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97.裏を知らずにいたかった
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アンドルリーク国は、国王がいない。宰相や大臣と同じ立場の者が選出され、国主の代わりを務める国家だった。大陸中調べても、同じ仕組みの国はない。
民が主流という意味で民主制と呼ばれてきた。数十年前までは、他国と同じように王がいる国家だった。国王の愚行が民の怒りを買い、叛逆されたと聞いている。その際に、二度と国王に支配されたくないと今の形が出来上がった。
お祖父様の説明に頷く。我が国も、一歩間違えば同じだったかもしれない。貴族派が民を率いて叛逆すれば、国王派も王家も押し潰されただろう。その後、新しい王を立てようと考えたのは王政に慣れたフェリノスだからか。
相応しい王が頂点に立てば、国は新しくやり直せる。そう考える方がしっくりくる。民が主導権を握る国家は、不安定な気がした。実際、アンドルリーク国は外交に注力する余裕がないほど、内政が混乱しているらしい。
まだ貴族階級が存在するため、他国の貴族と婚姻を結んで一族ごと逃げ出す事例も多いのだとか。お父様も当初は、そう考えていた。アンドルリーク国の元貴族令嬢が、ドゥラン侯爵家に嫁いだだけ。財産や己の身を守るため、フェリノスへ逃げてきたのだと思った。
「今になれば、別の意図があったのか」
「じゃが、今のアンドルリークに戦の余裕はないはずだ」
フェリノスを支配する旨みはない。それどころか自国内ですら混乱する今、領地や国民を増やすことは不安要素だった。にも関わらず、フェリノスへ入り込んだ理由……。
「王制の復活?」
フェリノスをアンドルリークに併合するのではなく、この国を乗っ取って祖国に攻め込む。混乱の続くアンドルリークを侵略することで、再び王侯貴族が支配する王政に戻そうとしたなら?
「アリーチェは戦略家向きだな」
似た結論に達したクラリーチェ様に褒められ、首を横に振る。こんな恐ろしい考え、浮かばない方がいい。だって、誰かが死んでも関係ないとする非道な考えだ。
「我が孫ながら、先読みに長けておる。ロベルディの血を強く受け継いだようじゃ」
お祖父様はにやりと笑った。血筋のせいにしてしまえ、そう言われた気がする。ぎこちなく微笑み、小さく頷いた。
「どれ。ドゥラン家とやら、わしが捻り潰してやろう」
目の前のやや冷めた珈琲を飲み干し、お祖父様は椅子から立ち上がる。フェルナン卿が「おやめください」と口を挟むも、逆に反論された。
「わしがここにおる、本国が空だぞ? さっさと戻れ」
クラリーチェ様とフェルナン卿に、そう言い捨てた。まるで邪魔だと言わんばかりの態度で。その意味は、後は任せろ……かしら? 肩を竦めたクラリーチェ様は口角を持ち上げた。
「どうせ、ルクレツィアに代理権を与えたのだ。もう少し自由にさせてもらう」
ルクレツィア様は、ロベルディの第二王女だった。国内貴族に嫁いだが、お相手は現在の宰相閣下で策略に長けておられると聞く。お母様のお姉様達は、どちらも優秀なのね。
「害虫はさっさと駆除するに限る」
お祖父様はそっと私に手を差し伸べる。迷うことなく、私はその手を受けて立ち上がった。臆する理由はないのだから。
民が主流という意味で民主制と呼ばれてきた。数十年前までは、他国と同じように王がいる国家だった。国王の愚行が民の怒りを買い、叛逆されたと聞いている。その際に、二度と国王に支配されたくないと今の形が出来上がった。
お祖父様の説明に頷く。我が国も、一歩間違えば同じだったかもしれない。貴族派が民を率いて叛逆すれば、国王派も王家も押し潰されただろう。その後、新しい王を立てようと考えたのは王政に慣れたフェリノスだからか。
相応しい王が頂点に立てば、国は新しくやり直せる。そう考える方がしっくりくる。民が主導権を握る国家は、不安定な気がした。実際、アンドルリーク国は外交に注力する余裕がないほど、内政が混乱しているらしい。
まだ貴族階級が存在するため、他国の貴族と婚姻を結んで一族ごと逃げ出す事例も多いのだとか。お父様も当初は、そう考えていた。アンドルリーク国の元貴族令嬢が、ドゥラン侯爵家に嫁いだだけ。財産や己の身を守るため、フェリノスへ逃げてきたのだと思った。
「今になれば、別の意図があったのか」
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フェリノスを支配する旨みはない。それどころか自国内ですら混乱する今、領地や国民を増やすことは不安要素だった。にも関わらず、フェリノスへ入り込んだ理由……。
「王制の復活?」
フェリノスをアンドルリークに併合するのではなく、この国を乗っ取って祖国に攻め込む。混乱の続くアンドルリークを侵略することで、再び王侯貴族が支配する王政に戻そうとしたなら?
「アリーチェは戦略家向きだな」
似た結論に達したクラリーチェ様に褒められ、首を横に振る。こんな恐ろしい考え、浮かばない方がいい。だって、誰かが死んでも関係ないとする非道な考えだ。
「我が孫ながら、先読みに長けておる。ロベルディの血を強く受け継いだようじゃ」
お祖父様はにやりと笑った。血筋のせいにしてしまえ、そう言われた気がする。ぎこちなく微笑み、小さく頷いた。
「どれ。ドゥラン家とやら、わしが捻り潰してやろう」
目の前のやや冷めた珈琲を飲み干し、お祖父様は椅子から立ち上がる。フェルナン卿が「おやめください」と口を挟むも、逆に反論された。
「わしがここにおる、本国が空だぞ? さっさと戻れ」
クラリーチェ様とフェルナン卿に、そう言い捨てた。まるで邪魔だと言わんばかりの態度で。その意味は、後は任せろ……かしら? 肩を竦めたクラリーチェ様は口角を持ち上げた。
「どうせ、ルクレツィアに代理権を与えたのだ。もう少し自由にさせてもらう」
ルクレツィア様は、ロベルディの第二王女だった。国内貴族に嫁いだが、お相手は現在の宰相閣下で策略に長けておられると聞く。お母様のお姉様達は、どちらも優秀なのね。
「害虫はさっさと駆除するに限る」
お祖父様はそっと私に手を差し伸べる。迷うことなく、私はその手を受けて立ち上がった。臆する理由はないのだから。
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