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115.今後のために今決めましょう
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お祖父様のやり方が荒っぽいことはよく理解した。その上で、きっちり叱る。伯母様が気の毒そうに私を見た理由が、やっとわかったわ。これを想定していたのね。
「お祖父様は三日間、私との接触を禁止します」
「それは……ちぃとばかし、厳し過ぎやしないかのぉ?」
眉尻を下げて、一日でも罰を短くしようと訴えるお祖父様に、ぴしゃりと言い渡した。
「反省してください!」
「……はぁ……義息子の出来が悪いせいで、わしまでとばっちりじゃ」
ぶつぶつ文句を言いながらも、お祖父様は部屋を出た。護衛は誰も付かない。あのお祖父様を襲ったら、ほとんどの人は返り討ちにされる。騎士達は無言で見送った。
残されたお父様は首を竦めて、大きな体を丸める。その姿は気の毒だけれど、言いたいことは言わせてもらおう。この機会を逃したら、次がないと思った。
「お父様、王家の未来を考えて私を王太子の婚約者に据えたと言いましたね」
「ああ、そうだ」
「ならば、どうしてお兄様の婚約者を早く決めなかったのですか?」
ぐっと黙り込む。
「私の婚約破棄事件の後、なぜ他国の王侯貴族に嫁ぎ先を求めたのか。それも含めて教えてください」
一気に畳み掛けた後、侍女の用意した珈琲を手に取る。唇を僅かに湿らせ、味や色を確認してから口に含んだ。お父様の前にも珈琲が用意されているが、手をつける様子はなかった。
「愚王と思っていても、王家を潰そうとは考えなかった。だからアリーチェを王妃に据えて、国を守ろうとした。諦めさせる意味で、カリストに見合いを持ち込んだが、すべて断られたんだ」
「お兄様に?」
「いいや、相手のご令嬢だ」
きょとんとする。お兄様に何の不満があったのか。そんな表情に気づいた父が、ぼそぼそと事情を話した。
「お相手が断るよう仕向けたらしい。その上で、良縁となる相手を紹介する。それを繰り返した」
「あら……まあ」
言葉を失う。執着した義妹以外は要らない、そう示したつもりかも。噂になって私の耳に届かないなんて、よほど素敵なお相手を差し出したのね。日記にそんな記述はなかったと思い返しながら、ぎこちなく声を漏らした。
「だから婚約者を作らなかったのではなく、作らせてもらえなかったのだ」
お父様は努力した。それを上回るお兄様の妨害がすごかった、と。理解して頷いた。
「他国に嫁ぎ先を求めたのは、アリーチェ、お前のためだ」
聞く前に話の先を察してしまう。私に執着する兄と結婚させるのは危険だ。さらに王太子が頂点に立つフェリノス国に留まることは、命の危険を意味した。また危害を加えられる可能性がある。
きちんと王として学んでいれば、ロベルディ国の規模と軍事力に恐れをなし、私へ手出しはしない。だがあの状態まで追い込まれても、フリアンは理解しなかった。己が弱小国の跡取りに過ぎず、巨人の足元で喚き立てる子犬に過ぎないのだと。理解できたなら、毒殺未遂事件など絶対に起きなかっただろう。
「アリーチェの言うとおりだ。他国の王侯貴族ならば、ロベルディ王家の血を引くアリーチェの価値が分かる。国外に逃れれば、危害を加えられる可能性は消える。だが……」
お父様は大きく溜め息を吐いた。高位貴族の令息や令嬢は、早くから婚約関係を結ぶ。結婚できる年齢まで婚約者がいないのは、家か本人に難がある人のみ。ある意味、お兄様も難ありだった。
「それで……どうなさるの?」
私とお兄様を結婚させ、このフロレンティーノ公爵家を継げと命じるのか。私は決断を迫った。
「お祖父様は三日間、私との接触を禁止します」
「それは……ちぃとばかし、厳し過ぎやしないかのぉ?」
眉尻を下げて、一日でも罰を短くしようと訴えるお祖父様に、ぴしゃりと言い渡した。
「反省してください!」
「……はぁ……義息子の出来が悪いせいで、わしまでとばっちりじゃ」
ぶつぶつ文句を言いながらも、お祖父様は部屋を出た。護衛は誰も付かない。あのお祖父様を襲ったら、ほとんどの人は返り討ちにされる。騎士達は無言で見送った。
残されたお父様は首を竦めて、大きな体を丸める。その姿は気の毒だけれど、言いたいことは言わせてもらおう。この機会を逃したら、次がないと思った。
「お父様、王家の未来を考えて私を王太子の婚約者に据えたと言いましたね」
「ああ、そうだ」
「ならば、どうしてお兄様の婚約者を早く決めなかったのですか?」
ぐっと黙り込む。
「私の婚約破棄事件の後、なぜ他国の王侯貴族に嫁ぎ先を求めたのか。それも含めて教えてください」
一気に畳み掛けた後、侍女の用意した珈琲を手に取る。唇を僅かに湿らせ、味や色を確認してから口に含んだ。お父様の前にも珈琲が用意されているが、手をつける様子はなかった。
「愚王と思っていても、王家を潰そうとは考えなかった。だからアリーチェを王妃に据えて、国を守ろうとした。諦めさせる意味で、カリストに見合いを持ち込んだが、すべて断られたんだ」
「お兄様に?」
「いいや、相手のご令嬢だ」
きょとんとする。お兄様に何の不満があったのか。そんな表情に気づいた父が、ぼそぼそと事情を話した。
「お相手が断るよう仕向けたらしい。その上で、良縁となる相手を紹介する。それを繰り返した」
「あら……まあ」
言葉を失う。執着した義妹以外は要らない、そう示したつもりかも。噂になって私の耳に届かないなんて、よほど素敵なお相手を差し出したのね。日記にそんな記述はなかったと思い返しながら、ぎこちなく声を漏らした。
「だから婚約者を作らなかったのではなく、作らせてもらえなかったのだ」
お父様は努力した。それを上回るお兄様の妨害がすごかった、と。理解して頷いた。
「他国に嫁ぎ先を求めたのは、アリーチェ、お前のためだ」
聞く前に話の先を察してしまう。私に執着する兄と結婚させるのは危険だ。さらに王太子が頂点に立つフェリノス国に留まることは、命の危険を意味した。また危害を加えられる可能性がある。
きちんと王として学んでいれば、ロベルディ国の規模と軍事力に恐れをなし、私へ手出しはしない。だがあの状態まで追い込まれても、フリアンは理解しなかった。己が弱小国の跡取りに過ぎず、巨人の足元で喚き立てる子犬に過ぎないのだと。理解できたなら、毒殺未遂事件など絶対に起きなかっただろう。
「アリーチェの言うとおりだ。他国の王侯貴族ならば、ロベルディ王家の血を引くアリーチェの価値が分かる。国外に逃れれば、危害を加えられる可能性は消える。だが……」
お父様は大きく溜め息を吐いた。高位貴族の令息や令嬢は、早くから婚約関係を結ぶ。結婚できる年齢まで婚約者がいないのは、家か本人に難がある人のみ。ある意味、お兄様も難ありだった。
「それで……どうなさるの?」
私とお兄様を結婚させ、このフロレンティーノ公爵家を継げと命じるのか。私は決断を迫った。
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