94 / 100
外伝
外伝2−4.子どもを見せてください?
しおりを挟む
切り裂きジャックと命名されて、もう2ヶ月。今のところ捕まっていない。私は庭でのんびりとアリスの相手をしていた。大公家は城というより、屋敷という表現が近い。大きな平家で、イメージは平安京とかの公家屋敷。廊下は石造りだし、全体に洋風だけどね。
庭に飾られた聖獣の像に寄りかかり、クッションと毛布の間で欠伸をした。アランのいる執務室が見える場所で、今日は珍しく誰もいない。エルは仕事で呼び出され、アゼスとリディは近隣国との会議があるんですって。
「まま、これ」
何かを捕まえたみたい。左右に揺れる不安定な状態のアリスを、侍女達がサポートする。この辺はお任せしている。転んでも経験だし、ちゃんと歩けたらそれも大切な体験だから。
「何? 見せて」
ぱっと手を広げたアリスは、首を傾げた。どうやら捕まえたものが逃げたみたい。半泣きになって、小さな虫の説明を始めた。蟻かしら? 知っている生き物で近いのは、蟻のような気がする。
「泣かないで。また見つけたら見せてちょうだい」
こくんと頷き、アリスはまた虫探しに歩き出す。揺れる幼児の歩き方は、どうやってバランスを取っているのか。意外と転ばないものだ。見送った私は、再び聖獣の像に寄りかかった。最近はお腹が苦しくて、やや反り返っている方が楽なのよ。体重を預けた像の上に、ふっと影がかかった。
「っ!」
叫ぼうとした私の口を、黒い手が塞ぐ。甘い匂いがする。くらりと倒れかけた私を、黒い腕が抱えて走り出した。揺られる腹へ手を当てる。だめよ、揺らしたら赤ちゃんが……。
目を覚ました私は、大切なお腹をまず確認した。両手で包むように撫でて、傷や痛みがないことにほっとする。
「良かった」
「お願いがあります」
呟いた瞬間、死角になる頭の上で声が聞こえた。寝転がった状態だった私は首を動かし、座っている人影を見つける。黒い手足、白い獣耳、でも顔立ちは人だった。ファンタジーで見かける、獣人かしら。
「あなたのお腹の中の子を、見せてくれませんか」
「……どうして?」
この子が切り裂きジャック? 警備が厳重な大公家の屋敷に入り込んで、私の子を見たいなんて。すごく理由が気になった。
「探しているんです」
ほっそりした少年のような子は、ぽつりぽつりと語り出した。聞けば、今までの妊婦さんにも事情を話して協力してもらったらしい。途中から怪談のように伝わったが、本人了承の上での確認で安全も確保していたとか。
当事者の家族から話が外へ漏れたのかも知れない。他の妊婦さんが協力した経緯も気になった。普通は我が子優先だと思うの。8人もの妊婦さんが協力したなら、よほど安全だったのかしら。
「誰を探しているの?」
「僕の片割れです。双子として生まれるはずだった、僕の半分です」
話された内容は、とても興味深いものだった。なるほど、協力しても大丈夫な気がしてきたわ。
庭に飾られた聖獣の像に寄りかかり、クッションと毛布の間で欠伸をした。アランのいる執務室が見える場所で、今日は珍しく誰もいない。エルは仕事で呼び出され、アゼスとリディは近隣国との会議があるんですって。
「まま、これ」
何かを捕まえたみたい。左右に揺れる不安定な状態のアリスを、侍女達がサポートする。この辺はお任せしている。転んでも経験だし、ちゃんと歩けたらそれも大切な体験だから。
「何? 見せて」
ぱっと手を広げたアリスは、首を傾げた。どうやら捕まえたものが逃げたみたい。半泣きになって、小さな虫の説明を始めた。蟻かしら? 知っている生き物で近いのは、蟻のような気がする。
「泣かないで。また見つけたら見せてちょうだい」
こくんと頷き、アリスはまた虫探しに歩き出す。揺れる幼児の歩き方は、どうやってバランスを取っているのか。意外と転ばないものだ。見送った私は、再び聖獣の像に寄りかかった。最近はお腹が苦しくて、やや反り返っている方が楽なのよ。体重を預けた像の上に、ふっと影がかかった。
「っ!」
叫ぼうとした私の口を、黒い手が塞ぐ。甘い匂いがする。くらりと倒れかけた私を、黒い腕が抱えて走り出した。揺られる腹へ手を当てる。だめよ、揺らしたら赤ちゃんが……。
目を覚ました私は、大切なお腹をまず確認した。両手で包むように撫でて、傷や痛みがないことにほっとする。
「良かった」
「お願いがあります」
呟いた瞬間、死角になる頭の上で声が聞こえた。寝転がった状態だった私は首を動かし、座っている人影を見つける。黒い手足、白い獣耳、でも顔立ちは人だった。ファンタジーで見かける、獣人かしら。
「あなたのお腹の中の子を、見せてくれませんか」
「……どうして?」
この子が切り裂きジャック? 警備が厳重な大公家の屋敷に入り込んで、私の子を見たいなんて。すごく理由が気になった。
「探しているんです」
ほっそりした少年のような子は、ぽつりぽつりと語り出した。聞けば、今までの妊婦さんにも事情を話して協力してもらったらしい。途中から怪談のように伝わったが、本人了承の上での確認で安全も確保していたとか。
当事者の家族から話が外へ漏れたのかも知れない。他の妊婦さんが協力した経緯も気になった。普通は我が子優先だと思うの。8人もの妊婦さんが協力したなら、よほど安全だったのかしら。
「誰を探しているの?」
「僕の片割れです。双子として生まれるはずだった、僕の半分です」
話された内容は、とても興味深いものだった。なるほど、協力しても大丈夫な気がしてきたわ。
43
お気に入りに追加
2,246
あなたにおすすめの小説
転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~
柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。
想像と、違ったんだけど?神様!
寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。
神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗
もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。
とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗
いくぞ、「【【オー❗】】」
誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。
「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。
コメントをくれた方にはお返事します。
こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。
2日に1回更新しています。(予定によって変更あり)
小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。
少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_
【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~
大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア
8さいの時、急に現れた義母に義姉。
あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。
侯爵家の娘なのに、使用人扱い。
お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。
義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする……
このままじゃ先の人生詰んでる。
私には
前世では25歳まで生きてた記憶がある!
義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから!
義母達にスカッとざまぁしたり
冒険の旅に出たり
主人公が妖精の愛し子だったり。
竜王の番だったり。
色々な無自覚チート能力発揮します。
竜王様との溺愛は後半第二章からになります。
※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。
※後半イチャイチャ多めです♡
※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
もふもふ精霊騎士団のトリマーになりました
深凪雪花
ファンタジー
トリマーとして働く貧乏伯爵令嬢レジーナは、ある日仕事をクビになる。意気消沈して帰宅すると、しかし精霊騎士である兄のクリフから精霊騎士団の専属トリマーにならないかという誘いの手紙が届いていて、引き受けることに。
レジーナが配属されたのは、八つある隊のうちの八虹隊という五人が所属する隊。しかし、八虹隊というのは実はまだ精霊と契約を結べずにいる、いわゆる落ちこぼれ精霊騎士が集められた隊で……?
個性豊かな仲間に囲まれながら送る日常のお話。
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」
探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。
探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼!
単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
実は彼女は人間ではなく――その正体は。
チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる