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本編

62.罪と罰の天秤は傾く

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 処刑が決まった罪人を淡々と処理する。王都から逃げ延びた難民ならば同情しよう、彼らが領民と手を取り合い豊かな生活を望んだなら手を貸そう。だが善良な領民から強奪する輩を許す気はなかった。手が血に汚れ赤く染まると承知の上で、決断は公平になされた。

 罪と罰は同等ではない。それでは被害者が一方的に不利益を被るからだ。税を納め家族と平凡な生活を楽しむ者を襲い、恐怖を味わわせて殺した強盗がただの死刑で済むはずがなかった。同等以上の苦しみを与えてこそ、ようやく天秤は釣り合う。

 死刑宣告を受けた者は、新たな公共事業として行われる山の掘削現場へ回された。首を斬っても、復讐を認めても、領民に利益はない。危険な労働環境で監視されながら死ぬまで働く。山は落盤事故も多く、生き埋めになることもあるため、労働者のなり手が少ない。

 領民にとっても、公爵領にとっても利益を生む決断だった。逃がさないための対策は十分に施した。彼らに恩赦は適用されない。領民の一部からは、一時的であれ生き永らえさせることへの不満が出た。そんな人々に、官吏は丁寧に説明を行う。現場の過酷さを確認したいと言われれば、案内もした。

 納得した領民は次第に落ち着きを取り戻す。見せしめも兼ねた処刑の対象者は、強盗や傷害のみで殺人を行わなかった罪人だった。死にたくないと騒ぐ彼らは、石打ち刑や磔に処される。同様の犯罪を犯そうとする者をけん制するため、処刑は大きく宣伝された。

「……ティナには見せられませんね」

「まったくだ」

 血腥い決断をした親子は、顔を見合わせる。昨日の穏やかな午後が嘘のようだった。目の前で死へと向かう行進をする罪人は泣き叫び、命乞いを繰り返す。憎しみや悲しみを晴らそうと集まる領民の罵声が、彼らの泣き声を掻き消した。

 移民や難民を受け入れたことを後悔はしない。人道的にも領地の繁栄のためにも必要な措置だった。だが、どんなに選別しても不心得者は現れる。どんなに支援しても働かずに食い潰す輩は出る。ならば切り捨てた命の重さを背負うのは領主の仕事だった。

 処刑をある程度見届けたところで、後ろからジョゼフが声を掛ける。

「フェルナンが承諾を」

 最低限の用件を伝えた言葉に、クロードは頷いた。フェルナンの処分は罪を償う方向に固定される。文官として計算や経理の仕事を与え、最低限の生活は保障した。その上で、彼は仕事以外の時間を拘束される。当人も納得した上での処置だった。

 今後の人生は、狂わせた人々への償いと……己を慰める穏やかな時間を過ごせるように。最大限配慮した結果がこれだ。いずれ事態が変わるとしても、現時点でこれ以上の措置は望めなかった。

「頂点になど、立つものではないな」

「仕方ありません。あの王家よりマシです」

 慰めにならないジョゼフの一言に、親子は望まない地位に肩を落とした。
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