【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
2 / 117
本編

2.遡ったの? 未来を夢に見たの?

しおりを挟む
 びくりと揺れる。まるで眠っていたベッドから落ちたみたいに、心臓が激しく音を立てた。ゆっくり目を開けたら見慣れたベッドの天蓋と、まだ薄暗い部屋。おかしいわ、私は首を刎ねられたのに。

 ぎこちなく手足を動かして起き上がり、気持ち悪さにまた倒れ込んだ。貧血なの? これはもう治療したはず。手足の先から崩れていくような気持ち悪さは、心当たりがあった。3年前まで、貧血でよく倒れたのよね。

 専属メイドのアリスが入室し、カーテンを開ける。それから私を振り返って、驚いた顔をした。まだ若い、専属になってすぐの頃だとしたら、私は時間を遡ったの? それとも処刑される未来が夢だったのかしら。

「起きていらしたのですね? おはようございます、お嬢様」

「おはよう……起こしてくれるかしら」

「また気分がお悪いのですか? お医者様からお預かりした粉薬をご用意いたしますね」

「ええ」

 できるだけ話す言葉を短くしながら、アリスの様子を探る。彼女は私の専属で、上級使用人だった。私が王宮に嫁いだ後もついてくる予定で……でも何もなかったように振る舞っている。やっぱり私は夢を見ただけ? でも首に触れた冷たい刃の感触を覚えているわ。

 手で触れて、首がついていることを確認する。撫でた皮膚に傷はなかった。右肩をそっと動かしてみるけれど、痛みはない。あの時乱暴に扱われて、右肩が抜けた激痛に見舞われたのが嘘みたいで、信じられない。

 薬と水の準備をしたアリスの手を借りて、ベッドヘッドに寄りかかった。大量のクッションを並べたのもこの為で、寄りかかって一息つく。手渡された粉薬を見つめて、口の中に入れた。水で流して飲み込みながら、苦い味に顔を顰める。

 これ、結構昔の薬ね。最後の頃は甘く味付けされていたから。

 アリスはカーテンを手早く纏めながら、振り返った。柔らかな微笑みを浮かべ、一礼する。

「お誕生日、おめでとうございます。お嬢様も13歳ですね」

 聞き覚えのあるセリフに、具体的な数字。私は驚きすぎて声も出なかった。ただ、曖昧に頷く。私が表情を変えないのはいつものこと。アリスは特に不審に感じていないみたい。ほっとした。私が未来の夢を見たなんて口にしたら、気が触れたと思われそう。

「お支度をいたしますので、落ち着いたらお声がけください」

 慣れた様子で櫛や化粧品を並べ、顔を拭くタオルも用意される。その後、事前に用意されたドレスを部屋へ運んだ。トルソーにかかったドレスはまだ布がかかっている。誕生日まで私に見せないサプライズだった。

 でも知ってるわ。赤いドレスなの。美しいドレープがかかった上質の絹が重ねられたドレス。王太子殿下が選んだ色、だけど貧血で顔色の悪い私には似合わなかった。豪華な金髪で緑の瞳なら、本当は似合う色なのよね。それだけ、あの人は私のことなど見ていなかったし、知らなかった。

「お嬢様、王太子殿下より賜ったドレスですわ」

 布を引いて現れたのは、見覚えのある赤。やっぱり、私の記憶の通りに繰り返してる。それからアリスが宝石箱を運んできた。

 これも夢で見て知っているわ。黄金細工に真珠をいくつも使った豪華な首飾り。淡いピンクの真珠は珍しくて高価だから、とお父様が購入なさったの。それと合わせた耳飾りをお兄様が発注したのよね。

 お母様は2年前に亡くなられて、私はずっと人形姫のまま。お母様のように笑顔が素敵な女性なら、愛されたのでしょうか。

「ご覧ください。素晴らしいお飾りですわ」

「……本当ね」

 豪華なだけで心が篭っていない贈り物を、指先でさらりと撫でた。
しおりを挟む
感想 410

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...