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60.私は王族の地位など欲しくない
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手短に個人的な感情抜きで説明がなされた。客間は女王陛下と同行なさった方、フロレンティーノ公爵家だけで使用している。部外者は必要ないと判断したのはお父様だった。
夜会で婚約破棄され、父が抗議して監禁される。その夜のうちに私が毒殺されかけた。幸いすぐに蘇生したらしいけれど、二週間も寝込んだ。婚約破棄の際に流された虚偽の噂は、お父様の抗議で訂正された。王家の名の元に発表されても、最初の噂のインパクトは大きい。
王太子の婚約者が、不特定多数の異性と関係を持った……最初に広まった噂はまだ根強いと唸った。体力が落ちた私は屋敷から出ず、その間にお兄様も含めて多くの人が手を尽くしてくれる。噂はほぼ下火になった頃、私は王妃様達の謝罪を受けた。
フロレンティーノ公爵家を始めとする多くの貴族が、国王派を離れて貴族派に属した。これで勢力図が一転する。王政であっても、貴族の意向を無視して何でも独断即決できるわけがない。お父様が仕事をやめて混乱した後、貴族派のいくつかの家が取り潰された。
これが貴族の怒りと危機感に火をつけた。このままでは自分達が潰される。その前に国王を排除しろ、と機運が高まった。夜会では私を見捨てた貴族も、筆頭公爵家である我が家を無視できない。次期王と見做して擦り寄り恩恵に与ろうと、謝罪や和解に動き出した。
ここで私の友人だったブエノ子爵令嬢リディアが襲撃される。国王派の攻撃と思われた。これによって、貴族は証人の確保に動き出す。王家やその周囲の取り巻きであった家に不利になる証言が出来る者は、地位に関係なく保護対象となった。
アルベルダ伯爵令嬢イネスは我が家で保護される。その頃だった。国王が王太子への罰を発表する。王太子フリアンは謹慎のみ……誰も納得しない軽すぎる処罰だった。
日記が発見され、過去の私に対する乱暴で非礼極まりない振る舞いが露見する。同時に、アルベルダ伯爵令嬢の証言から、王太子の側近から「横領」の疑惑を掛けられたことが判明した。すぐにお父様達が捜査に入り、王家のずさん過ぎる金銭感覚の実態が明らかになった。
王家だけでなく、末端の文官や武官に至るまで。金額を問わず横領や賄賂が横行し、お父様達貴族派はこの情報を足掛かりに王家の切り崩しにかかった。
「ここまでで半分ほどですわ」
記憶をなくしたことを含め、起きた事件を出来るだけまとめて説明する。半分と言っても、まだ折り返しではない。私達が反撃に出る今が、ようやく折り返し地点なのだから。
「なぜもっと早くに助けを求めなかった? 私の可愛い姪のためなら、軍など即座に動かしたであろうに」
悲しそうにそう言われ、だからですよ……とは言えなかった。伯母様が動けば、ロベルディという大国が動く。お祖父様が戦神のように領土を広げたロベルディは、まだ完全に落ち着いた状態ではなかった。領土が大きくなった分だけ、統治の苦労が増えた形だ。
もし先代王に続き、伯母様が戦を仕掛けたら……周囲の国が結託して、ロベルディを潰そうとする可能性もあった。力関係とは誰かが突出すると、それを叩こうとするものだから。大陸の長い歴史ではよくある事例だ。そこまで危険を冒してほしくなかった。
「伯母様、私は彼らを殺したいのではありません。王女や女王の肩書きも要りません。己の仕出かした罪に相応の報いを与えたいだけですわ」
驚いたように目を見開き、伯母様は私の隣に座り直した。王の印章である黄金の指輪がある右手で、銀髪をゆっくり撫でる。
「アリーチェは欲がなさ過ぎる……確かに王族向きではないかも知れぬ」
夜会で婚約破棄され、父が抗議して監禁される。その夜のうちに私が毒殺されかけた。幸いすぐに蘇生したらしいけれど、二週間も寝込んだ。婚約破棄の際に流された虚偽の噂は、お父様の抗議で訂正された。王家の名の元に発表されても、最初の噂のインパクトは大きい。
王太子の婚約者が、不特定多数の異性と関係を持った……最初に広まった噂はまだ根強いと唸った。体力が落ちた私は屋敷から出ず、その間にお兄様も含めて多くの人が手を尽くしてくれる。噂はほぼ下火になった頃、私は王妃様達の謝罪を受けた。
フロレンティーノ公爵家を始めとする多くの貴族が、国王派を離れて貴族派に属した。これで勢力図が一転する。王政であっても、貴族の意向を無視して何でも独断即決できるわけがない。お父様が仕事をやめて混乱した後、貴族派のいくつかの家が取り潰された。
これが貴族の怒りと危機感に火をつけた。このままでは自分達が潰される。その前に国王を排除しろ、と機運が高まった。夜会では私を見捨てた貴族も、筆頭公爵家である我が家を無視できない。次期王と見做して擦り寄り恩恵に与ろうと、謝罪や和解に動き出した。
ここで私の友人だったブエノ子爵令嬢リディアが襲撃される。国王派の攻撃と思われた。これによって、貴族は証人の確保に動き出す。王家やその周囲の取り巻きであった家に不利になる証言が出来る者は、地位に関係なく保護対象となった。
アルベルダ伯爵令嬢イネスは我が家で保護される。その頃だった。国王が王太子への罰を発表する。王太子フリアンは謹慎のみ……誰も納得しない軽すぎる処罰だった。
日記が発見され、過去の私に対する乱暴で非礼極まりない振る舞いが露見する。同時に、アルベルダ伯爵令嬢の証言から、王太子の側近から「横領」の疑惑を掛けられたことが判明した。すぐにお父様達が捜査に入り、王家のずさん過ぎる金銭感覚の実態が明らかになった。
王家だけでなく、末端の文官や武官に至るまで。金額を問わず横領や賄賂が横行し、お父様達貴族派はこの情報を足掛かりに王家の切り崩しにかかった。
「ここまでで半分ほどですわ」
記憶をなくしたことを含め、起きた事件を出来るだけまとめて説明する。半分と言っても、まだ折り返しではない。私達が反撃に出る今が、ようやく折り返し地点なのだから。
「なぜもっと早くに助けを求めなかった? 私の可愛い姪のためなら、軍など即座に動かしたであろうに」
悲しそうにそう言われ、だからですよ……とは言えなかった。伯母様が動けば、ロベルディという大国が動く。お祖父様が戦神のように領土を広げたロベルディは、まだ完全に落ち着いた状態ではなかった。領土が大きくなった分だけ、統治の苦労が増えた形だ。
もし先代王に続き、伯母様が戦を仕掛けたら……周囲の国が結託して、ロベルディを潰そうとする可能性もあった。力関係とは誰かが突出すると、それを叩こうとするものだから。大陸の長い歴史ではよくある事例だ。そこまで危険を冒してほしくなかった。
「伯母様、私は彼らを殺したいのではありません。王女や女王の肩書きも要りません。己の仕出かした罪に相応の報いを与えたいだけですわ」
驚いたように目を見開き、伯母様は私の隣に座り直した。王の印章である黄金の指輪がある右手で、銀髪をゆっくり撫でる。
「アリーチェは欲がなさ過ぎる……確かに王族向きではないかも知れぬ」
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