年と再会を果たす。運命の歯車が軋んだ音で回り始めた。  ホスト×拾われた青年、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全33話、2019/11/27完

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

処理中です...