51 / 137
51.愚かさもここに極まれり
しおりを挟む
お父様は、横領と婚約破棄の裏側を探るフロレンティーノ公爵家の混乱を狙ったと推測していた。婚約者である私に使うべき予算が、どこかに消えている。離宮の管理費も含めれば、膨大な金額だった。その行先はどこか……。
元は税金だ。民が働いて納めたお金が「消えました」「はいそうですか」と終わるはずもない。様々な書類を集め、消えた金の行き先と正確な金額の割り出しを行なっていた。
婚約破棄の理由に関わる可能性があるとして、お父様が横領関係の調査を担当している。調査そのものが止まらなくても、遅らせることを目的とするなら?
「俺が倒れれば、逆に抑えが利かなくなるぞ。愚行もここまで来ると……哀れだな」
やれやれと肩を竦める。お父様の仰る通りだった。もしここでお父様や私が倒れたら、貴族達は歯止めを失う。怒りや過去の屈辱を晴らすべく勝手に動き回り、王家を食い荒らすだろう。それは国を揺るがし、他国に付け入る隙を与えてしまう。
「お父様を狙ったから、私に危害を加えなかったのかしら」
こてりと首を傾げる。あの場で、私が悲鳴を上げる前に攻撃することも可能だった。首を絞めるなり、刃を突き立てるなり……侍女サーラがいたけれど、邪魔なら一緒に始末することも出来るわ。私達は眠っていたのだもの。
「お嬢様と私の間で迷ったのかもしれません」
サーラの冷静な声に、なるほどと頷く。どちらが令嬢でどちらが侍女か。判断できずに手を拱いて、叫ばれてしまった。そちらの考えも頭の片隅に置いておこう。偏った考えは危険だ。見える物を隠し、聞こえる声を遠ざけ、私の未来を閉ざしてしまうから。
「私が知っているのはここまでです」
きっちり確認したパストラ様は言い切った。後宮を含め、各所に繋がる通路は多い。手元に記して残すことが許されなかったため、王族は暗記している。その情報をすべて公開した。
王妃様も同様に確認をしていたが、ふと手を止めて眉を寄せた。首を傾げながらもう一度本宮の見取り図を眺める。
「この通路、ここへ繋がるのはおかしいわ」
「どこです?」
「謁見の間にある玉座の裏よ。ここから外へ繋がっているはずはないの。後宮が出口だもの」
古い通路はほぼ独立しているが、新しく作られた隠し通路は途中で合流している。建設費用を浮かせる目的だろう。外へ繋がる通路は階下にあり、一見すると繋がっているように思われた。見取り図の扉の位置からして、私もそう思う。
覗き込んだ私に説明するように、王妃様は断言した。
「絶対に外に繋がらない。だって、ここは国王しか使えないのよ」
扉が他の場所と違い、同じ手順で開かないという。その開け方を知るのは、国王ただ一人。そして跡取りである王太子に引き継がれる。王妃や王女は扉の存在を知っていても、開けることは不可能だった。
「外へ嫁ぐ女性には教えない。それは……」
隠し場所にぴったりだわ。浮かんだ言葉を呑み込んだ。見つかっていない資料を隠すのに、これ以上最適な場所はない。王宮中をひっくり返しても、出てこなかったら、ここしか考えられなかった。
「ひとまず、隠し扉をすべて破壊します」
エリサリデ侯爵は物騒な宣言をすると、王妃様に一礼した。鷹揚に頷いた王妃様は一言「許可します」と声を上げた。扉を壊しに向かう騎士達、中に入ったお兄様……事態は一気に解決へ向かうはず。
欠伸をかみ殺し損ね、お父様や王妃様に心配されてしまった。少しだけ、横になるわ。サーラも一緒に……隣にいて頂戴ね。
元は税金だ。民が働いて納めたお金が「消えました」「はいそうですか」と終わるはずもない。様々な書類を集め、消えた金の行き先と正確な金額の割り出しを行なっていた。
婚約破棄の理由に関わる可能性があるとして、お父様が横領関係の調査を担当している。調査そのものが止まらなくても、遅らせることを目的とするなら?
「俺が倒れれば、逆に抑えが利かなくなるぞ。愚行もここまで来ると……哀れだな」
やれやれと肩を竦める。お父様の仰る通りだった。もしここでお父様や私が倒れたら、貴族達は歯止めを失う。怒りや過去の屈辱を晴らすべく勝手に動き回り、王家を食い荒らすだろう。それは国を揺るがし、他国に付け入る隙を与えてしまう。
「お父様を狙ったから、私に危害を加えなかったのかしら」
こてりと首を傾げる。あの場で、私が悲鳴を上げる前に攻撃することも可能だった。首を絞めるなり、刃を突き立てるなり……侍女サーラがいたけれど、邪魔なら一緒に始末することも出来るわ。私達は眠っていたのだもの。
「お嬢様と私の間で迷ったのかもしれません」
サーラの冷静な声に、なるほどと頷く。どちらが令嬢でどちらが侍女か。判断できずに手を拱いて、叫ばれてしまった。そちらの考えも頭の片隅に置いておこう。偏った考えは危険だ。見える物を隠し、聞こえる声を遠ざけ、私の未来を閉ざしてしまうから。
「私が知っているのはここまでです」
きっちり確認したパストラ様は言い切った。後宮を含め、各所に繋がる通路は多い。手元に記して残すことが許されなかったため、王族は暗記している。その情報をすべて公開した。
王妃様も同様に確認をしていたが、ふと手を止めて眉を寄せた。首を傾げながらもう一度本宮の見取り図を眺める。
「この通路、ここへ繋がるのはおかしいわ」
「どこです?」
「謁見の間にある玉座の裏よ。ここから外へ繋がっているはずはないの。後宮が出口だもの」
古い通路はほぼ独立しているが、新しく作られた隠し通路は途中で合流している。建設費用を浮かせる目的だろう。外へ繋がる通路は階下にあり、一見すると繋がっているように思われた。見取り図の扉の位置からして、私もそう思う。
覗き込んだ私に説明するように、王妃様は断言した。
「絶対に外に繋がらない。だって、ここは国王しか使えないのよ」
扉が他の場所と違い、同じ手順で開かないという。その開け方を知るのは、国王ただ一人。そして跡取りである王太子に引き継がれる。王妃や王女は扉の存在を知っていても、開けることは不可能だった。
「外へ嫁ぐ女性には教えない。それは……」
隠し場所にぴったりだわ。浮かんだ言葉を呑み込んだ。見つかっていない資料を隠すのに、これ以上最適な場所はない。王宮中をひっくり返しても、出てこなかったら、ここしか考えられなかった。
「ひとまず、隠し扉をすべて破壊します」
エリサリデ侯爵は物騒な宣言をすると、王妃様に一礼した。鷹揚に頷いた王妃様は一言「許可します」と声を上げた。扉を壊しに向かう騎士達、中に入ったお兄様……事態は一気に解決へ向かうはず。
欠伸をかみ殺し損ね、お父様や王妃様に心配されてしまった。少しだけ、横になるわ。サーラも一緒に……隣にいて頂戴ね。
455
お気に入りに追加
3,403
あなたにおすすめの小説
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる