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76.切り落とすのは確定した
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「積み重ねると死刑だが、それでは軽すぎるだろう」
クラリーチェ様はにやりと笑う。すごく悪い感じで魅力的だ。同性でも見惚れてしまうわ。
「女関係で失敗したのだから、もう懲りたであろう? その無駄に旺盛な性欲と生殖機能を断つとしようか。傷はきちんと塞いでやるぞ。すぐに死ぬなど楽な道はない。フェリノス王家を消滅させる意味でも効果的な処罰だ」
端的に言えば、切り落とすってことよね。ちらっと視線がそこへ向いてしまった。すぐに不快になって眉を寄せる。ひっと顔を引きつらせた殿方の反応を見る限り、相当痛いみたい。女性にはない器官だから、痛みは想像しか出来ないけれど……そうね、腕を切り落とすのと同じくらいかしら。
急所と評されるくらいだから、もっと痛いのかも知れない。青ざめたフリアンの股間がじわりと濡れた。謁見の間を汚すなんて、本当に礼儀も覚悟も足りない人だ。
「やれ」
お父様はきりっとした声で命じるが、騎士達はなぜか役目を押し付け合った。奇妙な状況に首を傾げる。この段階になって同情したの? そんな疑問をお兄様が払拭した。
「騎士の剣は命を預ける大切な相棒であり、主君を守る武器ですから……別の道具を与える許可をいただけますか」
ああ、なるほど。それで躊躇っていたのね。愛用の剣を緩い下半身の切り落としに使いたくない。その気持ちは理解できる。伯母様は目を見開き、ふぅと息を吐いた。
「これは私の気遣いが足りなかったな。道具を探せ」
剣ではなく、道具。その表現で、切り落とせれば何でもいいと認識されたらしい。訓練用に刃を引いた短剣や、どう見ても潰す目的の金槌など。様々な道具が並べられた。じっくり眺めた後、伯母様はフェルナン卿に尋ねる。
「どれが効果的だ?」
「罰ならば切れ味の悪い物を、王家断絶を意味するなら潰す物を、情けを掛けるならば切れ味鋭い物。どちらをお選びになっても理に適っています」
そんな意味があるなんて、知らなかった。見つめる私は緊張していたらしい。伯母様の袖を掴んでいた。慌てて離すが、微笑んだ伯母様に手を戻されてしまう。
「このまま触れておればよい。そなたは大切な妹の忘れ形見だ」
じわりと伝わる熱を感じて、目の奥が熱くなる。もしお母様が生きておられたら、こんな風に触れてくれたの? 傷ついたと泣く私を抱き締めて、そんな婚約者なら別れてしまいなさいと味方になったかしら。私は味方が欲しかった。だから記憶が必要だった。
愛された記憶があるなら忘れたくないし、味方をしてくれる人との思い出を手放したくない。感傷に浸る私に、クラリーチェ様は顔を寄せてひそりと囁いた。
「泣きそうなのに堪えるところ、アリッシアにそっくりだ」
驚いたせいで、涙が止まった。見開いた目に映る伯母様は、からりと明るく笑う。男性の方が多いため、どうしても「痛そう」「あの罰は嫌だ」と同情に近い感情が場を支配した。それを払拭するように、クラリーチェ様の声が響き渡る。
「全部試すのも一興だ」
え? 驚き過ぎて固まった私の側で、お父様が「うっ」と堪えるような声を漏らした。想像だけで痛かったみたい。私も自分の指や腕を切り落とすイメージが蘇り、痛そうと顔をしかめた。数歩後ろに下がったり、股間を隠す仕草をする貴族もいる。
「承知、いたしました」
平然と答えたフリでも、フェルナン卿も動揺が声に出る。お兄様に至っては、うわぁ……と表情を歪めて、かつての主君だった王太子を眺めた。
もごもごと騒がしいフリアンの下半身が露わにされるが、すぐに布で覆われた。まさか、謁見の間で実行するの?
