83 / 100
83.今晩は一緒に寝ようね
しおりを挟む
「こんなに幸せでいいのかなぁ」
「幸せになってやると仰ったのは、あなたですよ。サラ」
私の銀髪を撫でながら、アランが優しい目を向ける。この世界に来て、どのくらい経ったんだろう。最初は数えていた気もするけど、もう忘れちゃった。5歳に近い幼女姿で召喚されて、リディとアランに拾われたの。もう昔のことだよね。
「そうだっけ?」
「ええ」
アランが言うなら間違い無いんだろうな。ぼんやりとそう思いながら、膝枕してくれる彼の温かさに目を閉じた。すごく時間をかけてゆっくり、ゆっくり成長する。そんな時間の流れや体がもどかしい時期もあった。今になればいい思い出よね。
「サラ、エルが来ていますよ」
「ほんと? じゃあリディやアゼスは?」
「明日ですね」
明日か。そう思ったこの声も筒抜けだから、もしかしたら今夜来ちゃうかも。
「あの二人は過保護ですから」
「アランだって、人のこと言えないわよ」
ごろんと寝返りを打って笑う。エルが来たなら顔を見たい。起き上がって、ベッドを降りた。アランは慣れた様子で私に手を差し伸べる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
かつては頭の上まで手を伸ばさないと繋げなかったけど、今は彼の肩の位置に私の頭が届く。私だけ背伸びしてもキスは届かないけど、アランが少し屈んでくれたら重なる距離になった。
巨大なドラゴンに会いに行ったり、気候変動で女神様に助けを求めたり。思い返すと色々なことがあったな。たくさんのことがあり過ぎて、思い出がスペクタル映画みたいだけど。
「まだまだ一緒に多くの時間を過ごすのに、まるで明日人生が終わるみたいな感想ですね」
くすくすと笑うアランに腕を絡めて、私は甘えるように体重をかけた。平然とした顔で私を抱き上げちゃう彼は、昔も今も甘い言葉をくれる。
「愛していますよ、サラ」
「私も大好き」
愛してるはまだ恥ずかしいから、明日の結婚式で解禁にしよう。それまであと1日だけ封印ね。額にキスをもらった私を抱っこして、アランは足早に廊下を進む。彼の心が読めなくても分かるわ。
エルに自慢したいんでしょ? こうやって抱っこするのは、いつの間にかアランの特権になっちゃったから。今でも獣姿なら抱っこされたり背中に乗ったりもする。だけど、ヤキモチ焼きのアランのために、人の姿で抱っこされるのは禁止にしたの。
「あ! サラ、と……アラン」
嫌そうにアランの名前を付け加えたエルは、兄として振る舞おうとしてるけど、弟ポジションかな。アランの首に回した手を解いて、降ろしてと合図する。笑顔でスルーしようとしたアランの頬を突いた。
「降ろして」
言葉にされたらアランも無視できない。するりと滑り降りた私は、久しぶりのエルに抱き着いた。ぼふんと熊に戻るあたり、本当に律儀よね。前にエルのまま抱きついたら、そのあと大喧嘩だったもの。
「明日の予定だったけど、アゼスとリディが来るって」
エルが口にした直後、大公城の中庭は騒がしくなった。到着したのね。
「アゼスとリディも来たわ。今晩は皆で一緒に寝ましょう」
「我が婚約者の仰せのままに」
明日の夜はあなたと二人なんだから、今晩は我慢してね……アラン。
*********************
明日で最終話になります。その後外伝を少し追加して終わる予定です。
「幸せになってやると仰ったのは、あなたですよ。サラ」
私の銀髪を撫でながら、アランが優しい目を向ける。この世界に来て、どのくらい経ったんだろう。最初は数えていた気もするけど、もう忘れちゃった。5歳に近い幼女姿で召喚されて、リディとアランに拾われたの。もう昔のことだよね。
「そうだっけ?」
「ええ」
アランが言うなら間違い無いんだろうな。ぼんやりとそう思いながら、膝枕してくれる彼の温かさに目を閉じた。すごく時間をかけてゆっくり、ゆっくり成長する。そんな時間の流れや体がもどかしい時期もあった。今になればいい思い出よね。
「サラ、エルが来ていますよ」
「ほんと? じゃあリディやアゼスは?」
「明日ですね」
明日か。そう思ったこの声も筒抜けだから、もしかしたら今夜来ちゃうかも。
「あの二人は過保護ですから」
「アランだって、人のこと言えないわよ」
ごろんと寝返りを打って笑う。エルが来たなら顔を見たい。起き上がって、ベッドを降りた。アランは慣れた様子で私に手を差し伸べる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
かつては頭の上まで手を伸ばさないと繋げなかったけど、今は彼の肩の位置に私の頭が届く。私だけ背伸びしてもキスは届かないけど、アランが少し屈んでくれたら重なる距離になった。
巨大なドラゴンに会いに行ったり、気候変動で女神様に助けを求めたり。思い返すと色々なことがあったな。たくさんのことがあり過ぎて、思い出がスペクタル映画みたいだけど。
「まだまだ一緒に多くの時間を過ごすのに、まるで明日人生が終わるみたいな感想ですね」
くすくすと笑うアランに腕を絡めて、私は甘えるように体重をかけた。平然とした顔で私を抱き上げちゃう彼は、昔も今も甘い言葉をくれる。
「愛していますよ、サラ」
「私も大好き」
愛してるはまだ恥ずかしいから、明日の結婚式で解禁にしよう。それまであと1日だけ封印ね。額にキスをもらった私を抱っこして、アランは足早に廊下を進む。彼の心が読めなくても分かるわ。
エルに自慢したいんでしょ? こうやって抱っこするのは、いつの間にかアランの特権になっちゃったから。今でも獣姿なら抱っこされたり背中に乗ったりもする。だけど、ヤキモチ焼きのアランのために、人の姿で抱っこされるのは禁止にしたの。
「あ! サラ、と……アラン」
嫌そうにアランの名前を付け加えたエルは、兄として振る舞おうとしてるけど、弟ポジションかな。アランの首に回した手を解いて、降ろしてと合図する。笑顔でスルーしようとしたアランの頬を突いた。
「降ろして」
言葉にされたらアランも無視できない。するりと滑り降りた私は、久しぶりのエルに抱き着いた。ぼふんと熊に戻るあたり、本当に律儀よね。前にエルのまま抱きついたら、そのあと大喧嘩だったもの。
「明日の予定だったけど、アゼスとリディが来るって」
エルが口にした直後、大公城の中庭は騒がしくなった。到着したのね。
「アゼスとリディも来たわ。今晩は皆で一緒に寝ましょう」
「我が婚約者の仰せのままに」
明日の夜はあなたと二人なんだから、今晩は我慢してね……アラン。
*********************
明日で最終話になります。その後外伝を少し追加して終わる予定です。
159
あなたにおすすめの小説
【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。
「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」
すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。
最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2022/02/14 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2022/02/13 小説家になろう ハイファンタジー日間59位
※2022/02/12 完結
※2021/10/18 エブリスタ、ファンタジー 1位
※2021/10/19 アルファポリス、HOT 4位
※2021/10/21 小説家になろう ハイファンタジー日間 17位
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様
岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです
【あらすじ】
カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。
聖女の名前はアメリア・フィンドラル。
国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。
「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」
そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。
婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。
ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。
そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。
これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。
やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。
〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。
一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。
普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。
だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。
カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。
些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる