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84.お祖父様の限界が来たようです
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庇護者であった王家が消えたことで、国王派は慌てて逃げ出す。その尻尾をしっかり捕まえたのは、騎士を率いるお兄様だった。
学院に通いながら集めた情報、人間関係の繋がり、王家に従うフリで手に入れた証拠品。すべてをクラリーチェ様に差し出した。騎士達も本気で動く。自分達のお金に手をつけられたことにより、本当に国が傾く状況にあるのだと理解した。
戦う職業だからこそ、他国の状況も知っていた。ロベルディ国が本気を出せば、すぐにでもフェリノス国は支配される。フロレンティーノ公爵家と王妃様達の存在により、ぎりぎり形が保たれているのだ。
滅ぼされるのと属国になり吸収されるのとでは、扱いが全く違った。厳しい現実を真っ先に理解し、お兄様の指示に従ったのは評価に値した。フェルナン卿が、何人か引き抜きたいと口にするほどだ。
「アリーチェ、休んだ方がいい」
心配するお父様に、首を横に振った。この後、一番重要な鍵を持つ人物が残っている。リベジェス公爵家のカサンドラ、トラーゴ伯爵令嬢の二人だ。誰がどこまで絡んで、どの事件を引き起こしたのか。国王派の断罪も含め、私は目を背ける気はなかった。
お菓子作りが得意で、刺繍の苦手なリディアを殺すよう命じたのは誰? 実際に人を動かしたのは? 何の目的があったの。彼女は何も知らなかったでしょう。アルベルダ伯爵令嬢イネスのように、あの子も情報を集めていたのかしら。
イネスは今、ご両親と再会している。客間を使って、再会を喜び合っているでしょう。落ち着いたら、ご両親と一緒に離宮で滞在したらいいわ。そう考えた矢先、飛び込んだ情報に驚いた。
「女王陛下にご報告を」
「話せ」
私がいるからか、使者はいきなり内容を話さなかった。けれど促され、顔を上げて報告する。
「先王陛下がフェリノスへ向かっておられます」
「フェルナンディ公爵家はどうした」
「突破された模様」
ご苦労と労った伯母様は、額に手を当てて唸る。今のお話を整理すると、お祖父様がロベルディの公爵家を蹴散らして、こちらに向かっている……と聞こえた。
「聞いての通りだ。早く片付けるぞ」
クラリーチェ様は言葉少なに立ち上がり、私の手を握って歩き出す。休憩は切り上げとなり、謁見の間だった広間へ急いだ。
「征服王のお出ましか」
お祖父様の異名らしい。他国を征服し、支配下に置いた稀代の戦上手なのだと伯母様も口にした。その説明には尊敬以外に、複雑な感情が含まれているようで。
「父上は過激な人だ。もし処罰が決まる前に飛び込めば、王宮が血の海になるぞ」
冗談かと思い、ふふっと笑ったらクラリーチェ様が青い顔で首を横に振った。本気で? 首を傾げた私に、お父様も真剣な顔で大きく頷いた。どうやら、かなり過激な方のようだ。
付け足された情報によれば、お母様の忘れ形見である私をとても可愛がっていたと。危険だと皆が焦る理由が、やっと実感を帯びてきた。罰が決まっていれば、それを盾に我慢してもらうことも可能だ。でも罪人が残っていたら?
八つ裂きにする程度なら軽い方だと、クラリーチェ様は呟いた。十分重い罰だと思うが、それでも軽い。お祖父様のイメージが固まってきた。あれですね、子育て中の野生動物に手を出す危険と似た感じ。全力で叩き潰される光景が浮かんだ。
学院に通いながら集めた情報、人間関係の繋がり、王家に従うフリで手に入れた証拠品。すべてをクラリーチェ様に差し出した。騎士達も本気で動く。自分達のお金に手をつけられたことにより、本当に国が傾く状況にあるのだと理解した。
戦う職業だからこそ、他国の状況も知っていた。ロベルディ国が本気を出せば、すぐにでもフェリノス国は支配される。フロレンティーノ公爵家と王妃様達の存在により、ぎりぎり形が保たれているのだ。
滅ぼされるのと属国になり吸収されるのとでは、扱いが全く違った。厳しい現実を真っ先に理解し、お兄様の指示に従ったのは評価に値した。フェルナン卿が、何人か引き抜きたいと口にするほどだ。
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イネスは今、ご両親と再会している。客間を使って、再会を喜び合っているでしょう。落ち着いたら、ご両親と一緒に離宮で滞在したらいいわ。そう考えた矢先、飛び込んだ情報に驚いた。
「女王陛下にご報告を」
「話せ」
私がいるからか、使者はいきなり内容を話さなかった。けれど促され、顔を上げて報告する。
「先王陛下がフェリノスへ向かっておられます」
「フェルナンディ公爵家はどうした」
「突破された模様」
ご苦労と労った伯母様は、額に手を当てて唸る。今のお話を整理すると、お祖父様がロベルディの公爵家を蹴散らして、こちらに向かっている……と聞こえた。
「聞いての通りだ。早く片付けるぞ」
クラリーチェ様は言葉少なに立ち上がり、私の手を握って歩き出す。休憩は切り上げとなり、謁見の間だった広間へ急いだ。
「征服王のお出ましか」
お祖父様の異名らしい。他国を征服し、支配下に置いた稀代の戦上手なのだと伯母様も口にした。その説明には尊敬以外に、複雑な感情が含まれているようで。
「父上は過激な人だ。もし処罰が決まる前に飛び込めば、王宮が血の海になるぞ」
冗談かと思い、ふふっと笑ったらクラリーチェ様が青い顔で首を横に振った。本気で? 首を傾げた私に、お父様も真剣な顔で大きく頷いた。どうやら、かなり過激な方のようだ。
付け足された情報によれば、お母様の忘れ形見である私をとても可愛がっていたと。危険だと皆が焦る理由が、やっと実感を帯びてきた。罰が決まっていれば、それを盾に我慢してもらうことも可能だ。でも罪人が残っていたら?
八つ裂きにする程度なら軽い方だと、クラリーチェ様は呟いた。十分重い罰だと思うが、それでも軽い。お祖父様のイメージが固まってきた。あれですね、子育て中の野生動物に手を出す危険と似た感じ。全力で叩き潰される光景が浮かんだ。
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