【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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3.奪われたファーストキス ※微

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 異世界だろうが何だろうが、まず18歳の俺をお姫様抱っこするのは重い。鍛え上げたマッチョではないが、ひょろひょろガリ勉タイプでもなかった。一般的な体重はあるはず。それを無重力のように軽々と抱き上げた美形は、穏やかに微笑んだ。

 これってお姫様の境遇だよな?

「あの……助けてくれてありがとうございます」

 まずお礼、次に挨拶だが……ここで自己紹介もするべきか。いろいろ伏せる方が正しいのか。判断できなかった。この世界の仕組みがほぼ理解できていない。何も説明されなかったので、ラノベにありがちな中世の西洋風程度の知識しかなかった。

「気にするな、ケガはないか?」

「はい、えっと……その、下ろしてもらっていいですか」

「ダメだ」

 即答された。理由は分からないが、美形の顔をじっくり見つめる。重いのをやせ我慢してる様子はない。細マッチョ系なのか、抱き上げる腕はわりと筋肉質で硬かった。脱いだら腹筋がばきばきに割れてるタイプか。

 頭に複数の角がある。捻じれた木の枝に似た角が立ち、その脇に羊のような丸まった角が並んでいた。人間の耳より横に細い耳はピアスがじゃらりと並ぶが、異形の彼によく似合ってる。

 長い銀髪を揺らす美形は、日本人よりは濃い肌の色で褐色ではない。日に焼けた日本のスポーツ選手くらいの感じか。顔は明らかに西洋系で鼻が高く、顎がすっと細い。目はきついタイプなのに、微笑んでる顔はイケメンだった。女性ならきゃーと騒ぐシチュエーションだが、残念ながら俺は男だ。

「下りたい」

「却下だ」

 また即答か。諦めた俺は鎧も剣も全部脱がされた己の姿を眺める。運動をしないのでやや白い肌、不健康ではないが鍛えてもいない柔らかい腹筋。黒髪だが、瞳の色は茶色がかっていた。生粋の日本人だが、家族の中でも学校でも浮くくらい目の色が薄い。

「此度の贄は好ましいな。食らうに申し分ない」

 ん? 物騒な表現が聞こえたんだが? 俺、食われるの? びくりと身を固くした俺を安心させるように、彼は名乗った。

「我が名はアザゼル、そなたは?」

「失礼しました。勇人はやとです」

 向こうが名字を名乗らないんだから、俺も名乗らなくていいよな。個人情報保護法はなさそうだけど、小出しにした方が安全だ。フルネームを知られたら支配されるなんてラノベもあったらしいし。答えながら考えに夢中になった俺は反応が鈍かった。

 体が浮き上がる感覚に襲われた時には遅く、唇に何かが触れる。そのまま塞がれて、ぬるりとした感触が唇を濡らした。びっくりしすぎて歯を食いしばる。見開いた目に映るのは、ぼやけるほど近い美形だった。目の色が濃い青だ。紺に近いけど、やや紫がかっていた。

 くちゅ……濡れた音で我に返る。これって、キスされてるのか?

「やめっ……ふ、ぅん……」

 うっかり言葉で抵抗したのがまずかった。やめてくれと抗議するために開いた口の中を蹂躙され、舌を絡めて吸いあげられる。ぞくりと背筋を何かが這い上がった。押しのけようとする両手は動かず、噛んでやろうとした顎も言うことを聞かない。

「うっ……ぁ……」

 自分の声とは思えない響きに耳を塞ぎたいが、それも出来なかった。艶めかしい水音を響かせて終わったキスは、俺のファーストキスだ。家族と飼い犬のペロ以外が触れたことのない唇を存分に味わったアザゼルは、満足そうに濡れた赤い唇で笑った。

「最高の貢ぎ物だ。さあ、帰るぞ」

 どこへ? 尋ねたいが痺れた舌は動かせず、荒く乱れた呼吸を整える俺は拉致された。
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