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102.追加支援の「ついで」よ

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 長時間の馬車移動は慣れていないし、事務処理でお母様の補佐に付くパトリシア様は屋敷に留まる。お兄様達が二人とも戦場へ出た今、本来なら私が後続隊の指揮を執るべきなんだけど……。

「では行ってきます」

 やる気のフィリップ様が、にこにこと挨拶をしてくれた。早朝から手伝って、リストアップした荷を積んだ兵士も、数百人同行するらしい。戦そのものが終わってるから、参加希望者も多かったのね。給与がいいから、農閑期の今は人気の職種だった。

 荷馬車には大量の麦や干し肉、乾燥野菜が積まれている。そのほかに秋の味覚である干し林檎などの果物も入れた。子どもがいるだろうから、必須だと思ったのよ。本来は入っていなかった果物を追加したため、荷馬車が増えたけど後悔してないわ。

「鍋や調理器具は足りてるのよね?」

「問題なさそうだ」

「毛布も?」

「それは追加で積んだ」

 アマンダに質問する形で、足りなそうな物がないかチェックする。彼女は注文を受けた品を揃える。私は書かれていないけど、あったらいい物を追加するの。並んだ荷馬車を見回し、問題なさそうだと判断した。

「これ、お兄様達に渡してね」

 大きめの旅行鞄をひとつ馬車の隙間に乗せ、先に離宮へ戻るからと手を振った。ラエルは離宮に残してきたし、お母様やパトリシア様は本宮の屋敷内……アマンダも書類のチェックに余念がない。

 挨拶を済ませて愛馬に跨り、颯爽と走らせる。森の方へ向かい、そこで方向転換した。森の中をしばらく進むとパールが飛んでくる。

「グレイス、本当にいいの?」

「ええ。平気よ」

 ご無沙汰だった遠乗りに、馬は機嫌がいい。軽い足取りで森の中を進み、時折茂みを飛び越えた。腰に巻いた小型の鞄には、最低限の食料と水が入っている。剣のベルトを腰に巻くのも久しぶりだった。

 小型化して肩に舞い降りたパールが、馬と私に祝福を授ける。これで疲れが全然違うわ。お礼を言うと、照れた様子で「疲れたら置いてくから」と返された。聖獣って、こういうところあるのよね。

 順調に進む先で、川に沿って左へ戻る。浅いから渡れそうだけど濡れるし、少し先に橋があるのを覚えていた。海まで森しかないから、お兄様達と何度か遊びに行ったのよね。

 記憶通りの場所で木製の橋を渡った。ここよりさらに左へ行った街道沿いは、石造りの立派な橋がある。荷馬車はそちらを通るだろう。また森の獣道に分け入った。この辺りは狼が出るけど、祝福があってパールがいたら平気。襲ってくる魔物も獣もいないわ。

 海の潮の香りが届いて、馬の腹を軽く蹴って急がせた。走る先で視界が明るくなり、開けて……青い海が見える。空より色が濃くて、鮮やかだった。

「ここがラエルの言ってた海の橋ね」

 ふふっと笑った私は、後ろから忍び寄る影に気づくのが遅れた。海に見惚れていただけで、油断してたわけじゃないわ。でも……肩を叩かれて、心臓が止まるかと思った。
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