【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
83 / 117
本編

83.不公平の意味を理解せぬ者

しおりを挟む
 切り捨てられた。王家派であった家門の中には取り立てられた者もいるが、自分達は選ばれなかった。違いが理解できず、悩む。前回王家から甘い汁を吸った点では、ラクール子爵家もティル子爵家も同じだ。王家という大木が倒れて我らも一緒に倒れた。

 怒り狂った民が屋敷を襲い、逃げた騎士や兵士も民に混じって略奪側となって戻った。裏切者により屋敷の隠し部屋は見つかり、妻子ともども殴り殺された。石打ち刑より早く死ねたのが唯一の救いか。貯め込んだ金貨や宝石はこの身を守らなかった。金に飽かせてかき集めた兵士も裏切る。

 人生が終わったはずなのに、強制的に今回のやり直しに参加させられた。逃げる場はもうなく、事件はまだ起きていない。真っ先にフォンテーヌ公爵家へ書簡を送った。服従を示す血判を押した誓約書は確かに届いたはず。だが我がラクール子爵家は選ばれず、ティル子爵家は役職を与えられた。

 いっそまた王家にすり寄るか。そう考えた矢先に、ジュベール王家は血が絶え、王国は崩壊した。もう戻る場所などない。公国は貴族連合の形を取った国家であり、王国のような強権発動はなかった。上位に位置するフォンテーヌの名を掲げているが、それはフォンテーヌ公爵領が首都になったからだ。

 公国において、我がラクール子爵家は一代限りの貴族となった。役職がなければ金が入ってこない。領地の運営で得られる金額で、子爵家が生き延びるのは不可能だった。なぜだ? どこで間違えた。今回はまだ王家に近づいていない。失態の理由がわからないことが怖かった。

「あなた、お顔が真っ青よ」

 妻はあの夜会に参加していない。愛人を連れて行ったからだ。あの日の記憶を持たない彼女に何を言っても理解されないだろう。子ども達も同様で、誰も頼れる者も相談相手となる者もいない。執事も、侍女も、兵士も……恐ろしい顔で殴りかかってきた。あの恐怖が身を震わせる。

「で、出ていけ!」

 困惑する妻を執務室から追い出し、続き部屋の自室に飛び込んで鍵をかけた。不安になったらしい妻が呼びかけ、執事が扉を叩くが開けたら最後だ。あんな死に方はしたくない。もう嫌だ。



「そろそろか」

「はい」

 フォンテーヌ公爵クロードは、何に関する誰の話と言わずに口を開く。見上げる先で月が大きく欠けていた。あの月が満ちていた頃に届いた大量の誓約書、却下側に回した束を拾い上げる。ジョゼフはすべてを承知したように頷いた。

 昼間は穏やかな顔を見せていたクロードは、お茶会に乱入して娘に近づく2人を牽制した。その子どもじみた態度が嘘のような厳しさを滲ませる。

「オードラン辺境伯とバシュレ子爵を呼んでくれ」

「すでにお呼びしております」

 時期かと思いましたので。しれっとした顔で手回しの良い宰相に、クロードの頬が緩む。前回もこうして手を組んでいたら、あの結末は違っていたのか。もっと早く互いに手を取るべきだった。敵は共通だったのだから。

 打てば響く主従の関係が心地よく、クロードはもう一度月を見上げてからテラスの扉を閉めた。

「では仕上げにかかろうか」
しおりを挟む
感想 410

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...