上 下
134 / 137
番外編

(国王派)滅びるべくして滅びる

しおりを挟む
 フロレンティーノ公爵家が裏切った。その一報は、ある意味諦めをもって受け入れられた。正直、国王派を抜けるチャンスを窺っているのは、私も同じだった。

 あの夜会が崩壊の始まりだ。浮気相手の腰を抱いた王太子フリアン殿下が、婚約者に婚約破棄を突きつけた。国王派の貴族からも悲鳴と非難の声が上がる。暴挙でしかなかった。現状をまったく理解していない。中立のフロレンティーノ公爵がいるから、ぎりぎり保たれている均衡が壊れた。

 国王派は古参の貴族家が多い。王家を盛り立て守っていくのが使命と教えられて育ち、そのままに行動してきた。だが有能だった先代王と違い、当代の国王オレガリオ陛下は軽率すぎる。何より身内に甘かった。心配したのは、我が子可愛さに処分を甘くすること。

 懸念はそのまま現実となった。公爵令嬢は婚約破棄後、毒を飲まされて昏倒している。意識がなかなか戻らず、つい先日目覚めたばかりだった。もし我が娘が同じ目に遭ったら、ラウレアノ伯爵家は一族が絶えるまで戦うだろう。

 武闘派で知られる我が一族も、未来を選ぶときに来たのだ。このまま愚かな王に従い滅びるか、新たな主君を得て繁栄し持続するか。迷う必要はない。忠誠とは相応しい主に捧げてこそ意味がある。滅びの道連れにされるのはご免だった。

 すぐ寝返れば、追撃を食らう。一族の頂点が伯爵家でしかないラウレアノで、従う子爵家や男爵家の安全を図るため、私は一計を案じる。武力を貴ぶラウレアノ家にあって、私は異端児だった。武力より策略を巡らすことに長け、冷静に情勢を読む。

 父は、お前がこの時代に生まれた意味がある、と私を跡取りに据えた。亡くなるまで、一族から反対の声が上がっても意見を変えず。その恩に報い、一族が助かる道を見つけ出すのが私の役目だ。

「エリサリデ侯爵閣下にお目にかかりたい」

 貴族派の重鎮である侯爵と密談を行う。個の力より全体の戦力として、ラウレアノ家は貴族派へ吸収された。その上で、当主である私は国王派に残る。いや、残ったフリをして情報を集めた。一族に見捨てられても王族に尽くす忠臣の仮面を被り、愚か者共の逃走ルートや襲撃計画を調べ上げる。

 情報を流すことに、心はちくりとも痛まなかった。こんな連中が我が国を、民を食い物にしてきたのか。と逆に腹立たしい。もっと早く気づいて離脱すべきだった。宝石や金銀の煌びやかさより、民の笑顔の方が何倍も価値があるというのに。

 離宮の襲撃計画を流したが、フロレンティーノ公爵閣下への攻撃は知らなかった。まだ足りない。ぎりぎりまで残り、国王派の居場所をすべて流す。小公爵様が動く手助けをし、エリサリデ侯爵に労いの言葉をもらった。

 ドゥラン侯爵夫人の逃走の邪魔をし、国境に指名手配を掛ける。順調に進む断罪に、国王派はついに絶えた。愚王を始めとする罪人は捕らえられて裁かれる。残酷な罰だと顔を背ける貴族もいる中、私は静かに見守った。

 かつて忠誠を捧げた王家の最期だ。どんな相手であれ死体に唾吐く無礼は、武人の恥だった。喝采を送る気はなく、当然の罰に震える彼らを嘲笑うつもりにもなれない。私に出来るのは、彼らの最期を覚えて伝えることだろう。

 一族の伝承に、このような愚かな主君がいたこと。正義が悪を滅ぼしたこと。嘘偽りなく誇張せず、事実を語り継ぐ――フェリノス国は崩壊しても、この国の民は生き続けていくのだから。教訓はいつの世になっても色褪せない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...