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番外編
(元側近)叶わぬ夢を見る
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ライモンド・フェリノス。王家の名を戴く私は、王位継承権を持つ。常に尊重され、敬われる立場だった。実際、今までそう扱われてきた。王太子に次ぐ王家の男児、従姉妹である王女パストラより継承順位は高い。
王太子が生きて成人する見込みとなれば、彼を補佐するのが私の役目だ。そう信じて距離を縮めた。リベジェス公爵令嬢と親しい仲になったのも、トラーゴ伯爵令嬢と深く交友していることも知っている。これは側近だけの特権だった。交友関係を把握して、様々な便宜を図る。これで僕の地位も安定するのだから。
フリアンの婚約者はフロレンティーノ公爵令嬢だ。彼によれば、蛮族の血を引く生意気な女らしい。学院へ入学するなり、上位の成績を取った。未来の夫であるフリアンより上位に立つなど、不敬なのではないか? この件で、私達は彼女に悪印象を持った。
私は成績を調整し、五十位以内を保っている。フリアンが三十位前後なので、彼を立てて試験を終えるのだ。貧乏な男爵家や子爵家の愚か者が上位に並ぶのは、忖度を知らないから。次期王であるフリアンより高い成績を残し、文官としての道を開こうとしているのかもしれない。
未来が限られているのだから、少しでも高い位置に上ろうとするのだ。仕方ない。平民とほぼ同じ連中に、言い聞かせても理解できないだろう。
砂漠の国へ嫁いだリベジェス公爵令嬢が戻れば、正妃に。いま手許で寵愛を傾けるトラーゴ伯爵令嬢を側妃に据えて、国を大きくすると未来を語った。フリアンの話に、私達は呼応し共感する。この国で一番財を持つフロレンティーノ公爵家を取り潰そう。そんな提案も出た。
金さえあれば、フロレンティーノ公爵に従う必要はない。生意気な女にフリアンが不快な思いをする理由も消える。嫌がらせは様々な形で行われた。いや、違う。あれは不遜な国賊への処罰なのだ。質の良い高価な文房具を奪い、相応しいレディに与える。
呼び出して貶める発言をし、足を引っかけて転ばせようとした。不発に終わる場合も多いが、少しずつダメージは蓄積したはずだ。蛮族の血を引く女の周囲から、貴族令嬢の姿が消える。これが一つの成果だった。孤立し、そのまま引きこもればいい。
己の行為がどういった結果を齎すか。考えもしなかった。隣国ロベルディの女王は気高く美しく、恐ろしい。私を高みから睨み、冷たい声で断罪の言葉を吐く。隣で銀髪を揺らすあの女は……その庇護下にあった。圧倒的な軍事力と財力、政治力、領土を誇る女王は、彼女の伯母だという。
金髪碧眼、王族特有の整った顔立ち、貴公子に相応しく調整した細身の体。すべてが価値を失った。毒殺など知らないと訴えても、さらりと流される。言い訳は猿轡に塞がれ、暴れても押さえられる。一緒に捕らえられたカストやセルジョも断罪された。
「全員に服毒を命じる……もちろん、それで終わりはせぬ。安心いたせ」
女王の宣言に、全身ががたがた震える。簡単に殺して終わりにしてやらないから、せいぜい苦しめ。そう言われたのだ。怯えない方がおかしいだろう。毒の種類が読み上げられ、ワインに溶かされた。どれも嫌だ。抵抗する私が一番罪が重いと断じられ、白ワインを口元に運ばれる。
「い、嫌だ……死にたくないっ! 嫌だ、やめ……」
抗議しようにも口を開けた瞬間、飲まされてしまう。そう気づいて、恐怖から歯を食いしばった。引き結んだ唇にグラスが触れ、拒んだ口の端を刃で切られる。恐ろしさで小さな悲鳴を上げた隙間に、流し込まれた。
吐こうとした意図は見抜かれ、喉を裂くと微笑む男。こんな頭のおかしい騎士を従える女王が、普通なわけはない。その姪であるアリーチェも。毒は容赦なく腹に収められ、肌が痛痒く感じた。醜い発疹が現れ、服にこすれて潰れる。自慢だった顔も、整えてきた肌も……すべてが壊れた。
関節も筋肉も激痛に苛まれ、転がり回る。それでも死ねないと言われた。いっそ殺してくれたら……そう願いながら、採掘場へ送られる。ここで岩に潰されて死ぬなら、それも悪くない。ずきずきと痛む手足を引きずり、最低限の仕事をこなす。
