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78.聖女vs聖女を名乗る異世界人
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エルはさっさと転移で移動する。熊姿のままなのが不思議だけど、アゼスは大鷲になって私とリディを乗せてくれた。これまたリディも尻尾を揺らす狐姿、掴まりにくくないのかしらね。
「魔法があるから平気よ。きゃっ、サラちゃんに心配されちゃったわ」
なぜか喜んでる。まあいいや、アランはどうしてるのかな。羽ばたく皇帝陛下は、臣下や騎士団のお見送りに応えて一周回り、方向を北へとった。アランが治めるロメリア大公国は、雪が降る地方なんだよね。それもどか雪、冬は氷柱を取りに行ったし。湿気が多いから避暑はイマイチだけど、山の上にあった別荘は涼しかったな。
思い出している間に到着した。アゼスの声掛けで、しっかり手綱を握る。いつも思うんだけど、皇帝陛下が手綱を咥えてるのって問題ないの? ぐんと急降下したアゼスが、庭のど真ん中に着陸した。
庭の花がぶわっと散って舞い上がり、花びらのシャワーが降る。すごい! お花には可哀想だけど綺麗だわ。後で庭師の人にお詫びをしなくちゃね。
体を傾けたアゼスの羽を滑り降り、隣に降り立った巨大な化け狐のリディの全力頬擦りを受ける。すでに転移して待っていたエルが、大公城のテラスをぶち破って駆けてきた。
「エル! 壊しちゃだめよ」
「平気、後で直すから」
金持ちはこれだから、もう。溜め息ひとつで許す辺り、慣れちゃったのよね。アゼスもよく同じような失敗するし……ん? わざとだったりして。
「サラ、奴を呼び出すといいぞ」
話を逸らすようにアゼスが優しい声をかける。大きく息を吸い込んで、アランを呼ぼうとした私の上に女性の甲高い声が降ってきた。
「やだ! 何、この獣大きいわ。怖いっ、大公様」
見上げたテラスに、アランと女性が立っている。お化粧が派手だけど、美女ではないと思う。ちらっと隣でもふもふしている白狐を見つめた。リディのが美人だもんね。それにお胸もスタイルもリディのが上。ただ……アランの腕に胸を押し付けてるのは気に入らないわ。
乱暴にアランが女性を突き飛ばした。テラスの手すりをひらりと乗り越えて、二階からダイブする。聖獣だから心配しないけど、ちょっとカッコいいな。いや、許してないからね!
ぷんと横を向いた。
「サラ、仕事で離れることになっただけで、私の心はあなたの物です。もちろんこの身も、私が持つすべても」
国でも捧げますよ。心に響いたのは、甘い口説き文句のオンパレード。絆されそうになって、ちらりと目を向ける。
「ぐへっ」
「安心して、僕がやっつけるから」
エルがアランを踏みつけにしている。知らない人が見たら、茶色熊に襲われる大公閣下だった。
「きゃああ! なんてこと、誰かっ」
叫ぶ女性の声が耳障り。嫌だなと思ったら、声も姿も何もかも気に入らない。唇を尖らせてそっぽを向いた私に、エルを跳ね除けたアランが跪いた。
「きちんと説明させてください、サラ。我が最愛の聖女……」
「最愛ってことは、別にも聖女がいるんでしょ」
「いませんよ、今生最初で最後、私の命を捧げても惜しくない人ですから」
アランの口説き文句の途中なのに、階段を駆け降りた女性が悲鳴をあげた。
「何なの!? 私の大公様に触れないで! その子が原因ね」
私を女性が指差した。人を指差してはいけませんって、親に習わなかったの? 躾の悪い人ね。
「魔法があるから平気よ。きゃっ、サラちゃんに心配されちゃったわ」
なぜか喜んでる。まあいいや、アランはどうしてるのかな。羽ばたく皇帝陛下は、臣下や騎士団のお見送りに応えて一周回り、方向を北へとった。アランが治めるロメリア大公国は、雪が降る地方なんだよね。それもどか雪、冬は氷柱を取りに行ったし。湿気が多いから避暑はイマイチだけど、山の上にあった別荘は涼しかったな。
思い出している間に到着した。アゼスの声掛けで、しっかり手綱を握る。いつも思うんだけど、皇帝陛下が手綱を咥えてるのって問題ないの? ぐんと急降下したアゼスが、庭のど真ん中に着陸した。
庭の花がぶわっと散って舞い上がり、花びらのシャワーが降る。すごい! お花には可哀想だけど綺麗だわ。後で庭師の人にお詫びをしなくちゃね。
体を傾けたアゼスの羽を滑り降り、隣に降り立った巨大な化け狐のリディの全力頬擦りを受ける。すでに転移して待っていたエルが、大公城のテラスをぶち破って駆けてきた。
「エル! 壊しちゃだめよ」
「平気、後で直すから」
金持ちはこれだから、もう。溜め息ひとつで許す辺り、慣れちゃったのよね。アゼスもよく同じような失敗するし……ん? わざとだったりして。
「サラ、奴を呼び出すといいぞ」
話を逸らすようにアゼスが優しい声をかける。大きく息を吸い込んで、アランを呼ぼうとした私の上に女性の甲高い声が降ってきた。
「やだ! 何、この獣大きいわ。怖いっ、大公様」
見上げたテラスに、アランと女性が立っている。お化粧が派手だけど、美女ではないと思う。ちらっと隣でもふもふしている白狐を見つめた。リディのが美人だもんね。それにお胸もスタイルもリディのが上。ただ……アランの腕に胸を押し付けてるのは気に入らないわ。
乱暴にアランが女性を突き飛ばした。テラスの手すりをひらりと乗り越えて、二階からダイブする。聖獣だから心配しないけど、ちょっとカッコいいな。いや、許してないからね!
ぷんと横を向いた。
「サラ、仕事で離れることになっただけで、私の心はあなたの物です。もちろんこの身も、私が持つすべても」
国でも捧げますよ。心に響いたのは、甘い口説き文句のオンパレード。絆されそうになって、ちらりと目を向ける。
「ぐへっ」
「安心して、僕がやっつけるから」
エルがアランを踏みつけにしている。知らない人が見たら、茶色熊に襲われる大公閣下だった。
「きゃああ! なんてこと、誰かっ」
叫ぶ女性の声が耳障り。嫌だなと思ったら、声も姿も何もかも気に入らない。唇を尖らせてそっぽを向いた私に、エルを跳ね除けたアランが跪いた。
「きちんと説明させてください、サラ。我が最愛の聖女……」
「最愛ってことは、別にも聖女がいるんでしょ」
「いませんよ、今生最初で最後、私の命を捧げても惜しくない人ですから」
アランの口説き文句の途中なのに、階段を駆け降りた女性が悲鳴をあげた。
「何なの!? 私の大公様に触れないで! その子が原因ね」
私を女性が指差した。人を指差してはいけませんって、親に習わなかったの? 躾の悪い人ね。
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