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54.たくさんの贈り物に心弾む
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ケイトウ国が滅びた話を、皇帝陛下のお膝の上で聞いた。
宝物庫から持ち帰った宝飾品は、サルビア聖獣帝国とロメリア大公国で換金された。その金銭に多少の援助を付け、バーベナ領の食糧と一緒に元ケイトウ国の民へ返還される。その話を聞いて、私は嬉しくなった。
「じゃあ、あの国の人もご飯を食べられるようになるのね」
制裁の一環として輸出入を止めたことが気になっていた。国同士の決め事に口を挟む気はないが、日本での考え方なら援助したかった。もちろん、私にそれだけの財産があればの話だ。
「本当はね、もらったドレスを売って小麦を買って送ろうと思ったの」
驚いた顔をする4人に慌てて首を横に振る。
「でも貰ったものを、勝手に処分するのは失礼だし。私を思って選んでくれた服だから、いろいろ悩んでやめたけど」
「それで正解よ」
リディがほっとした顔で頷く。後ろに控えた侍女が一瞬青ざめて、すぐにほっとした顔になった。どうやら同僚の誰かが協力したのではないかと心配したようだ。悪いことを言ってしまった。反省しながら、アゼスの膝の上でエルの差し出したお菓子を食べる。
ここに来てから、動かないのに食べてばかりな気がした。太ったかな。気になって頬を摘んでみると、少し弛んでるような……。
「何言ってるのさ、小さいうちは食べても平気。すぐに成長の材料になって消費されちゃうからね」
うーん、それって太る人の言い訳みたいだけど。首を傾げる私は気付かなかった。アランがそっと廊下に消えて、エルやアゼスが気を引いていたから。リディもジュースのコップを差し出す。
「ゆっくり飲んでね」
「うん」
コップが大きすぎて、両手で掴んで飲む。万が一にも落とさないよう、アゼスが底を支えてくれた。薄めのジュースを飲み終えたところで、リディがコップを受け取る。
「これ、僕達からのプレゼント。ちゃんと取り返してきたよ」
エルがどうぞと包装された箱を取り出した。今の私が入っちゃいそうな箱は、綺麗な包装紙で包まれ、赤いリボンが巻かれている。リボンを解いて、包装紙を破かないよう外した。それを畳んでいると、エルが「もうっ!」と包装紙やリボンを取り上げる。
「包装紙の綺麗なのが好きならあげるから、箱を開けてよ!」
あ、ごめん。日本人はつい……包装紙を畳んで保管しちゃうのよね。全員じゃないと思うけど、私は貧乏性だから取っておいて使おうとしちゃうの。苦笑いして箱の蓋に手を伸ばす。ちらっと見たら、リディに「ダメでしょ」とエルが叱られていた。
別にダメじゃないよ。習慣なだけで、早く開けてほしい気持ちも分かるから。小さな手は滑らないけど、箱の蓋がうまく上がらない。苦戦した私を見かねて、後ろのアゼスが手を貸してくれた。
ぽっと間抜けな音がして箱が開く。白い薄紙に包まれた物に手を伸ばし、気づいた。
「これ……私、の?」
リュックだ! ケイトウ国で取られた私のリュック! 前の世界で山登り用に用意した荷物は、明るいオレンジ色だった。新品じゃないけど、大切に使い続けたリュックは、初めて山登りをする私に父が勧めてくれたもの。
どきどきしながらファスナーを開ける。水筒、もう食べられないお弁当、懐中電灯、ロープ、ナイフ、スマホ……日焼け止めやリップなど。懐かしい私物がごろごろ出てきた。
「見たことのないものばかりだな」
「へぇ、そうやって開けるんだね」
「これは何に使うのかしら」
興味津々の3人の声に顔を上げて、アランがいないことに驚く。ほぼ同時に、庭へ続くガラス扉が開いた。
「さあ、新しいボスですよ。ご挨拶をしなさい」