たまに夢を見る。王になったフリアンの隣に金髪のリベジェス公爵令嬢が立ち、トラーゴ伯爵令嬢もいる。私はその斜め後ろで、宰相の役割を与えられて賞賛を浴びるのだ。目が覚めて、虚しさに自嘲した。叶わない夢ほど、輝かしいものはない。
王太子が生きて成人する見込みとなれば、彼を補佐するのが私の役目だ。そう信じて距離を縮めた。リベジェス公爵令嬢と親しい仲になったのも、トラーゴ伯爵令嬢と深く交友していることも知っている。これは側近だけの特権だった。交友関係を把握して、様々な便宜を図る。これで僕の地位も安定するのだから。
フリアンの婚約者はフロレンティーノ公爵令嬢だ。彼によれば、蛮族の血を引く生意気な女らしい。学院へ入学するなり、上位の成績を取った。未来の夫であるフリアンより上位に立つなど、不敬なのではないか? この件で、私達は彼女に悪印象を持った。
私は成績を調整し、五十位以内を保っている。フリアンが三十位前後なので、彼を立てて試験を終えるのだ。貧乏な男爵家や子爵家の愚か者が上位に並ぶのは、忖度を知らないから。次期王であるフリアンより高い成績を残し、文官としての道を開こうとしているのかもしれない。
未来が限られているのだから、少しでも高い位置に上ろうとするのだ。仕方ない。平民とほぼ同じ連中に、言い聞かせても理解できないだろう。
砂漠の国へ嫁いだリベジェス公爵令嬢が戻れば、正妃に。いま手許で寵愛を傾けるトラーゴ伯爵令嬢を側妃に据えて、国を大きくすると未来を語った。フリアンの話に、私達は呼応し共感する。この国で一番財を持つフロレンティーノ公爵家を取り潰そう。そんな提案も出た。
金さえあれば、フロレンティーノ公爵に従う必要はない。生意気な女にフリアンが不快な思いをする理由も消える。嫌がらせは様々な形で行われた。いや、違う。あれは不遜な国賊への処罰なのだ。質の良い高価な文房具を奪い、相応しいレディに与える。
呼び出して貶める発言をし、足を引っかけて転ばせようとした。不発に終わる場合も多いが、少しずつダメージは蓄積したはずだ。蛮族の血を引く女の周囲から、貴族令嬢の姿が消える。これが一つの成果だった。孤立し、そのまま引きこもればいい。
己の行為がどういった結果を齎すか。考えもしなかった。隣国ロベルディの女王は気高く美しく、恐ろしい。私を高みから睨み、冷たい声で断罪の言葉を吐く。隣で銀髪を揺らすあの女は……その庇護下にあった。圧倒的な軍事力と財力、政治力、領土を誇る女王は、彼女の伯母だという。
金髪碧眼、王族特有の整った顔立ち、貴公子に相応しく調整した細身の体。すべてが価値を失った。毒殺など知らないと訴えても、さらりと流される。言い訳は猿轡に塞がれ、暴れても押さえられる。一緒に捕らえられたカストやセルジョも断罪された。
「全員に服毒を命じる……もちろん、それで終わりはせぬ。安心いたせ」
女王の宣言に、全身ががたがた震える。簡単に殺して終わりにしてやらないから、せいぜい苦しめ。そう言われたのだ。怯えない方がおかしいだろう。毒の種類が読み上げられ、ワインに溶かされた。どれも嫌だ。抵抗する私が一番罪が重いと断じられ、白ワインを口元に運ばれる。
「い、嫌だ……死にたくないっ! 嫌だ、やめ……」
抗議しようにも口を開けた瞬間、飲まされてしまう。そう気づいて、恐怖から歯を食いしばった。引き結んだ唇にグラスが触れ、拒んだ口の端を刃で切られる。恐ろしさで小さな悲鳴を上げた隙間に、流し込まれた。
吐こうとした意図は見抜かれ、喉を裂くと微笑む男。こんな頭のおかしい騎士を従える女王が、普通なわけはない。その姪であるアリーチェも。毒は容赦なく腹に収められ、肌が痛痒く感じた。醜い発疹が現れ、服にこすれて潰れる。自慢だった顔も、整えてきた肌も……すべてが壊れた。
関節も筋肉も激痛に苛まれ、転がり回る。それでも死ねないと言われた。いっそ殺してくれたら……そう願いながら、採掘場へ送られる。ここで岩に潰されて死ぬなら、それも悪くない。ずきずきと痛む手足を引きずり、最低限の仕事をこなす。
たまに夢を見る。王になったフリアンの隣に金髪のリベジェス公爵令嬢が立ち、トラーゴ伯爵令嬢もいる。私はその斜め後ろで、宰相の役割を与えられて賞賛を浴びるのだ。目が覚めて、虚しさに自嘲した。叶わない夢ほど、輝かしいものはない。
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