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15.窓も扉もない部屋に監禁じゃないか
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抱き潰された俺は、腰の痛みに呻いていた。治せるくせに放置していきやがったな。寝返りを打つだけでも腰に響くし、腹の奥は重い上、尻も力を入れると痛む。
「ぜってぇ殴る」
「何を殴るのだ?」
扉が開く音がしなかった。振り向こうとして、尻の痛みにシーツへ沈む。回り込んで俺の顔を覗いたアザゼルは、腹が立つほどすっきりした顔をしていた。あれだけ好き放題に貪れば、さぞ気分がいいだろうさ。睨みつけた俺の背中から腰へと手を滑らせる。すぅと痛みが楽になった。
「あ、ありがと」
文句は文句、礼は礼。複雑な思いを滲ませつつ、もごもごと礼を口にした。なんで驚いた顔をしてるんだよ。美形ってのは、どんな表情でも様になる。その整った顔を活かしてどんな美女でも手に入るくせに、なんで俺なんだ?
「何か食べるか? それとも風呂でも入りたいのか」
機嫌を取るアザゼルは、俺の黒髪を指先で遊ぶ。短い髪に触れて感触を楽しみながら、口元を緩めた。
「先に食べる」
「わかった。用意させよう」
何か合図を送ったように見えないが、アザゼルはベッドに腰掛けた俺の面倒を見始めた。体は綺麗に拭われているらしく、さっぱりしている。全裸なので渡された下着からシャツ、靴下に至るまで身につけた。問題は首輪だ。
「これ外してくれ」
「この首輪はハヤトの安全のためだ」
よくわからないが、真剣に外さないと言い聞かされた。そういや、この部屋には扉がない。改めてぐるりと見回した部屋は、違和感だらけだった。
窓も扉もなく、まるで地下室みたいだ。いや、地下室だって出入りの扉くらいはある。それさえないから見えるのは、書棚とタペストリー、ベッド、カーテンだけか。カーテンの先はバスルームやトイレへ続くが、当然行き止まりだ。連れてこられた時も、空間転移みたいな魔法だったな。
落ち着いて部屋を見回す時間がなかったから、ずっと気づいてなかった。これって監禁じゃないか?
「ここにいて何が危険なんだよ。あんた……アザゼルが魔法で出入りするだけだろ」
あんたと呼んだ瞬間、ものすごく悲しそうな顔をされたので、つい名前を呼び直してしまった。名前を知ってるのに口にしないのは、確かに失礼だと思う。そういうイジメみたいな言動は控えよう。アザゼルが可哀想なのはもちろんだが、俺も気分が悪い。
「わからぬか? 余が魔法で出入りするなら、他の魔族も出入りが可能だ」
話しながら、アザゼルは空中から何かを取り寄せる仕草をした。部屋の中央より向こう側のテーブルに、料理が現れる。前回もこうやって運んだのか。本当に魔法だな、すごく便利そうだ。
「ハヤトは、魔王たるこのアザゼルの伴侶だ。それだけで狙われる。決して他の魔族と口を利くな、耳を貸すな。信用したら食われるぞ」
曖昧に頷いておく。すでに人間の国王達に騙された後だから、アザゼルの言葉も疑い半分で聞いておいた。騙されたばかりで用心深くなるのは当然だと、何故か当事者のアザゼルから肯定される。
「いいのかよ、疑ってても」
「構わぬ。いずれ理解してもらえるからな」
気の長い答えだと笑ったが、よく考えたら寿命がとんでもなく長いんだった。それは気が長いのではなく、時間の観念が違うのだろう。もう尻も腰も痛くないのに、抱き上げて運ばれた。
「自分で歩く!」
「治さなければよかったか」
残念そうにとんでもない発言をされて、俺は文句を飲み込む。この様子じゃ、次は本当にやられそう……じゃなくて! 次があったらマズいから対策を練らなくちゃな。
「ぜってぇ殴る」
「何を殴るのだ?」
扉が開く音がしなかった。振り向こうとして、尻の痛みにシーツへ沈む。回り込んで俺の顔を覗いたアザゼルは、腹が立つほどすっきりした顔をしていた。あれだけ好き放題に貪れば、さぞ気分がいいだろうさ。睨みつけた俺の背中から腰へと手を滑らせる。すぅと痛みが楽になった。
「あ、ありがと」
文句は文句、礼は礼。複雑な思いを滲ませつつ、もごもごと礼を口にした。なんで驚いた顔をしてるんだよ。美形ってのは、どんな表情でも様になる。その整った顔を活かしてどんな美女でも手に入るくせに、なんで俺なんだ?
「何か食べるか? それとも風呂でも入りたいのか」
機嫌を取るアザゼルは、俺の黒髪を指先で遊ぶ。短い髪に触れて感触を楽しみながら、口元を緩めた。
「先に食べる」
「わかった。用意させよう」
何か合図を送ったように見えないが、アザゼルはベッドに腰掛けた俺の面倒を見始めた。体は綺麗に拭われているらしく、さっぱりしている。全裸なので渡された下着からシャツ、靴下に至るまで身につけた。問題は首輪だ。
「これ外してくれ」
「この首輪はハヤトの安全のためだ」
よくわからないが、真剣に外さないと言い聞かされた。そういや、この部屋には扉がない。改めてぐるりと見回した部屋は、違和感だらけだった。
窓も扉もなく、まるで地下室みたいだ。いや、地下室だって出入りの扉くらいはある。それさえないから見えるのは、書棚とタペストリー、ベッド、カーテンだけか。カーテンの先はバスルームやトイレへ続くが、当然行き止まりだ。連れてこられた時も、空間転移みたいな魔法だったな。
落ち着いて部屋を見回す時間がなかったから、ずっと気づいてなかった。これって監禁じゃないか?
「ここにいて何が危険なんだよ。あんた……アザゼルが魔法で出入りするだけだろ」
あんたと呼んだ瞬間、ものすごく悲しそうな顔をされたので、つい名前を呼び直してしまった。名前を知ってるのに口にしないのは、確かに失礼だと思う。そういうイジメみたいな言動は控えよう。アザゼルが可哀想なのはもちろんだが、俺も気分が悪い。
「わからぬか? 余が魔法で出入りするなら、他の魔族も出入りが可能だ」
話しながら、アザゼルは空中から何かを取り寄せる仕草をした。部屋の中央より向こう側のテーブルに、料理が現れる。前回もこうやって運んだのか。本当に魔法だな、すごく便利そうだ。
「ハヤトは、魔王たるこのアザゼルの伴侶だ。それだけで狙われる。決して他の魔族と口を利くな、耳を貸すな。信用したら食われるぞ」
曖昧に頷いておく。すでに人間の国王達に騙された後だから、アザゼルの言葉も疑い半分で聞いておいた。騙されたばかりで用心深くなるのは当然だと、何故か当事者のアザゼルから肯定される。
「いいのかよ、疑ってても」
「構わぬ。いずれ理解してもらえるからな」
気の長い答えだと笑ったが、よく考えたら寿命がとんでもなく長いんだった。それは気が長いのではなく、時間の観念が違うのだろう。もう尻も腰も痛くないのに、抱き上げて運ばれた。
「自分で歩く!」
「治さなければよかったか」
残念そうにとんでもない発言をされて、俺は文句を飲み込む。この様子じゃ、次は本当にやられそう……じゃなくて! 次があったらマズいから対策を練らなくちゃな。
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