3 / 38
3.奪われたファーストキス ※微
しおりを挟む
異世界だろうが何だろうが、まず18歳の俺をお姫様抱っこするのは重い。鍛え上げたマッチョではないが、ひょろひょろガリ勉タイプでもなかった。一般的な体重はあるはず。それを無重力のように軽々と抱き上げた美形は、穏やかに微笑んだ。
これってお姫様の境遇だよな?
「あの……助けてくれてありがとうございます」
まずお礼、次に挨拶だが……ここで自己紹介もするべきか。いろいろ伏せる方が正しいのか。判断できなかった。この世界の仕組みがほぼ理解できていない。何も説明されなかったので、ラノベにありがちな中世の西洋風程度の知識しかなかった。
「気にするな、ケガはないか?」
「はい、えっと……その、下ろしてもらっていいですか」
「ダメだ」
即答された。理由は分からないが、美形の顔をじっくり見つめる。重いのをやせ我慢してる様子はない。細マッチョ系なのか、抱き上げる腕はわりと筋肉質で硬かった。脱いだら腹筋がばきばきに割れてるタイプか。
頭に複数の角がある。捻じれた木の枝に似た角が立ち、その脇に羊のような丸まった角が並んでいた。人間の耳より横に細い耳はピアスがじゃらりと並ぶが、異形の彼によく似合ってる。
長い銀髪を揺らす美形は、日本人よりは濃い肌の色で褐色ではない。日に焼けた日本のスポーツ選手くらいの感じか。顔は明らかに西洋系で鼻が高く、顎がすっと細い。目はきついタイプなのに、微笑んでる顔はイケメンだった。女性ならきゃーと騒ぐシチュエーションだが、残念ながら俺は男だ。
「下りたい」
「却下だ」
また即答か。諦めた俺は鎧も剣も全部脱がされた己の姿を眺める。運動をしないのでやや白い肌、不健康ではないが鍛えてもいない柔らかい腹筋。黒髪だが、瞳の色は茶色がかっていた。生粋の日本人だが、家族の中でも学校でも浮くくらい目の色が薄い。
「此度の贄は好ましいな。食らうに申し分ない」
ん? 物騒な表現が聞こえたんだが? 俺、食われるの? びくりと身を固くした俺を安心させるように、彼は名乗った。
「我が名はアザゼル、そなたは?」
「失礼しました。勇人です」
向こうが名字を名乗らないんだから、俺も名乗らなくていいよな。個人情報保護法はなさそうだけど、小出しにした方が安全だ。フルネームを知られたら支配されるなんてラノベもあったらしいし。答えながら考えに夢中になった俺は反応が鈍かった。
体が浮き上がる感覚に襲われた時には遅く、唇に何かが触れる。そのまま塞がれて、ぬるりとした感触が唇を濡らした。びっくりしすぎて歯を食いしばる。見開いた目に映るのは、ぼやけるほど近い美形だった。目の色が濃い青だ。紺に近いけど、やや紫がかっていた。
くちゅ……濡れた音で我に返る。これって、キスされてるのか?
「やめっ……ふ、ぅん……」
うっかり言葉で抵抗したのがまずかった。やめてくれと抗議するために開いた口の中を蹂躙され、舌を絡めて吸いあげられる。ぞくりと背筋を何かが這い上がった。押しのけようとする両手は動かず、噛んでやろうとした顎も言うことを聞かない。
「うっ……ぁ……」
自分の声とは思えない響きに耳を塞ぎたいが、それも出来なかった。艶めかしい水音を響かせて終わったキスは、俺のファーストキスだ。家族と飼い犬のペロ以外が触れたことのない唇を存分に味わったアザゼルは、満足そうに濡れた赤い唇で笑った。
「最高の貢ぎ物だ。さあ、帰るぞ」
どこへ? 尋ねたいが痺れた舌は動かせず、荒く乱れた呼吸を整える俺は拉致された。
これってお姫様の境遇だよな?
「あの……助けてくれてありがとうございます」
まずお礼、次に挨拶だが……ここで自己紹介もするべきか。いろいろ伏せる方が正しいのか。判断できなかった。この世界の仕組みがほぼ理解できていない。何も説明されなかったので、ラノベにありがちな中世の西洋風程度の知識しかなかった。
「気にするな、ケガはないか?」
「はい、えっと……その、下ろしてもらっていいですか」
「ダメだ」
即答された。理由は分からないが、美形の顔をじっくり見つめる。重いのをやせ我慢してる様子はない。細マッチョ系なのか、抱き上げる腕はわりと筋肉質で硬かった。脱いだら腹筋がばきばきに割れてるタイプか。
頭に複数の角がある。捻じれた木の枝に似た角が立ち、その脇に羊のような丸まった角が並んでいた。人間の耳より横に細い耳はピアスがじゃらりと並ぶが、異形の彼によく似合ってる。
長い銀髪を揺らす美形は、日本人よりは濃い肌の色で褐色ではない。日に焼けた日本のスポーツ選手くらいの感じか。顔は明らかに西洋系で鼻が高く、顎がすっと細い。目はきついタイプなのに、微笑んでる顔はイケメンだった。女性ならきゃーと騒ぐシチュエーションだが、残念ながら俺は男だ。
「下りたい」
「却下だ」
また即答か。諦めた俺は鎧も剣も全部脱がされた己の姿を眺める。運動をしないのでやや白い肌、不健康ではないが鍛えてもいない柔らかい腹筋。黒髪だが、瞳の色は茶色がかっていた。生粋の日本人だが、家族の中でも学校でも浮くくらい目の色が薄い。
「此度の贄は好ましいな。食らうに申し分ない」
ん? 物騒な表現が聞こえたんだが? 俺、食われるの? びくりと身を固くした俺を安心させるように、彼は名乗った。
「我が名はアザゼル、そなたは?」
「失礼しました。勇人です」
向こうが名字を名乗らないんだから、俺も名乗らなくていいよな。個人情報保護法はなさそうだけど、小出しにした方が安全だ。フルネームを知られたら支配されるなんてラノベもあったらしいし。答えながら考えに夢中になった俺は反応が鈍かった。
体が浮き上がる感覚に襲われた時には遅く、唇に何かが触れる。そのまま塞がれて、ぬるりとした感触が唇を濡らした。びっくりしすぎて歯を食いしばる。見開いた目に映るのは、ぼやけるほど近い美形だった。目の色が濃い青だ。紺に近いけど、やや紫がかっていた。
くちゅ……濡れた音で我に返る。これって、キスされてるのか?
「やめっ……ふ、ぅん……」
うっかり言葉で抵抗したのがまずかった。やめてくれと抗議するために開いた口の中を蹂躙され、舌を絡めて吸いあげられる。ぞくりと背筋を何かが這い上がった。押しのけようとする両手は動かず、噛んでやろうとした顎も言うことを聞かない。
「うっ……ぁ……」
自分の声とは思えない響きに耳を塞ぎたいが、それも出来なかった。艶めかしい水音を響かせて終わったキスは、俺のファーストキスだ。家族と飼い犬のペロ以外が触れたことのない唇を存分に味わったアザゼルは、満足そうに濡れた赤い唇で笑った。
「最高の貢ぎ物だ。さあ、帰るぞ」
どこへ? 尋ねたいが痺れた舌は動かせず、荒く乱れた呼吸を整える俺は拉致された。
11
お気に入りに追加
1,055
あなたにおすすめの小説
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる