【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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17.本を読んだら攫われた?

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 起きるなりキスで呼吸を奪い、苦しくて朦朧としている間にしっかり食われた。昨夜抱かせなかった仕返しか? 用意された食事を前に顔を顰める。

「食べたくない」

「我が侭も可愛いが、今日は予定がある。悪いが帰ってきてから甘やかしてやろう」

 どうしても外せない仕事が入った。そう言ってアザゼルが姿を消した。急いでいたからか、出掛け際のキスもできな……くていいや。なんで俺が気にしてやらなきゃいけないんだ。

 作ってくれた人に悪いので、食欲は湧かないがスープを流し込む。アザゼルの執着具合は、魔族なら普通なのか? 他の魔族や過去の魔王を知らないので判断できない。考え事をしながら、気づいたら食事を半分以上平らげていた。パンの間に肉や野菜を挟んで、ベッドに寝転がる。行儀悪くても、ここで叱る奴はいないし。

 書棚に置かれた本の半分は文字が読めるが、残り半分は意味が分からない。文字が読めないのではなく、開いて読もうとするとぼんやりと霞んでしまった。文字が認識できない距離に離れると、背表紙に文字があるのは分かる。近づくと滲んで踊ったようになり、読めなかった。仕方なく読める文字の本を数冊引っ張り出す。

 魔法に関する本と、小説みたいなものか? 伝記が近いのかも。読み始めてみると夢中になり、寝転がってパンを齧りながら読み耽った。勇者側ではなく、魔族から見た人間の話らしい。襲って来る人間は弱く、あっさり撃退可能だ。魔王の側近クラスが本気で怒れば、国ひとつ沈めるのに数日程度だった。

 何度も勇者を召喚して戦わせた結果、途中で戦いを放棄する異世界人が出た。その者を匿ううちに恋仲となり、その代の魔王と結ばれたのが「贄」の風習の始まりだった。愛する人の願いを聞き入れた魔王が、人間の都への攻撃を禁止したのだ。平和な数百年を過ごし、人間は学んだ。

 異世界人は魔王と番っても死なない。魔族に生贄を献上すれば、人間も襲われない。間違った知識で突っ走った結果、魔王を倒すことを後回しにして、異世界人の召喚技術を磨いてしまった。途切れないよう次々と呼び出し、差し出す。自国民でもないので心は痛まないようだ。

 あれか? 野良猫を拾った後、新しい飼い主に渡す活動が近い。まあ正確に言うなら、野良猫は他所から攫われてたってオチが付くんだが……。

 ムッとしながら本を閉じたところで、自分の周りが光っていることに気づく。ベッドの黒いシーツに何か模様が浮かび上がり、光の量が一気に増した。眩しさに目を閉じた俺は、本を掴んだまま転移する。

「ここ、どこだ?」

 窓も扉もなかった部屋の外だ。薄暗い場所は洞窟のような場所だった。土の床に寝転がった状態から身を起こし、周囲を見回す。誰かいる?

「誰だ?」

「贄如きに名乗る名など持たぬ」

 吐き捨てる響きに好感度はゼロだ。敵対心が滲む視線はひとつではなく、俺はどうやらマズい状況に陥ったのか。肌寒い洞窟らしき穴蔵で、握り締めた本をしっかり掴む。武器になりそうなのは、これだけ。アザゼルみたいに魔法が使える魔族なら、俺の命なんて一瞬で消し飛ぶな。嫌な予想に、背に冷たい汗が流れた。
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