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本編
36.待ち侘びたドロテ発見の一報
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王太子アンドリューの元に「ドロテ発見」の一報が飛び込んだのは、記憶を取り戻して1ヵ月後のことだった。王都内は探し尽くしたはずなのに、ある男爵家に捕まっていると密告が入る。家族ごと誘拐されたため、発覚が遅れたらしい。
ワトー男爵家。前回、王太子の側近を務めた赤毛の騎士の実家で、王都の西側に屋敷を構える。貴族が娘を見初めて連れ去る事件は、人々の噂という形でようやく王太子に届いた。ドロテの一家が連れ去られて2週間ほど経過している。
「くそっ、あの男め。またドロテに手を出す気か」
舌打ちした王太子は数少ない騎士を伴い、ワトー男爵家の門を叩いた。年老いた使用人は屋敷に若い娘などいないと言い張るが、王家の名を翳して押し通る。騎士達が散開して、屋敷中を探し始めた。
「きゃぁ! やめてください」
自室に踏み込んだ騎士を押し戻そうとして、男爵夫人が突き飛ばされる。崩れ落ちた彼女を無視してクローゼットを開き、中のドレスや下着を放り出して家探しが繰り広げられた。当主である男爵が留守にした屋敷は、これ以上ない乱暴な家探しで荒れていく。
「こりゃ、見物だぞ」
「貴族同士の痴情の縺れか」
「女を探してる? あれは王太子様じゃないか!」
ある老人が王太子の肩書きに気づいて叫んだ途端、塀や門から見物していた住民は青ざめた。家族に若い娘がいる者は危険を知らせに走り、そうでない男達も何かあれば動けるように武器を探す。
王太子に逆らうなど平民にとって考えられない愚挙だが、後ろにはフォンテーヌ公爵家がいる。公爵家から出された触れは、王家に対する罪人は保護する旨が公然と謳われていた。王家に逆らっても、それ以上の権力者であるフォンテーヌ公爵家が守る。もちろんその罪状の内容によるが、それは王都の人々にとって安心材料だった。
娘が乱暴されそうになり逃げても、公爵家が助けてくれる。王家の横暴さに耐えかねて逆らっても、処刑される前にフォンテーヌ公爵領に駆け込めばいい。王家の噂と同時に広まった救いに、人々は縋った。すでに年頃の娘を持つ一家が逃げ込んだ話も聞こえる。
王都の住民は重税に耐えかね、王家の横暴さに眉を顰めながら脱出の準備を進めた。その最中の騒動である。走りながら危険を叫んだ若者の言葉を疑う住民は、誰もいなかった。
「王太子様が、女狩りに来たぞ。気を付けろ」
その叫びに人々は娘や妻にスカーフや布を被せ、近くの神殿に駆け込んだ。中には家財道具を諦め、手持ちの貴金属や金を持って逃げ出す一家もいる。まるで他国が攻め込んだような、阿鼻叫喚の騒ぎだった。
「くそっ、どこだ?」
外の騒動に気づかない王太子は、地下へ続く階段を見つけて口角を持ち上げた。昔から宝物は地下に隠されるものだ。可哀想に、ドロテも地下に閉じ込められたのだろう。傷つけられていたら、優しく癒してやろう。包み込んで、王家が所有する塔の中で飼えばいい。
連れてきた破落戸に近い騎士へ合図を送り、王太子は地下へ続く扉を破らせた。
ワトー男爵家。前回、王太子の側近を務めた赤毛の騎士の実家で、王都の西側に屋敷を構える。貴族が娘を見初めて連れ去る事件は、人々の噂という形でようやく王太子に届いた。ドロテの一家が連れ去られて2週間ほど経過している。
「くそっ、あの男め。またドロテに手を出す気か」
舌打ちした王太子は数少ない騎士を伴い、ワトー男爵家の門を叩いた。年老いた使用人は屋敷に若い娘などいないと言い張るが、王家の名を翳して押し通る。騎士達が散開して、屋敷中を探し始めた。
「きゃぁ! やめてください」
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「こりゃ、見物だぞ」
「貴族同士の痴情の縺れか」
「女を探してる? あれは王太子様じゃないか!」
ある老人が王太子の肩書きに気づいて叫んだ途端、塀や門から見物していた住民は青ざめた。家族に若い娘がいる者は危険を知らせに走り、そうでない男達も何かあれば動けるように武器を探す。
王太子に逆らうなど平民にとって考えられない愚挙だが、後ろにはフォンテーヌ公爵家がいる。公爵家から出された触れは、王家に対する罪人は保護する旨が公然と謳われていた。王家に逆らっても、それ以上の権力者であるフォンテーヌ公爵家が守る。もちろんその罪状の内容によるが、それは王都の人々にとって安心材料だった。
娘が乱暴されそうになり逃げても、公爵家が助けてくれる。王家の横暴さに耐えかねて逆らっても、処刑される前にフォンテーヌ公爵領に駆け込めばいい。王家の噂と同時に広まった救いに、人々は縋った。すでに年頃の娘を持つ一家が逃げ込んだ話も聞こえる。
王都の住民は重税に耐えかね、王家の横暴さに眉を顰めながら脱出の準備を進めた。その最中の騒動である。走りながら危険を叫んだ若者の言葉を疑う住民は、誰もいなかった。
「王太子様が、女狩りに来たぞ。気を付けろ」
その叫びに人々は娘や妻にスカーフや布を被せ、近くの神殿に駆け込んだ。中には家財道具を諦め、手持ちの貴金属や金を持って逃げ出す一家もいる。まるで他国が攻め込んだような、阿鼻叫喚の騒ぎだった。
「くそっ、どこだ?」
外の騒動に気づかない王太子は、地下へ続く階段を見つけて口角を持ち上げた。昔から宝物は地下に隠されるものだ。可哀想に、ドロテも地下に閉じ込められたのだろう。傷つけられていたら、優しく癒してやろう。包み込んで、王家が所有する塔の中で飼えばいい。
連れてきた破落戸に近い騎士へ合図を送り、王太子は地下へ続く扉を破らせた。
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