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95.無条件で肯定され安心したかった
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「扉を守っております」
お父様ではなく、フェルナン卿が口を開いた。状況が理解できない私に説明したのは、お父様だ。
「フェルナン卿は、俺の義兄上に当たる」
「……え?」
驚き過ぎて言葉が喉に詰まった。だってフェルナン卿って若く見えるわ。伯母様も同じだけど……でも。
「立ち聞きをするような性質の悪い奴がいるのか」
「いないと思いたいですが、ここはまだ併合したばかりで他国も同然ですから」
お祖父様とフェルナン卿はそのまま会話を続け、私は置き去りにされた。苦笑いしたクラリーチェ様の説明によれば、年齢差は八歳だとか。お祖父様の戦の後始末をしている間に婚期を逃し、慌てて結婚したのが彼だった。惚れたのはフェルナン卿で、口説いて断られ四回目にして許可を頂いたと。
「情熱的でしたのね」
「今でも情熱的なつもりです」
くすくす笑うクラリーチェ様とフェルナン卿。仲睦まじい様子に、そういえば主従の距離感ではなかったと思い至る。親しげな口の利き方や、クラリーチェ様に向ける優しい眼差しも。夫婦だと知れば納得できた。
お父様とお母様の年齢差が十歳だから……そう考えると、ロベルディの王族は歳の差夫婦が多いのかしら。ちらりと視線を向けた先で、お祖父様は察した様子で首を縦に振った。
「わしと妻は十二ほど離れておった」
後妻にもらうくらいの年齢差だわ。戦場を駆け巡り、ふと我に返った。そこから跡取り問題に取り組んだので、結婚が遅かったらしい。同年代のご令嬢がおらず、年下から探したと聞いて納得した。貴族令嬢の適齢期は短いから、同年代は既婚だったのね。
「それよりアリーの問題だ。裁きはすべて終わったのか?」
尋ねられ、私は父の顔を見つめる。まだ残っているけれど、口にしていいか。判断がつかない。お祖父様がどんな行動に出るか、記憶がない私には想像できなかった。
「まだ数名残っております」
お父様は丁寧な口調で答える。ドゥラン侯爵家を始めとして、私やフロレンティーノ公爵家に敵対した貴族がまだ残っていた。
「なるほど、小物であっても取りこぼせば後の禍となる。きっちり討ち取ってやろう」
大仰な言い回しに、きょとんとした。獅子は仔兎どころか、蟻を踏み潰すにも全力なの? フェリノス王家という後ろ盾を失い、貴族の大半を敵に回した。その上ロベルディの女王である伯母様に睨まれ……最後は征服王の侵略を受けるなんて。
ふふっと笑う。漏れた笑みに、お祖父様の表情が和らいだ。
「それでよい。アリーは笑っておれ。アリッシア以上に幸せになってもらわねば、次の世で顔向けできん」
伸ばした指先が、千切れた銀髪に触れる。それから頬へ指背を這わせた。その優しさと温かさに、意図せず涙が落ちる。頬を滑った感触に、自分で驚いた。
「よい。それでよい」
頭を引き寄せ、優しく包まれる。お父様のような体格ではないのに、不思議と大きく感じた。淑女らしくないけれど、数滴の涙が乾くまで、お祖父様の胸を借りる。優しく穏やかな時間だった。
お父様ではなく、フェルナン卿が口を開いた。状況が理解できない私に説明したのは、お父様だ。
「フェルナン卿は、俺の義兄上に当たる」
「……え?」
驚き過ぎて言葉が喉に詰まった。だってフェルナン卿って若く見えるわ。伯母様も同じだけど……でも。
「立ち聞きをするような性質の悪い奴がいるのか」
「いないと思いたいですが、ここはまだ併合したばかりで他国も同然ですから」
お祖父様とフェルナン卿はそのまま会話を続け、私は置き去りにされた。苦笑いしたクラリーチェ様の説明によれば、年齢差は八歳だとか。お祖父様の戦の後始末をしている間に婚期を逃し、慌てて結婚したのが彼だった。惚れたのはフェルナン卿で、口説いて断られ四回目にして許可を頂いたと。
「情熱的でしたのね」
「今でも情熱的なつもりです」
くすくす笑うクラリーチェ様とフェルナン卿。仲睦まじい様子に、そういえば主従の距離感ではなかったと思い至る。親しげな口の利き方や、クラリーチェ様に向ける優しい眼差しも。夫婦だと知れば納得できた。
お父様とお母様の年齢差が十歳だから……そう考えると、ロベルディの王族は歳の差夫婦が多いのかしら。ちらりと視線を向けた先で、お祖父様は察した様子で首を縦に振った。
「わしと妻は十二ほど離れておった」
後妻にもらうくらいの年齢差だわ。戦場を駆け巡り、ふと我に返った。そこから跡取り問題に取り組んだので、結婚が遅かったらしい。同年代のご令嬢がおらず、年下から探したと聞いて納得した。貴族令嬢の適齢期は短いから、同年代は既婚だったのね。
「それよりアリーの問題だ。裁きはすべて終わったのか?」
尋ねられ、私は父の顔を見つめる。まだ残っているけれど、口にしていいか。判断がつかない。お祖父様がどんな行動に出るか、記憶がない私には想像できなかった。
「まだ数名残っております」
お父様は丁寧な口調で答える。ドゥラン侯爵家を始めとして、私やフロレンティーノ公爵家に敵対した貴族がまだ残っていた。
「なるほど、小物であっても取りこぼせば後の禍となる。きっちり討ち取ってやろう」
大仰な言い回しに、きょとんとした。獅子は仔兎どころか、蟻を踏み潰すにも全力なの? フェリノス王家という後ろ盾を失い、貴族の大半を敵に回した。その上ロベルディの女王である伯母様に睨まれ……最後は征服王の侵略を受けるなんて。
ふふっと笑う。漏れた笑みに、お祖父様の表情が和らいだ。
「それでよい。アリーは笑っておれ。アリッシア以上に幸せになってもらわねば、次の世で顔向けできん」
伸ばした指先が、千切れた銀髪に触れる。それから頬へ指背を這わせた。その優しさと温かさに、意図せず涙が落ちる。頬を滑った感触に、自分で驚いた。
「よい。それでよい」
頭を引き寄せ、優しく包まれる。お父様のような体格ではないのに、不思議と大きく感じた。淑女らしくないけれど、数滴の涙が乾くまで、お祖父様の胸を借りる。優しく穏やかな時間だった。
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