【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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18.お前が悪い、殺してやる!

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 暗闇に目が慣れてきて、人数くらいは把握出来た。声からして主犯が女、それから男が3人ほど。取り巻きだろうか。女が一番前に立っていた。

 ラノベの悪役令嬢だと後ろにいて「やっておしまい!」とゴロツキを嗾けるんじゃないのか? 立ち位置が逆な気がして首を傾げた。ある意味、俺は現実逃避をしていたんだと思う。傷つけられるなんて思ってもみなかった。

「あんたのせいで、我が君は私を切り捨てた!」

「……元恋人か何かで?」

 口をついた言葉が、地雷そのものだったらしい。ぎらりと何かが光った次の瞬間、熱さに太腿を押さえた。

「ぐぁ……っ」

 ぶわっと血が噴き出す。生々しい感触は初めてで、こんな大ケガをした経験なんてない。ガキの頃骨を折った記憶しかなかった。痛みは強過ぎると熱に変わるのか? 火傷したような熱が、じくじくと痛みに変化する。息が詰まって苦しかった。

 肩で息をしながら落ち着こうとするが、血の量が一向に減らない。これは放置したら死ぬ。そう思ってシャツを脱いで傷を縛ろうとした。脱いだシャツを巻くために突いた右手の甲に激痛が走る。

 二度目だからか、今度は熱より痛みが早かった。丸まろうとする体を蹴飛ばされる。腹の痛みを庇うと、次は右手の傷を踏み躙られた。

「ぐっ、ぁあ」

「お前が、お前が悪い! 殺してやる、お前など……下等な贄の分際でっ!!」

 剣が貫いた右手を抱き締めるように縮こまり、見上げた先で……思わぬ人物を見た。黒衣に身を包み、闇に溶け込みそうな……だが圧倒的な存在感が違う。

「……アザゼ、ル?」

「貴様如きが、我が君の御名を口に……ひぃ、ひぃいい!」

 叫んだ女の首を鷲掴みにしたアザゼルが、軽く捻って放り投げた。人間なら即死の折れ方だが、魔族の女はまだ生きている。その姿が恐ろしい。血の泡を噴いて足掻く彼女を蹴り飛ばし、アザゼルは俺の前に膝をついた。

「いま治す」

 じわりと痛みが引いていく。痛みに強張った全身から力が抜けて、暖かな力に深呼吸する余裕ができた。流れ出ていた血は止まり、逆戻りするように俺の中に戻っていく。逆再生の映像みたいだった。

「済まぬ」

 ぽつりと詫びるアザゼルの表情が痛々しくて、後悔が滲んだ彼の声に首を横に振った。右手の甲を貫かれた痛みが消え、太腿を切られた激痛と熱が去った。蹴られた腹ももう何ともない。手を突いて起きあがろうとする俺を、アザゼルは抱き上げた。

「両手、塞がる……ぞ」

 まだ後ろで呻いてる女が生きてるし、さらに青褪めて硬直してる男達がいる。背を向けて俺を抱き上げたら、背中が無防備だと指摘した。

「問題ない。彼らが余に攻撃したとして、通用せぬ」

「あっそ」

 圧倒的チートな魔王の言葉は、当たり前のことを説明する自信に満ちていた。この状態で攻撃されても勝てる。はっきりそう示したアザゼルが「アスモダイ」と名を呼んだ。初めて聞く名だった。

「顔を晒すな」

 独占欲の強い発言をしたアザゼルが、上半身裸の俺に黒い布を被せる。外が全く見えなくなった。

「やめ……我が君、私は……きゃああ! いや、いやぁああああ!」

 女の叫びが響き、すぐに止んだ。怖くて外が見れないぞ。その状態で今度は男達の懇願する声や、激痛に泣き叫ぶ言葉が続いた。絶対に外を見たくない。とんでもない惨状が広がってるに違いなかった。
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