【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

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37.過去の私は傷ついたでしょうね

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 毎日、様々な客が訪れる。誰が来るのか、そのくらいは執事カミロを通して知ることが出来た。けれど、私が顔を出すわけにいかない。すべての鍵を握る人物と思われているせいだ。

 貴族派は王族と戦うため、我がフロレンティーノ公爵家の力を利用したい。出来るなら次の王にお父様を担ぎたいと考えていた。この辺は説明されなくても理解できるわ。筆頭公爵家であり、圧倒的な権力を持つお父様の手腕にも期待しているのね。

 以前、女王になりたいかとお父様は尋ねた。あの真意はとても深い。私には兄カリストがいる。普通に考えたら、フロレンティーノ王家が誕生すれば嫡男が王太子になるはず。それを飛び越して女王と口にした。お父様はもしかしたら、お兄様に爵位を譲る気がないのかしら。

 泳がせておけも気になる。考え事をしていたら、読書の手が止まった。毎日入れ替えているけれど、今日の経済書は面白くない。失敗したわ。これならいっそ、恋愛小説を読めばよかった。

 飽きていたのもあり、本を横に片付けた。積み上げた本の隣を抜けて、日記へ手を伸ばす。ほぼ装飾のない青い表紙を撫でて、栞を挟んだ場所から遡って読み始めた。

 紅茶が飲めなくなった原因の騒動から、一ヶ月ほど前まで目を通している。この間は大きな問題は見当たらなかった。遡るのをやめ、夜会へ向けて先を読もうか迷う。指先で日記の縁を撫で、栞を残して閉じた。

「サーラ、一緒にいてくれる?」

「はい、お嬢様」

 微笑むサーラを手招きし、隣に座るよう頼んだ。すると一度首を横に振り、お茶の支度を始める。不思議な香りのするお茶は、やや赤い色をしていた。

「酸味が強いお茶ですので、蜂蜜もどうぞ」

 普段はお茶に砂糖を入れないが、一口飲んで眉を寄せた。顔がきゅっと中央に寄るような、なんとも言えない酸っぱさに口が戻らない。蜂蜜をひと匙、迷ってもう少し足した。

「お肌にいいそうですよ」

 くすくす笑うサーラは、私の悩みを吹き飛ばしてくれた。深刻な顔をしていたから、心配したのね。並んで座り、一緒にカップを傾けた。

 日記を開いて、今から半年前の父に相談した日の先を読み始める。翌日は落ち込んだ様子が感じられたものの、特筆する事件はなかった。そこから数日の平和、さらりと読み進めていた手が止まる。

 二週間ほどしたところで、浮気相手の記述が出てきた。いとけなく感じられる外見と、演じたような幼さ。不思議な表記だった。同じような年代の子に、そこまで幼さを感じ取るなんて。首を傾げてしまう。

 貴族令嬢は、平民に比べれば大人びている。十五、六歳から結婚するため、自然と教育もその年齢に合わせて行われた。礼儀作法や慣習、他国の知識など。家を切り盛りする女主人には、経理などの知識も欠かせない。それらをすべてマスターすれば、自然と性格は落ち着くものだ。

 幼く見える振る舞いなど、侮られるだけなのに? 王太子はそれを好んだのかしら。先を読み進める私の指は、ある記述に引っかかった。

「人前で、口付け……?」

 婚約している男性が、婚約者ではない女性と口付けを交わした。その衝撃を記す文字は、大きく揺れて動揺を示している。ショックだったでしょうね。私は過去の自分を慰めるように、滲んだ字を何度も撫でた。
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