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16.合意がなければアウトだ

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 この部屋で時間感覚はぼやけるが、なんとなく目が覚めた時間を朝と定めた。時計もないし、窓の外の明かりも差し込まない以上、他に判断しようがない。空腹の時間で判断してもいいんだけど。

 抱き潰されて眠ってる時間が長い。だんだん慣れていく自分が怖かった。数日篭っては帰っていき、僅か1日か半日程度で戻ってくる。繰り返すサイクルが掴めてくると、コイツは入り浸ってていいのかと疑問が浮かんだ。

「なあ、アザゼル」

 馴れ合いなのか、名を呼ぶのに抵抗がない。まあ体の奥まで開いて確認された仲だから、名前くらい今更か。

「どうした?」

「仕事しなくていいの?」

 どう言う意味だと返され、仕事をしないでこの部屋に入り浸っていることを指摘した。普通に考えたら、仕事をしてる時間が短すぎる。数日仕事をして、1日休みだろう。それに毎日帰ってくるなら、休む時間もあるから抱かれなくて済むかも知れない。打算めいた期待もあった。

「仕事を溜めたことはないぞ」

「そんなに仕事少ないのか?」

「組織の頂点が忙しいのは、おかしいだろう」

 ん? そうなの? よくよく話を聞くと、魔族は長寿なこともあり仕事の時間は元から少ない。人間のようにあくせく働くことは、美徳ではなく能無しの証拠だと言い切った。有能な者は己の手足となる部下を使いこなし、仕事時間を短縮するそうだ。特殊な能力や才能がなければ、手足側に回るので忙しい。

 なんとも傲慢な言い分だが、魔族の理屈も理解できる。情報から先読みして指示したパソコンが勝手に働いてくれるのと、似たような考え方だろう。

「そなたと過ごす時間を減らす気はない、ハヤト」

 寂しかったのか? 勘違い男に首を横に振った。だが強がりと受け取られてしまう。そのままいつも通りに押し倒され、慌てて腕を突っ張って拒絶した。

「やめろって。尻が痛いから今日はダメ」

「治して……」

「ダメ。無理やりするなら、二度としない」

 ムッとした顔になるものの、待ては成功した。仕方なさそうに俺を抱き締めて横になったアザゼルは、少し体温が低い。ぴたりとくっ付いたアザゼルの吐息が、俺の首筋にかかった。嫌がらせか?

「ハヤトは余に冷たい」

「……いきなり呼び出されて捨てられた。拾ってくれたのは感謝するが、問答無用で犯されて喜ぶ男がいるか?」

「大切に抱いたのに、犯したとは人聞きの悪い」

「俺にとっては強姦だよ」

 合意がない性行為だ。きっぱり言い切ったら、驚いた顔で起き上がった。

「だが感じていたであろう?」

「生理現象です」

 付け入る隙は与えない。感じたから合意と考えるのは間違ってる! 言い渡した俺に、アザゼルは衝撃を受けた様子だった。少し俯き考え込んでしまう。同情する気はないが、気になった。

「怒ったのか?」

「……ハヤトを逃さない方法を考えていた」

 にやりと笑った美形の鼻を摘んで引っ張り、俺は後悔した。コイツに同情は不要だ。蹴飛ばして背中を向けると、当然のように抱き寄せられる。背中に触れるアザゼルの低めの体温が、じわじわと馴染んだ。肌ごしに聞こえる鼓動に目を閉じ、俺は久しぶりに気絶ではない眠りに落ちた。
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