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117.久しぶりの我が家と専属侍女
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事件がほぼ片付いたこともあり、公爵家の屋敷に戻る。馬車の中で、私はぼんやりと景色を眺めていた。すれ違う馬車はほぼなく、王宮から出ていく馬車ばかり。そんな中、歩いて王宮方面へ向かう人影が目についた。
「止まって!」
合図と同時に声を上げ、馬車の窓からじっと眺める。あの外套は見覚えがあった。
「サーラ?」
私の零した声を聞き取ったのか、馬車に随行する騎士が一人、馬から降りた。仲間に手綱を預け、徒歩で近づく。足を止めた彼女は、話しかけられて外套の頭布を下ろした。
「サーラだわ」
確証を得て声を上げた私の様子に、驚いた顔をする騎士達が動き出す。伝わった言葉に騎士が一礼し、サーラを連れて来てくれた。お礼を言って、彼女を馬車に乗せる。
「行き違いにならなくてよかった」
そう安堵の息を漏らし、走り出した馬車の中で彼女と対峙する。少し痩せたかしら。でも表情は柔らかくなった。
「ただいま戻りました、お嬢様」
「よく戻ったわ、サーラ」
ゆったりと進む馬車の中、しばらくサーラは無言だった。じっと私を見つめ、観察するように手足にも視線を向ける。どこかケガをしていないか、体調は大丈夫か。私も確認するようにサーラの状態を確かめた。
「お嬢様。修道院で……彼女達と話せました」
じっくりと向き合い、話して感情をぶつけ、互いに想いを交わした。そんな話を聞きながら、私は口元が緩んでしまう。サーラが自分から話してくれたのも、無事に戻って来たことも、すべてが嬉しかった。
「ロベルディ出身ではないから置いていかれたのではなく、未来があるから残した。そう言われて、嬉しさより悲しさを感じたのです。きっと、お嬢様がいなければ戻らなかったでしょう」
「そう。戻ってくれてありがとう、サーラ」
自然とその言葉が口をついた。私と打ち解け合う前のサーラなら、仲間として認めた元侍女達と修道女になる道を選んだ。二度目は拒まれないだろう。でも、私を思い浮かべ戻った。この決断は素直に嬉しい。
「お嬢様の侍女として一生を捧げたいと思っております。お許しいただけますか」
「もちろん! もちろんよ」
目の奥がジンとして、涙が溢れそう。ぐっと堪えながら、私は微笑んでみせた。主君となるなら、その方が相応しいはずよ。サーラは笑みを浮かべ、幸せそうに俯いた。泣いてしまったのかしら。
見ないフリしてあげるわ。だから、私の瞬きが多いのも見逃してほしい。馬車が門を潜り、揺れ方が変わった。気まずくない無言が続く馬車は、静かに停まる。外からノックが響き、サーラが顔を上げて尋ねた。
「よろしいでしょうか」
「ええ」
内鍵を外したサーラがノックを返し、騎士がそっと扉を開く。この方、さきほどサーラを迎えに行ってくれた人ね。先日、落馬した私を受け止めた人と同じ? 金茶の髪に明るい緑の瞳、彼の手を借りて馬車から降りた。
付き従うサーラは自分の荷物を後回しにし、私のトランクを手にしている。屋敷の使用人が揃って出迎えた。先に降りたお父様とお兄様に促され、久しぶりの我が家に足を踏み入れる。
公爵邸の内部は、当然だが何も変わっていない。少ししてお祖父様も追いついた。襲われることはないだろうと笑いながら、馬に跨り最後尾を守っていた。お礼を言って迎える。
「まずは食事か!」
声を上げるお祖父様に、苦笑いしたお父様が付き合う。
「アリーチェとカリストは自室で休みなさい。荷物の整理は明日にしよう」
使用人達が運び込んだ荷物が、玄関ホールを埋めていく。その様子を見て、私は父の言葉に甘えることにした。まずは休みたいわ。
「止まって!」
合図と同時に声を上げ、馬車の窓からじっと眺める。あの外套は見覚えがあった。
「サーラ?」
私の零した声を聞き取ったのか、馬車に随行する騎士が一人、馬から降りた。仲間に手綱を預け、徒歩で近づく。足を止めた彼女は、話しかけられて外套の頭布を下ろした。
「サーラだわ」
確証を得て声を上げた私の様子に、驚いた顔をする騎士達が動き出す。伝わった言葉に騎士が一礼し、サーラを連れて来てくれた。お礼を言って、彼女を馬車に乗せる。
「行き違いにならなくてよかった」
そう安堵の息を漏らし、走り出した馬車の中で彼女と対峙する。少し痩せたかしら。でも表情は柔らかくなった。
「ただいま戻りました、お嬢様」
「よく戻ったわ、サーラ」
ゆったりと進む馬車の中、しばらくサーラは無言だった。じっと私を見つめ、観察するように手足にも視線を向ける。どこかケガをしていないか、体調は大丈夫か。私も確認するようにサーラの状態を確かめた。
「お嬢様。修道院で……彼女達と話せました」
じっくりと向き合い、話して感情をぶつけ、互いに想いを交わした。そんな話を聞きながら、私は口元が緩んでしまう。サーラが自分から話してくれたのも、無事に戻って来たことも、すべてが嬉しかった。
「ロベルディ出身ではないから置いていかれたのではなく、未来があるから残した。そう言われて、嬉しさより悲しさを感じたのです。きっと、お嬢様がいなければ戻らなかったでしょう」
「そう。戻ってくれてありがとう、サーラ」
自然とその言葉が口をついた。私と打ち解け合う前のサーラなら、仲間として認めた元侍女達と修道女になる道を選んだ。二度目は拒まれないだろう。でも、私を思い浮かべ戻った。この決断は素直に嬉しい。
「お嬢様の侍女として一生を捧げたいと思っております。お許しいただけますか」
「もちろん! もちろんよ」
目の奥がジンとして、涙が溢れそう。ぐっと堪えながら、私は微笑んでみせた。主君となるなら、その方が相応しいはずよ。サーラは笑みを浮かべ、幸せそうに俯いた。泣いてしまったのかしら。
見ないフリしてあげるわ。だから、私の瞬きが多いのも見逃してほしい。馬車が門を潜り、揺れ方が変わった。気まずくない無言が続く馬車は、静かに停まる。外からノックが響き、サーラが顔を上げて尋ねた。
「よろしいでしょうか」
「ええ」
内鍵を外したサーラがノックを返し、騎士がそっと扉を開く。この方、さきほどサーラを迎えに行ってくれた人ね。先日、落馬した私を受け止めた人と同じ? 金茶の髪に明るい緑の瞳、彼の手を借りて馬車から降りた。
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