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外伝

外伝2−7.妊婦なので自重します

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 妊婦の健康診断の噂は、大公国の端まで行き渡った。ほとんどの妊婦は受けており、残っているのは人口の少ない地域のみ。おそらく妊婦の移動手段がないのだと思うわ。

 私は聖獣の背に乗ったり転移するから別だけど、通常は馬車や馬に跨っての移動になる。どちらもお腹に振動がすごいから、流産の危険性を考えたら動けない。健康診断に興味があっても、妊婦さんを動かすのは危ないと考えるのが普通だった。

「なら、こちらから向かえばいいのよ」

「確かにその通りですね」

 国中の新たな命の健康を祈る意味では、私達が出向けばいい話。ここまで問題なかったのに、アランは私の同行を拒否した。

「いいですか? サラは妊婦です。それも初期で悪阻がひどい時期でしょう。流産の危険が高いので、今回は屋敷に残ってください」

「嫌よ……と言いたいけど、今回は諦めるわ。アランとエルは神様に同行するんでしょう?」

「ええ。今回の健康診断に使う技術が、私達二人の魔法なので仕方ありません」

 本当は妻の私に寄り添っていたいと嘆きながら、仕事と割り切って出掛ける。アランの溜め息混じりの呟きに、私は首に手を回して引き寄せた。近づいた顔にキスをいくつも降らせる。まずは額、頬、鼻、最後に唇。忘れちゃった目蓋はまた今度ね。

「元気が出た?」

「出ました。頑張ってすぐ帰ります」

 頑張るとすぐ帰るの言葉が、同時に並ぶと違和感あるわね。でも頑張ってくれるのも、すぐ帰って来てくれるのも嬉しい。にこにこと送り出した。

「エルも頑張ってね。応援してるわ」

「うん。戻ってきたら、アリスも一緒にお茶を飲もうよ」

「いいわね」

 エルとアランは、神様を両脇から掴んで転移した。そうよね。誰かを連れて行く予定がなければ、聖獣なんだから転移で一瞬だわ。いざとなれば、聖獣なら大公国の移動なんてひとっ飛びだもの。

 すっかり忘れていて、10日くらい帰らない気で送り出した自分が恥ずかしい。照れていると、リディに手を引かれた。

「邪魔されないから、ゆっくり過ごしましょう。アゼスも向かってるわよ」

「本当? 久しぶりだわ。お祭りは終わったのかしら」

「ええ。お祭りというか、恒例の行事なのよ。サラちゃんも参加した建国祝いね」

「皇后のリディがここにいていいの?」

「私の出番は終わったもの。それにサラちゃんより優先する行事なんてないわ。あの人は皇帝だから、さすがに出ないとまずいけれどね」

 抜け駆けして置いてきたの。きっと怒ってるわ。そう笑うリディの明るさに釣られ、私も笑った。アリスが嬉しそうに混じるけど、何の話をしてたか分からないわよね。頭を撫でて、膝によじ登る娘を支える。

「お腹の声きかせて」

「お姉ちゃんにご挨拶できるかな? まだ寝てるかも」

 無邪気な我が子の話に合わせて、腹に抱きつく娘を抱き締める。生まれてくる子を、アリスが優しく迎えられるように。私は二人を公平に扱わなくちゃね。

 テラスに続く窓を開け放って、室内で風を楽しみながらお茶を飲む。最近お気に入りのお茶は、妊婦でも平気とリディが勧めてくれたフルーツのお茶だった。柑橘系の香りがするお茶を一口飲んだところで、叫びながらエルが現れる。

「神様見つかった!!」
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