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本編
1.人形姫の呪縛から解放してあげるわ
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公爵令嬢として生まれ、王太子と婚約し、未来の王妃として教育を施された。どこまでも完璧な人形姫、それが私への評価なのね。血が通う人間として扱われなかった。誰も私の気持ちを聞いてくれないし、話しても届かない。
もういいわ。疲れてしまった。好きにしたらいい。
俯いて彼の断罪の言葉を聞き流した。この声が一度でも優しく私を癒していたら、何か違ったのかしら。隣の女は誰? 貴族名鑑を丸暗記させられた私が知らない貴族令嬢はいないから、平民のお嬢さんかしら。
ぼんやりと見つめる私は、強く床に押し付けられた。柔らかな絨毯が支えてくれても、騎士が捻った腕は痛む。突いた膝にスカートの飾りが食い込み、叩きつけられた頬は痣になっただろう。
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
王太子の命令に従う騎士は、淑女の鑑と言われた私の体を無理やり引っ張った。腕がものすごく痛いわ。肩ががくんと外れて、激痛に声もあげられずに震えた。それでも歩かされ、裾の長いスカートの中で靴が脱げて素足になる。抵抗していないのに、乱暴に私を扱う意味は何かしら。
「待てっ! ティナは」
叫んだあの声はお兄様? 久しぶりにお声を聞いたわ。そんなに嘆かないで。ジュベール王家が、フォンテーヌ公爵家を滅ぼすことはないわ。だからお兄様は安泰だもの、私を見捨てても平気よ。
お家のために生きて、お家のために死ね。そう教えられてきた私に、後悔も未練もありません。いえ……本当は違う。精一杯生きたから、頑張ったと胸を張って誇れるから後悔はないの。でも未練はある。
お友達が欲しかった。なんでも話せる親友がいたら、こんな場面でも泣けたかしら。家族に愛されたかった。家のためじゃなく私を見て欲しかったの。それから……王太子殿下の婚約者にならず、好きに生きたかった。お転婆に振る舞って、芝の上を裸足で走り回り、犬も飼いたいし、王太子殿下以外の人とダンスを踊りたかったけど。
引き摺り出された王宮の中庭で、私の長い髪を乱暴に切られた。ああ、この場所で殺すの? 噴水があって血が洗い流せるものね。それに国王陛下や王妃殿下がいらっしゃる前に片付けたいのでしょう?
右肩は痺れて動かないが、無理やり跪かされた私は短くなった金髪を引っ張られながら、顔を上げた。見上げる階段の先に、多くの貴族が並んでいる。物好きね、処刑なんて見ても悪夢に魘されるだけよ。中央で婚約者だった王太子殿下に寄り添う女がにやりと笑った。
ふふっ、覚えておくわ。あなたが元凶ね。私を解放してくれてありがとう、と微笑む。直後、首に触れた冷たさと僅かな痛みが最期の記憶だった。
ころんと転がったであろう私の首、痛みがあまりなくて良かったわ。さようなら、愛せなかった王太子殿下。人形姫の呪縛から、解放して差し上げるわ。
もういいわ。疲れてしまった。好きにしたらいい。
俯いて彼の断罪の言葉を聞き流した。この声が一度でも優しく私を癒していたら、何か違ったのかしら。隣の女は誰? 貴族名鑑を丸暗記させられた私が知らない貴族令嬢はいないから、平民のお嬢さんかしら。
ぼんやりと見つめる私は、強く床に押し付けられた。柔らかな絨毯が支えてくれても、騎士が捻った腕は痛む。突いた膝にスカートの飾りが食い込み、叩きつけられた頬は痣になっただろう。
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
王太子の命令に従う騎士は、淑女の鑑と言われた私の体を無理やり引っ張った。腕がものすごく痛いわ。肩ががくんと外れて、激痛に声もあげられずに震えた。それでも歩かされ、裾の長いスカートの中で靴が脱げて素足になる。抵抗していないのに、乱暴に私を扱う意味は何かしら。
「待てっ! ティナは」
叫んだあの声はお兄様? 久しぶりにお声を聞いたわ。そんなに嘆かないで。ジュベール王家が、フォンテーヌ公爵家を滅ぼすことはないわ。だからお兄様は安泰だもの、私を見捨てても平気よ。
お家のために生きて、お家のために死ね。そう教えられてきた私に、後悔も未練もありません。いえ……本当は違う。精一杯生きたから、頑張ったと胸を張って誇れるから後悔はないの。でも未練はある。
お友達が欲しかった。なんでも話せる親友がいたら、こんな場面でも泣けたかしら。家族に愛されたかった。家のためじゃなく私を見て欲しかったの。それから……王太子殿下の婚約者にならず、好きに生きたかった。お転婆に振る舞って、芝の上を裸足で走り回り、犬も飼いたいし、王太子殿下以外の人とダンスを踊りたかったけど。
引き摺り出された王宮の中庭で、私の長い髪を乱暴に切られた。ああ、この場所で殺すの? 噴水があって血が洗い流せるものね。それに国王陛下や王妃殿下がいらっしゃる前に片付けたいのでしょう?
右肩は痺れて動かないが、無理やり跪かされた私は短くなった金髪を引っ張られながら、顔を上げた。見上げる階段の先に、多くの貴族が並んでいる。物好きね、処刑なんて見ても悪夢に魘されるだけよ。中央で婚約者だった王太子殿下に寄り添う女がにやりと笑った。
ふふっ、覚えておくわ。あなたが元凶ね。私を解放してくれてありがとう、と微笑む。直後、首に触れた冷たさと僅かな痛みが最期の記憶だった。
ころんと転がったであろう私の首、痛みがあまりなくて良かったわ。さようなら、愛せなかった王太子殿下。人形姫の呪縛から、解放して差し上げるわ。
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