【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

文字の大きさ
上 下
101 / 117
本編

101.騒々しい帰国が続き……

しおりを挟む
 悩む時間はさほど長くなかった。というのも、悩んでいられなくなったのだ。思わぬ提案から3日後、ランジェサン王国の近衛騎士団が訪れ、アシル伯父様は帰った。縄で拘束され、逃げられないよう格子付きの馬車に乗せられての帰還は、国王陛下としてどうかと思うわ。

 逃げられて探し回った宰相閣下や側近の皆様は、本当にご苦労なさったのでしょう。あれこれ状況を改善しようとする国王の言葉を一切聞かず、近衛騎士団長は丁寧に挨拶をして踵を返した。手土産に我が国で収穫した果物をお渡しする。

「また来るから」

 不穏な一言を残して連行される国王陛下を見送った翌々日の早朝、次にフォンテーヌ公爵家の門を叩いたのは、バルリング帝国軍の将軍だった。影武者を置いて姿を消した皇帝の足取りを追って、この屋敷に辿り着いたらしい。厳しいお顔の将軍は、皇帝陛下の顔を見るなり泣き出した。

「貴方様に何かあれば、我が首ひとつでは足りませぬ」

「皇太子もおるのだ。それほど大騒ぎすることでもあるまい」

 むっとした口調で言い返したものの、分が悪いのは皇帝陛下ご自身。幾多の軍功を誇る将軍の泣き落としに負け、渋々帰路に就いた。距離があるため馬車は持ってこられず、うちの馬車を提供することにする。予備の馬車にクッションや手土産のワインを載せてお渡しした。

 将軍は、ようやくお役目が果たせると嬉しそうに馬に跨る。逃げないよう足首に鎖と重しを付けられ、馬車で帰国する皇帝陛下を見送り、ふと気づいた。

「使者の方々は馬で来られたのよね? それはどうしたの」

 私の疑問に、兄が苦笑いした。

「馬は預かりとなった。今後の交流が増えれば、早馬の折り返しにも使える。互いに馬を預け合うことになるだろう」

 それもそうね。伝令や使者の方が乗り換えて帰るのに、ちょうどいいわ。フォンテーヌ家の馬と一緒に柵の中で自由に過ごす馬を見つめ、私は頬を緩めた。

「そうだわ、私、馬に乗りたい!」

 落馬すると危険だからと我慢してきた。でも今回は後悔したくないし、未練も残したくないの。お強請りは父クロードを唸らせ、兄シルヴェストルを心配させたが、条件付きで許可が降りた。

「必ず騎士を二名以上、リッドかカールのどちらかを同行させること。シルでもいい」

 お父様の言葉に、きちんと約束を交わす。心配されるのも嬉しいなんて、悪い子かしら。

「ありがとう、お父様」

「一番おとなしくて賢い馬を選んでやろう」

 そう言って、お父様とお兄様が選んだ子は、栗毛で目が大きくて優しい牝馬だった。立派なたてがみが柔らかく、顔の中央に流星と呼ばれる白い毛が生えている。名前はリディ、私が呼ぶと鼻を鳴らして応えた。

 早くリディに乗って散歩が出来るようになりたいわ。
しおりを挟む
感想 410

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

【完結保証】ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結保証】公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます

ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...