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71.名付けセンスは残念な黒歴史

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 コウの名前の由来は「幸」を読み替えたもの。漢字という概念がないこの世界で、思い浮かべた文字は書き写されて保存されることになった。なんか、恥ずかしい。私が考えたわけじゃないのに、聖女様の文字と言われて信仰の対象にするのはやめてよ。

「コウの夫と子ども達にも名前が必要ですね」

 アランに促され、同じように漢字で考えることになった。幸福でひとつだから、旦那さんはフク。子ども達はどうしよう。女の子が1匹、男の子が2匹か。

 アンポンタンとかトンチンカンみたいに、語呂のいい名前ないかな。そうしたら忘れないと思うだよね。名付けのセンスはイマイチだと自覚してるけど、この世界の人には意味がわからないだろうし。変わった響きでも、異国から来た聖女の言葉として崇める対象になるから。特に問題ないはず。

「うーん」

 車や新幹線の名称、地名など思い浮かべては首を捻る。そうじゃないんだよね、違うんだ。そう呟きながら考えた。

「花や木の名前はどうかしら」

 言われて気づいたけど、国の名前が植物だった。数代前の聖女様が考えたとか。うん、間違いなく同じ世界だと思うわ。サルビア、ケイトウ、バーベナ、ロベリア……思いつく限りで、すべてお花だね。夏の花っぽいかも。

 違和感なく定着してるなら、私もそれで行こう。灰色の男の子はマツ、黒と灰色が混じった男の子はタケ、黒い女の子はウメ。松竹梅でおめでたい。

「マツとショウ、どっちがいいかな。タケよりチクの方がいい?」

「ショウの方がいいわね」

「チクならタケの方がいいと思う」

 バランス悪いけど、ショウ、タケ、ウメに決まった。農家みたいだけどいいよね。幸福も松竹梅もおめでたい言葉と伝えたら、いろいろと詳細を尋ねられた。知ってる範囲で答えておいたけど、まさかそれも後世に残すとか? 黒歴史になりそうだから、あまり話すのはやめよう。

 子狼の色が全部違ってて助かったわ。これでコウにそっくりの黒狼ばかりなら、どこで見分けたらいいか。

「あ、首輪を用意したのよ」

 思い出したとリディが手を叩き、侍女を呼んで運ばせる。立派な宝石箱から取り出されたのは、可愛らしいリボンだった。緑、青、赤で、子狼の分だけ。

「あれ? コウやフクは付けないの?」

「子狼はいいけど、コウとフクは狩りに出るから目印はまずいわ」

 リディの説明に「そうか」と納得する。鈴つけたら可愛いと思ったけど、外で狩りをするなら致命的だね。それに綺麗な色のリボンは、森の中で目立ちそう。どこかで枝に引っかかっても困るし。

「ショウ、タケ、ウメにリボンをつけてもいい?」

 コウに尋ねたら、ぐるると喉を鳴らす。目を細めた様子から大丈夫そうと判断した。子狼はしばらくお互いのリボンにちょっかいを出していたけど、すぐに慣れて無視してる。平気そうね。ショウが青、タケが緑、ウメは赤のリボンを首に巻いて走り回った。

「名付け、お疲れ様でした。一緒に休憩にしましょうか」

 アランが当然のように私を抱き上げると、周囲からブーイングが上がる。それをさらりと無視するあたり、本当に婚約者の座を狙ってるのかな? と顔を見上げた。

「もちろん、狙わない理由がないですよね」

 第一印象から決めてたら、変態だけどね。付け加えた私に、全員が笑い出した。一緒に笑ったけど、本当だったら笑えないわ。
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