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51.愚かさもここに極まれり

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 お父様は、横領と婚約破棄の裏側を探るフロレンティーノ公爵家の混乱を狙ったと推測していた。婚約者である私に使うべき予算が、どこかに消えている。離宮の管理費も含めれば、膨大な金額だった。その行先はどこか……。

 元は税金だ。民が働いて納めたお金が「消えました」「はいそうですか」と終わるはずもない。様々な書類を集め、消えた金の行き先と正確な金額の割り出しを行なっていた。

 婚約破棄の理由に関わる可能性があるとして、お父様が横領関係の調査を担当している。調査そのものが止まらなくても、遅らせることを目的とするなら?

「俺が倒れれば、逆に抑えが利かなくなるぞ。愚行もここまで来ると……哀れだな」

 やれやれと肩を竦める。お父様の仰る通りだった。もしここでお父様や私が倒れたら、貴族達は歯止めを失う。怒りや過去の屈辱を晴らすべく勝手に動き回り、王家を食い荒らすだろう。それは国を揺るがし、他国に付け入る隙を与えてしまう。

「お父様を狙ったから、私に危害を加えなかったのかしら」

 こてりと首を傾げる。あの場で、私が悲鳴を上げる前に攻撃することも可能だった。首を絞めるなり、刃を突き立てるなり……侍女サーラがいたけれど、邪魔なら一緒に始末することも出来るわ。私達は眠っていたのだもの。

「お嬢様と私の間で迷ったのかもしれません」

 サーラの冷静な声に、なるほどと頷く。どちらが令嬢でどちらが侍女か。判断できずに手を拱いて、叫ばれてしまった。そちらの考えも頭の片隅に置いておこう。偏った考えは危険だ。見える物を隠し、聞こえる声を遠ざけ、私の未来を閉ざしてしまうから。

「私が知っているのはここまでです」

 きっちり確認したパストラ様は言い切った。後宮を含め、各所に繋がる通路は多い。手元に記して残すことが許されなかったため、王族は暗記している。その情報をすべて公開した。

 王妃様も同様に確認をしていたが、ふと手を止めて眉を寄せた。首を傾げながらもう一度本宮の見取り図を眺める。

「この通路、ここへ繋がるのはおかしいわ」

「どこです?」

「謁見の間にある玉座の裏よ。ここから外へ繋がっているはずはないの。後宮が出口だもの」

 古い通路はほぼ独立しているが、新しく作られた隠し通路は途中で合流している。建設費用を浮かせる目的だろう。外へ繋がる通路は階下にあり、一見すると繋がっているように思われた。見取り図の扉の位置からして、私もそう思う。

 覗き込んだ私に説明するように、王妃様は断言した。

「絶対に外に繋がらない。だって、ここは国王しか使えないのよ」

 扉が他の場所と違い、同じ手順で開かないという。その開け方を知るのは、国王ただ一人。そして跡取りである王太子に引き継がれる。王妃や王女は扉の存在を知っていても、開けることは不可能だった。

「外へ嫁ぐ女性には教えない。それは……」

 隠し場所にぴったりだわ。浮かんだ言葉を呑み込んだ。見つかっていない資料を隠すのに、これ以上最適な場所はない。王宮中をひっくり返しても、出てこなかったら、ここしか考えられなかった。

「ひとまず、隠し扉をすべて破壊します」

 エリサリデ侯爵は物騒な宣言をすると、王妃様に一礼した。鷹揚に頷いた王妃様は一言「許可します」と声を上げた。扉を壊しに向かう騎士達、中に入ったお兄様……事態は一気に解決へ向かうはず。

 欠伸をかみ殺し損ね、お父様や王妃様に心配されてしまった。少しだけ、横になるわ。サーラも一緒に……隣にいて頂戴ね。
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