クラリーチェ様はにやりと笑う。すごく悪い感じで魅力的だ。同性でも見惚れてしまうわ。
「女関係で失敗したのだから、もう懲りたであろう? その無駄に旺盛な性欲と生殖機能を断つとしようか。傷はきちんと塞いでやるぞ。すぐに死ぬなど楽な道はない。フェリノス王家を消滅させる意味でも効果的な処罰だ」
端的に言えば、切り落とすってことよね。ちらっと視線がそこへ向いてしまった。すぐに不快になって眉を寄せる。ひっと顔を引きつらせた殿方の反応を見る限り、相当痛いみたい。女性にはない器官だから、痛みは想像しか出来ないけれど……そうね、腕を切り落とすのと同じくらいかしら。
急所と評されるくらいだから、もっと痛いのかも知れない。青ざめたフリアンの股間がじわりと濡れた。謁見の間を汚すなんて、本当に礼儀も覚悟も足りない人だ。
「やれ」
お父様はきりっとした声で命じるが、騎士達はなぜか役目を押し付け合った。奇妙な状況に首を傾げる。この段階になって同情したの? そんな疑問をお兄様が払拭した。
「騎士の剣は命を預ける大切な相棒であり、主君を守る武器ですから……別の道具を与える許可をいただけますか」
ああ、なるほど。それで躊躇っていたのね。愛用の剣を緩い下半身の切り落としに使いたくない。その気持ちは理解できる。伯母様は目を見開き、ふぅと息を吐いた。
「これは私の気遣いが足りなかったな。道具を探せ」
剣ではなく、道具。その表現で、切り落とせれば何でもいいと認識されたらしい。訓練用に刃を引いた短剣や、どう見ても潰す目的の金槌など。様々な道具が並べられた。じっくり眺めた後、伯母様はフェルナン卿に尋ねる。
「どれが効果的だ?」
「罰ならば切れ味の悪い物を、王家断絶を意味するなら潰す物を、情けを掛けるならば切れ味鋭い物。どちらをお選びになっても理に適っています」
そんな意味があるなんて、知らなかった。見つめる私は緊張していたらしい。伯母様の袖を掴んでいた。慌てて離すが、微笑んだ伯母様に手を戻されてしまう。
「このまま触れておればよい。そなたは大切な妹の忘れ形見だ」
じわりと伝わる熱を感じて、目の奥が熱くなる。もしお母様が生きておられたら、こんな風に触れてくれたの? 傷ついたと泣く私を抱き締めて、そんな婚約者なら別れてしまいなさいと味方になったかしら。私は味方が欲しかった。だから記憶が必要だった。
愛された記憶があるなら忘れたくないし、味方をしてくれる人との思い出を手放したくない。感傷に浸る私に、クラリーチェ様は顔を寄せてひそりと囁いた。
「泣きそうなのに堪えるところ、アリッシアにそっくりだ」
驚いたせいで、涙が止まった。見開いた目に映る伯母様は、からりと明るく笑う。男性の方が多いため、どうしても「痛そう」「あの罰は嫌だ」と同情に近い感情が場を支配した。それを払拭するように、クラリーチェ様の声が響き渡る。
「全部試すのも一興だ」
え? 驚き過ぎて固まった私の側で、お父様が「うっ」と堪えるような声を漏らした。想像だけで痛かったみたい。私も自分の指や腕を切り落とすイメージが蘇り、痛そうと顔をしかめた。数歩後ろに下がったり、股間を隠す仕草をする貴族もいる。
「承知、いたしました」
平然と答えたフリでも、フェルナン卿も動揺が声に出る。お兄様に至っては、うわぁ……と表情を歪めて、かつての主君だった王太子を眺めた。
もごもごと騒がしいフリアンの下半身が露わにされるが、すぐに布で覆われた。まさか、謁見の間で実行するの?
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