【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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8.勇者じゃなくて贄だった

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 目が覚めたら……残念ながら黒いシーツだった。ヤられ損でもいいから帰りたかったのに。ゆっくり動く。全身が筋肉痛みたいだった。手も足もとにかく痛い。挙げ句、人には言えないような部分も痛かった。

 尻も腹の奥も重くて辛い。座ろうとしても腰が痛くて無理だった。もぞもぞ動く俺は、びくりと体を震わせる。何か溢れ出た。ある程度の知識はあるし、何かの正体は分かっている。口にしたくないだけ。

「くそっ……最低だ」

「そうか? 気持ちよさそうだったが」

 いたのか!? くつりと喉を震わせて笑う嫌味な声に、振り向こうとして撃沈した。シーツに沈んだ俺は動けない。うっかり動こうとしたせいで、腰に走った激痛で呼吸が止まった。気を遣いながら息を吐き出す。

「それほど痛むか?」

「ったりめぇだろ」

 口が悪くなった自覚はあるが、こんな男相手に優しく接する気はない。衣擦れの音がして、アザゼルの影が差した。怖いが逃げる余力はない。小刻みに震える肩に触れた手が、首筋まで撫で上げた。ぞくりと背筋に痺れが走る。嘘だろ?

「楽にしてやろう」

 頭の中で「殺してやろう」に変換され、一瞬でパニックに陥った。ろくに動けなくて抵抗できないのに、なんとか遠ざかろうと暴れる。痛いとか言ってる場合じゃなかった。蹴飛ばそうと伸ばした足を掴まれ、ぐいっと抱えられる。バランスを崩した俺の首輪に繋がる鎖が、じゃらりと音を立てた。

「大人しくしておれ。贄は花嫁も同然、大切に愛するのは魔王の務めぞ」

 驚きで固まる。いま、何て言った?

「……魔、王?」

「なんだ、知らずに捧げられたのか」

 人間どもは雑で困る。そんなニュアンスで呟いたアザゼルの銀髪が肩を滑った。顔を近づけたアザゼルは、治療だと前置きして体中を撫で回す。やや冷たい手のひらが触れた直後、じんわりと温かくなった。筋肉痛に似た痛みも、不本意な場所の激痛も楽になる。特に腹部と尻は念入りに撫で回された。屈辱だが、正直助かった。

「痛みが、消えた?」

「異世界から連れてこられた贄は、皆驚くらしいな」

 魔法が当たり前の世界に、日本から拉致された俺は、その効果と便利さに言葉を失った。それより、目の前の男の肩書きだ。やたら顔立ちが整ったイケメンで、二種類の角が左右に付いてるし、背中に鱗があるけど……魔王?

「本当に魔王なのか? 俺が戦って倒す相手の?」

「なぜそのような見解になるのか、分からん。異世界から呼び寄せた適合者を贄に捧げ、我らの寛恕を乞うのが人間どものやり方ぞ」

 戦うという選択肢が、ない。俺が聞いた話と全然違っていた。胡座をかいて座った俺は、アザゼルの視線から逃れるためにシーツを剥いで体に巻きつける。嫌らしい目で股間を注視するんじゃねえ。

「俺は魔王を倒すために、勇者として召喚したと聞いてる」

「そのような話は知らぬ。贄の準備が整ったゆえ送り出すと聞いた」

 完全に食い違ってる。怒りに震える俺の口から漏れたのは、呪詛に近い黒い感情だった。

「あのやろう、国王だかなんだか知らねえが、俺を贄として食わせる気だったのか? 冗談じゃねえ、俺は帰りたいだけだぞ。年端もいかない少女を嫁にあてがおうとした辺りからおかしいと思ってた……」

「嫁? ハヤトは我が花嫁であり、そなたが女を抱く未来はない」

 きっぱり言い切るアザゼルが、俺の怨嗟に満ちた声を遮った。ぎろりと睨んだ先で、なぜか彼は嬉しそうに笑う。

「なんとも愛らしい。子猫が爪を立てて拒む様に似ておる」

 例えも、頭の中も、目もおかしい。腐ってやがる。
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