アランの声に顔を上げると、大きな黒い犬がいた。聖獣姿のアランより一回り小さいけど、大きな犬! 目を輝かせた私は、両手を広げていた。
「おいで!」
宝物庫から持ち帰った宝飾品は、サルビア聖獣帝国とロメリア大公国で換金された。その金銭に多少の援助を付け、バーベナ領の食糧と一緒に元ケイトウ国の民へ返還される。その話を聞いて、私は嬉しくなった。
「じゃあ、あの国の人もご飯を食べられるようになるのね」
制裁の一環として輸出入を止めたことが気になっていた。国同士の決め事に口を挟む気はないが、日本での考え方なら援助したかった。もちろん、私にそれだけの財産があればの話だ。
「本当はね、もらったドレスを売って小麦を買って送ろうと思ったの」
驚いた顔をする4人に慌てて首を横に振る。
「でも貰ったものを、勝手に処分するのは失礼だし。私を思って選んでくれた服だから、いろいろ悩んでやめたけど」
「それで正解よ」
リディがほっとした顔で頷く。後ろに控えた侍女が一瞬青ざめて、すぐにほっとした顔になった。どうやら同僚の誰かが協力したのではないかと心配したようだ。悪いことを言ってしまった。反省しながら、アゼスの膝の上でエルの差し出したお菓子を食べる。
ここに来てから、動かないのに食べてばかりな気がした。太ったかな。気になって頬を摘んでみると、少し弛んでるような……。
「何言ってるのさ、小さいうちは食べても平気。すぐに成長の材料になって消費されちゃうからね」
うーん、それって太る人の言い訳みたいだけど。首を傾げる私は気付かなかった。アランがそっと廊下に消えて、エルやアゼスが気を引いていたから。リディもジュースのコップを差し出す。
「ゆっくり飲んでね」
「うん」
コップが大きすぎて、両手で掴んで飲む。万が一にも落とさないよう、アゼスが底を支えてくれた。薄めのジュースを飲み終えたところで、リディがコップを受け取る。
「これ、僕達からのプレゼント。ちゃんと取り返してきたよ」
エルがどうぞと包装された箱を取り出した。今の私が入っちゃいそうな箱は、綺麗な包装紙で包まれ、赤いリボンが巻かれている。リボンを解いて、包装紙を破かないよう外した。それを畳んでいると、エルが「もうっ!」と包装紙やリボンを取り上げる。
「包装紙の綺麗なのが好きならあげるから、箱を開けてよ!」
あ、ごめん。日本人はつい……包装紙を畳んで保管しちゃうのよね。全員じゃないと思うけど、私は貧乏性だから取っておいて使おうとしちゃうの。苦笑いして箱の蓋に手を伸ばす。ちらっと見たら、リディに「ダメでしょ」とエルが叱られていた。
別にダメじゃないよ。習慣なだけで、早く開けてほしい気持ちも分かるから。小さな手は滑らないけど、箱の蓋がうまく上がらない。苦戦した私を見かねて、後ろのアゼスが手を貸してくれた。
ぽっと間抜けな音がして箱が開く。白い薄紙に包まれた物に手を伸ばし、気づいた。
「これ……私、の?」
リュックだ! ケイトウ国で取られた私のリュック! 前の世界で山登り用に用意した荷物は、明るいオレンジ色だった。新品じゃないけど、大切に使い続けたリュックは、初めて山登りをする私に父が勧めてくれたもの。
どきどきしながらファスナーを開ける。水筒、もう食べられないお弁当、懐中電灯、ロープ、ナイフ、スマホ……日焼け止めやリップなど。懐かしい私物がごろごろ出てきた。
「見たことのないものばかりだな」
「へぇ、そうやって開けるんだね」
「これは何に使うのかしら」
興味津々の3人の声に顔を上げて、アランがいないことに驚く。ほぼ同時に、庭へ続くガラス扉が開いた。
「さあ、新しいボスですよ。ご挨拶をしなさい」
アランの声に顔を上げると、大きな黒い犬がいた。聖獣姿のアランより一回り小さいけど、大きな犬! 目を輝かせた私は、両手を広げていた。
「おいで!」
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