【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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9.事情を聞くと突き放せない

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 互いの事情を擦り合わせた結果、俺が帰る方法がないと判明した。魔王であるアザゼルが己の名と名誉に誓って知らないと断言した。国王は平然と嘘をついたのだ。今までの召喚者はすべて、贄として魔族に捧げられたらしい。贄という表現は聞こえが悪いな。実際は嫁だった。

 魔族は繁殖しない。跡取りは己の分身を生み出すため、嫁に子を産ませる選択肢は最初から排除された。死期が近づいたら、魔力を与えた分身を作れば終わり。ならばなぜ嫁が必要なのか。

「我が寿命は果てない。故に嫁と寿命を繋ぎ、半減させることで死を得る。我ら長寿の魔族とて、長く生きれば狂うものだ。その前に愛しい者と死を迎えたいと願うのは、当然であろう?」

「事情はわかった」

 とんでもなく長い寿命を減らすための嫁だった。実際、嫁を拒んで狂った魔王も過去に存在したようだ。世界が崩壊しかけたせいで、魔族に嫁を贈る習慣が出来た。

「なぜ俺だったんだ?」

「魔王たる余の魔力と引き合ったのが、ハヤトだっただけのこと」

 それだけのこと? 俺の人生を滅茶苦茶にした原因がこれか。もう宝くじに当たるくらいの確率だな。前後賞含めて大当たりだ。今回の贄である俺と相性が良かったのが、魔王アザゼルだったのだ。

 後ろから俺を抱き締め、髪に口づけるアザゼルはご機嫌だった。美貌を微笑みで満たし、俺を撫で続ける。抵抗を試みたせいで、両手両足を拘束された俺は、人形のように抱き上げられていた。

「我が花嫁よ、何か希望があれば聞こう。余の望みに反しない範囲で、叶えてやる」

 俺は勇者として召喚されたのに、実際は贄として魔王に贈られた。これって詐欺だよな? 別に勇者になりたいわけじゃないし、命懸けで戦いたいとも思わない。装備がやけに安っぽかったのは、理由づけだったから。急いで送り出したのは、魔王が迎えに来る前に渡したいから。全部、あの国の都合だろ。

「ダメなのは何だ?」

 アザゼルの望みに反しない。その範囲を先に確認しよう。

「ハヤトや余の死は無理だ。それから元の世界に帰す方法も知らない」

 死ぬのは無理。つまり簡単に死ねないのか。死ぬために寿命を分けるくらいだから、自殺も不可能だろう。予想がついているのに、試すほど自虐的でもなかった。その部分は諦めるとして……。

「なあ、あの国の連中を痛い目に遭わせるのは?」

「構わん。すでに贄は受け取ったが、対価を契約したわけではない」

 向こうが気を遣って伝承に従い、一方的に召喚してプレゼントするだけ。魔王が寄越せと強請ったわけじゃなかった。日本人が得意な、省略された行間を察する能力が炸裂する。便利だが、時々迷惑だ。アザゼルが悪くないと気づいちゃったから。突き放すのも気が引けた。無理矢理さらったのはアザゼルの意思じゃない。同意のない性行為は問題だけど。

「じゃあそれと……手足の拘束を解いてくれ」

「ふむ。首輪は取らぬぞ」

 ちっ、それも要求しようと思ってたのに。先手を打たれた。徐々に懐柔して、首輪も外させよう。

「わかった。手が痛いから早く」

 急かすと、くすくす笑いながらアザゼルがパチンと指を鳴らした。呪文もなく拘束が外れる。固まっていたせいで凝った肩を揉みながら、俺は後ろの美丈夫を見上げた。

 俺が女だったら惚れる。確実にイケメンだ。優しくて見た目が良くて、セックスがうまい……と思う。どうして女を召喚しないのか不思議に思いながら、俺は抱き寄せる腕に逆らわなかった。
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