【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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71.続けて横領の処罰を始めましょう

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 せっかく謁見の間に貴族が集合したのなら、と女王陛下の許可を得たお父様が口を開いた。横領に関する調査結果だ。離宮の管理費については、王族の名の元に予算が承認されていた。横領者も同じ……お粗末すぎる手法で使い込まれたみたい。

「離宮の管理者は王太子フリアン、側近で従兄弟のライモンドである」

 予想通りだわ。でも王族が直接、職人や現場と話をすることはない。間に別の貴族が挟まっていたはず。彼らが自主的に協力したのか、それとも脅されていたのか。状況によって判断は変わるけれど、どちらにしろ処罰は免れない。告発すればよかったのだから。

 告発のリスクを恐れて口を噤んだなら、それは協力者と同じだった。

「委託を受けて管理したのは、コスタ侯爵家とベリーニ伯爵家、トラーゴ伯爵家だ。予算の半分を王族に返し、残りを懐に入れたらしい」

「あら」

 思わず声が漏れた。コスタ侯爵家とベリーニ伯爵家は、それぞれの息子が目の前で毒に苦しんでいる。王太子の側近で、現女王陛下となられた伯母様の姪である私を殺害しようとした犯人よ。息子だけでなく、実家まで犯罪に手を出していたなんて。存在価値はないわね。

 クラリーチェ様はくすくす笑い、私に扇を差し出した。伯母様愛用の扇は同じデザインで複数作られている。その一本を分けていただいた形だ。親族とはいえ、恐れ多いことだわ。有難く両手で拝領した。

「トラーゴとは?」

 クラリーチェ様は、戻ってきた護衛騎士フェルナン卿から新しい扇を受け取る。よく見たら、房の色が違うのね。先ほど折れて捨てられた扇も房の色が違ったのかしら。私が頂いたのは赤、クラリーチェ様が広げたのは黄色だった。

 広げると同じデザインの扇はするりと柔らかく動く。使いやすい。さすが伯母様の愛用品だわ。でもかなり重い気がした。木材が特殊なのかもしれない。

「トラーゴ伯爵家は離宮の方にはあまり関与していないが……」

 お父様はここで言葉を止め、私を見つめた。しっかり受け止めて頷く。構いません、傷つくほど王太子へ感情を残しておりませんから。

「王太子の婚約者へ組まれた予算を横領した」

 これはトラーゴ伯爵令嬢が、浮気相手だから。すでにアルベルダ伯爵令嬢から証言を得ている。ドゥラン侯爵令嬢と一緒になって、彼女を脅して「婚約破棄を予定している」と話したこと。トラーゴ伯爵令嬢が、王太子と不適切な距離で交流していたこと。

「その小娘と……不倫男だったか? 呼び出せ」

 クラリーチェ様は冷めた声と眼差しで命令を下した。一礼したお父様が、当家の騎士に合図を出す。ということは、我がフロレンティーノ公爵家が身柄を確保しているのかしら。そういえば、先ほどからお兄様の姿が見えない。

「お父様、お兄様は?」

「王太子と国王の捕縛と監禁を任せた」

 にやりと笑うお父様は、何か吹っ切れた様子。過去に忠誠を捧げた王家の頂点に立つ王と、その跡取り。両方に思うところがあるから、楽になったのだろう。そう判断して、私は微笑み返した。髪飾りを避けて、優しく手が置かれる。

「長い間すまなかった。仕事よりお前を優先するべきだったな」

「反省は今後の態度で示してくださいませ」

 冷たいようだけれど、記憶が完全に戻らない私が望める最大の条件を声に出した。お父様は目を見開いたあと「その通りだ」と大きく頷く。

「ほんに、不器用な男だ。アリッシアもこんな男のどこが良かったのやら」

 ぼやくクラリーチェ様は肩を竦め、斜め後ろに控えるフェルナン卿が「陛下、人前です」と窘める。本当に仲の良いお二人だわ。
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