17 / 38
17.本を読んだら攫われた?
しおりを挟む
起きるなりキスで呼吸を奪い、苦しくて朦朧としている間にしっかり食われた。昨夜抱かせなかった仕返しか? 用意された食事を前に顔を顰める。
「食べたくない」
「我が侭も可愛いが、今日は予定がある。悪いが帰ってきてから甘やかしてやろう」
どうしても外せない仕事が入った。そう言ってアザゼルが姿を消した。急いでいたからか、出掛け際のキスもできな……くていいや。なんで俺が気にしてやらなきゃいけないんだ。
作ってくれた人に悪いので、食欲は湧かないがスープを流し込む。アザゼルの執着具合は、魔族なら普通なのか? 他の魔族や過去の魔王を知らないので判断できない。考え事をしながら、気づいたら食事を半分以上平らげていた。パンの間に肉や野菜を挟んで、ベッドに寝転がる。行儀悪くても、ここで叱る奴はいないし。
書棚に置かれた本の半分は文字が読めるが、残り半分は意味が分からない。文字が読めないのではなく、開いて読もうとするとぼんやりと霞んでしまった。文字が認識できない距離に離れると、背表紙に文字があるのは分かる。近づくと滲んで踊ったようになり、読めなかった。仕方なく読める文字の本を数冊引っ張り出す。
魔法に関する本と、小説みたいなものか? 伝記が近いのかも。読み始めてみると夢中になり、寝転がってパンを齧りながら読み耽った。勇者側ではなく、魔族から見た人間の話らしい。襲って来る人間は弱く、あっさり撃退可能だ。魔王の側近クラスが本気で怒れば、国ひとつ沈めるのに数日程度だった。
何度も勇者を召喚して戦わせた結果、途中で戦いを放棄する異世界人が出た。その者を匿ううちに恋仲となり、その代の魔王と結ばれたのが「贄」の風習の始まりだった。愛する人の願いを聞き入れた魔王が、人間の都への攻撃を禁止したのだ。平和な数百年を過ごし、人間は学んだ。
異世界人は魔王と番っても死なない。魔族に生贄を献上すれば、人間も襲われない。間違った知識で突っ走った結果、魔王を倒すことを後回しにして、異世界人の召喚技術を磨いてしまった。途切れないよう次々と呼び出し、差し出す。自国民でもないので心は痛まないようだ。
あれか? 野良猫を拾った後、新しい飼い主に渡す活動が近い。まあ正確に言うなら、野良猫は他所から攫われてたってオチが付くんだが……。
ムッとしながら本を閉じたところで、自分の周りが光っていることに気づく。ベッドの黒いシーツに何か模様が浮かび上がり、光の量が一気に増した。眩しさに目を閉じた俺は、本を掴んだまま転移する。
「ここ、どこだ?」
窓も扉もなかった部屋の外だ。薄暗い場所は洞窟のような場所だった。土の床に寝転がった状態から身を起こし、周囲を見回す。誰かいる?
「誰だ?」
「贄如きに名乗る名など持たぬ」
吐き捨てる響きに好感度はゼロだ。敵対心が滲む視線はひとつではなく、俺はどうやらマズい状況に陥ったのか。肌寒い洞窟らしき穴蔵で、握り締めた本をしっかり掴む。武器になりそうなのは、これだけ。アザゼルみたいに魔法が使える魔族なら、俺の命なんて一瞬で消し飛ぶな。嫌な予想に、背に冷たい汗が流れた。
「食べたくない」
「我が侭も可愛いが、今日は予定がある。悪いが帰ってきてから甘やかしてやろう」
どうしても外せない仕事が入った。そう言ってアザゼルが姿を消した。急いでいたからか、出掛け際のキスもできな……くていいや。なんで俺が気にしてやらなきゃいけないんだ。
作ってくれた人に悪いので、食欲は湧かないがスープを流し込む。アザゼルの執着具合は、魔族なら普通なのか? 他の魔族や過去の魔王を知らないので判断できない。考え事をしながら、気づいたら食事を半分以上平らげていた。パンの間に肉や野菜を挟んで、ベッドに寝転がる。行儀悪くても、ここで叱る奴はいないし。
書棚に置かれた本の半分は文字が読めるが、残り半分は意味が分からない。文字が読めないのではなく、開いて読もうとするとぼんやりと霞んでしまった。文字が認識できない距離に離れると、背表紙に文字があるのは分かる。近づくと滲んで踊ったようになり、読めなかった。仕方なく読める文字の本を数冊引っ張り出す。
魔法に関する本と、小説みたいなものか? 伝記が近いのかも。読み始めてみると夢中になり、寝転がってパンを齧りながら読み耽った。勇者側ではなく、魔族から見た人間の話らしい。襲って来る人間は弱く、あっさり撃退可能だ。魔王の側近クラスが本気で怒れば、国ひとつ沈めるのに数日程度だった。
何度も勇者を召喚して戦わせた結果、途中で戦いを放棄する異世界人が出た。その者を匿ううちに恋仲となり、その代の魔王と結ばれたのが「贄」の風習の始まりだった。愛する人の願いを聞き入れた魔王が、人間の都への攻撃を禁止したのだ。平和な数百年を過ごし、人間は学んだ。
異世界人は魔王と番っても死なない。魔族に生贄を献上すれば、人間も襲われない。間違った知識で突っ走った結果、魔王を倒すことを後回しにして、異世界人の召喚技術を磨いてしまった。途切れないよう次々と呼び出し、差し出す。自国民でもないので心は痛まないようだ。
あれか? 野良猫を拾った後、新しい飼い主に渡す活動が近い。まあ正確に言うなら、野良猫は他所から攫われてたってオチが付くんだが……。
ムッとしながら本を閉じたところで、自分の周りが光っていることに気づく。ベッドの黒いシーツに何か模様が浮かび上がり、光の量が一気に増した。眩しさに目を閉じた俺は、本を掴んだまま転移する。
「ここ、どこだ?」
窓も扉もなかった部屋の外だ。薄暗い場所は洞窟のような場所だった。土の床に寝転がった状態から身を起こし、周囲を見回す。誰かいる?
「誰だ?」
「贄如きに名乗る名など持たぬ」
吐き捨てる響きに好感度はゼロだ。敵対心が滲む視線はひとつではなく、俺はどうやらマズい状況に陥ったのか。肌寒い洞窟らしき穴蔵で、握り締めた本をしっかり掴む。武器になりそうなのは、これだけ。アザゼルみたいに魔法が使える魔族なら、俺の命なんて一瞬で消し飛ぶな。嫌な予想に、背に冷たい汗が流れた。
18
お気に入りに追加
1,055
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる