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本編
83.不公平の意味を理解せぬ者
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切り捨てられた。王家派であった家門の中には取り立てられた者もいるが、自分達は選ばれなかった。違いが理解できず、悩む。前回王家から甘い汁を吸った点では、ラクール子爵家もティル子爵家も同じだ。王家という大木が倒れて我らも一緒に倒れた。
怒り狂った民が屋敷を襲い、逃げた騎士や兵士も民に混じって略奪側となって戻った。裏切者により屋敷の隠し部屋は見つかり、妻子ともども殴り殺された。石打ち刑より早く死ねたのが唯一の救いか。貯め込んだ金貨や宝石はこの身を守らなかった。金に飽かせてかき集めた兵士も裏切る。
人生が終わったはずなのに、強制的に今回のやり直しに参加させられた。逃げる場はもうなく、事件はまだ起きていない。真っ先にフォンテーヌ公爵家へ書簡を送った。服従を示す血判を押した誓約書は確かに届いたはず。だが我がラクール子爵家は選ばれず、ティル子爵家は役職を与えられた。
いっそまた王家にすり寄るか。そう考えた矢先に、ジュベール王家は血が絶え、王国は崩壊した。もう戻る場所などない。公国は貴族連合の形を取った国家であり、王国のような強権発動はなかった。上位に位置するフォンテーヌの名を掲げているが、それはフォンテーヌ公爵領が首都になったからだ。
公国において、我がラクール子爵家は一代限りの貴族となった。役職がなければ金が入ってこない。領地の運営で得られる金額で、子爵家が生き延びるのは不可能だった。なぜだ? どこで間違えた。今回はまだ王家に近づいていない。失態の理由がわからないことが怖かった。
「あなた、お顔が真っ青よ」
妻はあの夜会に参加していない。愛人を連れて行ったからだ。あの日の記憶を持たない彼女に何を言っても理解されないだろう。子ども達も同様で、誰も頼れる者も相談相手となる者もいない。執事も、侍女も、兵士も……恐ろしい顔で殴りかかってきた。あの恐怖が身を震わせる。
「で、出ていけ!」
困惑する妻を執務室から追い出し、続き部屋の自室に飛び込んで鍵をかけた。不安になったらしい妻が呼びかけ、執事が扉を叩くが開けたら最後だ。あんな死に方はしたくない。もう嫌だ。
「そろそろか」
「はい」
フォンテーヌ公爵クロードは、何に関する誰の話と言わずに口を開く。見上げる先で月が大きく欠けていた。あの月が満ちていた頃に届いた大量の誓約書、却下側に回した束を拾い上げる。ジョゼフはすべてを承知したように頷いた。
昼間は穏やかな顔を見せていたクロードは、お茶会に乱入して娘に近づく2人を牽制した。その子どもじみた態度が嘘のような厳しさを滲ませる。
「オードラン辺境伯とバシュレ子爵を呼んでくれ」
「すでにお呼びしております」
時期かと思いましたので。しれっとした顔で手回しの良い宰相に、クロードの頬が緩む。前回もこうして手を組んでいたら、あの結末は違っていたのか。もっと早く互いに手を取るべきだった。敵は共通だったのだから。
打てば響く主従の関係が心地よく、クロードはもう一度月を見上げてからテラスの扉を閉めた。
「では仕上げにかかろうか」
怒り狂った民が屋敷を襲い、逃げた騎士や兵士も民に混じって略奪側となって戻った。裏切者により屋敷の隠し部屋は見つかり、妻子ともども殴り殺された。石打ち刑より早く死ねたのが唯一の救いか。貯め込んだ金貨や宝石はこの身を守らなかった。金に飽かせてかき集めた兵士も裏切る。
人生が終わったはずなのに、強制的に今回のやり直しに参加させられた。逃げる場はもうなく、事件はまだ起きていない。真っ先にフォンテーヌ公爵家へ書簡を送った。服従を示す血判を押した誓約書は確かに届いたはず。だが我がラクール子爵家は選ばれず、ティル子爵家は役職を与えられた。
いっそまた王家にすり寄るか。そう考えた矢先に、ジュベール王家は血が絶え、王国は崩壊した。もう戻る場所などない。公国は貴族連合の形を取った国家であり、王国のような強権発動はなかった。上位に位置するフォンテーヌの名を掲げているが、それはフォンテーヌ公爵領が首都になったからだ。
公国において、我がラクール子爵家は一代限りの貴族となった。役職がなければ金が入ってこない。領地の運営で得られる金額で、子爵家が生き延びるのは不可能だった。なぜだ? どこで間違えた。今回はまだ王家に近づいていない。失態の理由がわからないことが怖かった。
「あなた、お顔が真っ青よ」
妻はあの夜会に参加していない。愛人を連れて行ったからだ。あの日の記憶を持たない彼女に何を言っても理解されないだろう。子ども達も同様で、誰も頼れる者も相談相手となる者もいない。執事も、侍女も、兵士も……恐ろしい顔で殴りかかってきた。あの恐怖が身を震わせる。
「で、出ていけ!」
困惑する妻を執務室から追い出し、続き部屋の自室に飛び込んで鍵をかけた。不安になったらしい妻が呼びかけ、執事が扉を叩くが開けたら最後だ。あんな死に方はしたくない。もう嫌だ。
「そろそろか」
「はい」
フォンテーヌ公爵クロードは、何に関する誰の話と言わずに口を開く。見上げる先で月が大きく欠けていた。あの月が満ちていた頃に届いた大量の誓約書、却下側に回した束を拾い上げる。ジョゼフはすべてを承知したように頷いた。
昼間は穏やかな顔を見せていたクロードは、お茶会に乱入して娘に近づく2人を牽制した。その子どもじみた態度が嘘のような厳しさを滲ませる。
「オードラン辺境伯とバシュレ子爵を呼んでくれ」
「すでにお呼びしております」
時期かと思いましたので。しれっとした顔で手回しの良い宰相に、クロードの頬が緩む。前回もこうして手を組んでいたら、あの結末は違っていたのか。もっと早く互いに手を取るべきだった。敵は共通だったのだから。
打てば響く主従の関係が心地よく、クロードはもう一度月を見上げてからテラスの扉を閉めた。
「では仕上げにかかろうか」
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