上 下
40 / 137

40.二通目の不思議な手紙

しおりを挟む
 仕掛けるのは、三日後の朝らしい。実際は戦いをするわけでなく、話し合いの場を設けるだけ。王家と貴族派が対立するので、国王派の動きが気になる。

 どのくらいの貴族が国王派に残っているのかしら。リストは目を通して返したけれど、リベジェス公爵家当主の名前はなかった。リベジェス元公爵令嬢としか表現しようがないけれど、彼女は国王派の可能性が高い。美しい女性だと聞いたけれど、近づかないようにしなければ。

 覚悟を決めてドレスを選ぶ。一応王宮へあがるのだから、それに合わせた装いが必要だろう。宝飾品は控えめに、最低限で構わない。指示を出したところへ、アルベルダ伯爵令嬢から預かった手紙が届けられた。カミロにより、毒のチェックも終わっている。

 手紙を運んだのは執事なのに、お父様が不安そうな顔で駆けつけた。同じ屋敷内にいるのだし、構わないけれど。部屋に招いて向かい合わせに座る。手紙は安全のために、目の前でカミロが開封した。銀のトレイの上で逆さにして、確認を行う。

 入っていたのは便箋が二枚だった。外の一枚は白紙……なぜか黄ばんでいる。内側は真っ白な便箋だ。さらりと目を通した。

「見せてもらっても?」

「あ、ええ。どうぞ」

 お父様の手に便箋を渡した。気になって、外側の一枚を手元に残す。我が家の便箋を使ったのだから、紙は上質だ。にも関わらず、色が違っていた。

 違和感は大切よ。両側をじっくり眺め、匂いを確かめようとした。しかし止められ、父の手で回収される。カミロの確認が終わるまで、触れないことになった。でも、ほんのりと柑橘の香りがしたような。なぜかお兄様の顔が浮かんだ。

「アリーチェ、この手紙は証拠として預かりたい」

「お任せいたします」

 王宮へ行く話が出たタイミングで、アルベルダ伯爵令嬢が書いたのなら……そのつもりだったはずよ。頷いてお父様とカミロを見送った。

 手紙には、浮気相手の振る舞いが記されていた。私のカバンを勝手に開けていたこと、中の本を取り出して捨てたこと。王太子が一緒だったせいか、誰も止めなかったこと。この時にアルベルダ伯爵令嬢が「いくら何でも失礼なのでは?」と声を上げたため、目をつけられた状況に至るまで。

 私が日記で読んだ部分の裏側が並んでいた。周囲が止めなかった部分は想像できたけれど、人前で堂々と私の荷物を漁ったとまでは思わなかった。普通はこっそりするものでしょうに。

 見られて困る本が入っているわけもなく、上質なペンやノートは持ち去られた。私なら捨てるけれど、浮気相手の女性が使うのかしら? そのくらい、王太子が買って差し上げればいいのにね。

 嫌味が溢れるけれど、口はきゅっと噤んでいた。これが公爵令嬢である私の矜持よ。どんなに納得できない状況でも、淑女教育を受けた令嬢として、平民のような相手と同レベルに落ちるわけにいかないわ。

「気分が悪いわ」

「薬草茶をご用意します。もう休まれてはいかがでしょう」

「そうね、夕食はいらないと伝えてちょうだい」

 こんな時は眠ってしまいましょう。気分をリセットして、明日は日記を読む。そう決めて、結った髪を解いた。不思議な香りのする不透明のお茶を飲む。緑色でどろりとしていた。味はさっぱりして、見た目と一致しない。

「おやすみなさいませ、お嬢様」

 ベッドに横たわった途端、すっと瞼が落ちる。もしかして、あのお茶は眠りを誘う薬草が入っているのかも。緑のどろりとしたお茶に沈んでいくように、夢も見ずぐっすりと眠った。

 目が覚めた翌朝、私は昨日の違和感の正体に思い至る。やっぱり睡眠は大事ね。大急ぎで支度をして、お父様の待つ食堂へ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...